第6話 幼馴染、事故!


「翔也さん、起きてください」

「あと5分……」

「分かりました」


 5分後にまたペトラが俺を起こしに来た。あと5分と言ったら本当に5分待ってくれる辺りが従順っぽいけど、はたしてそれでいいのかとも少し思った。未だ閉じそうな瞼を頑張って開け、そのまますぐ洗面所へ向かう。


「ふわぁ……」


 眠い、シンプルに眠い。自由を満喫する為に夜更かしをしてゲームに勤しむ。次の日が休みだからって気持ちが働き、限界まで挑戦した結果、時計はもうすぐで12時になろうとしていた。


「え……」

「あ、」


 洗面所のカーテンを開けたらそこにはオアシスが……じゃなくてピンク色の下着姿のペトラが居た。足元から食い入るように見ると、シミひとつない色白な身体。胸部の果実それなりに成長しており、俺の記憶の中のペトラとは違い、しっかりと女性として成長していることを認識する。


「あの……あまり長く見られると……その……」


 その理屈だと短いなら、短時間なら見ても良いって事なんですかね? そうなんですね? いや、違いますねごめんなさい。


「あ、ご……ごめん……」


 ペトラの言葉で我に返り、すぐにカーテンを閉めた。幼馴染のアレな成長に気を取られてしまって、不信感を抱かれたかもしれない。これからも2人で生活するならば不信感を抱かれるのは死活問題だろう。それに、今回の事をペトラが俺の親に報告したらどうなるだろうか? 間違いなく1人暮らしはやめさせられるし、強制送還されるだろう。それはまずい、非常にまずい。


「ペトラ、ごめんな……」


 とりあえずはカーテン越しの謝罪。謝って許される問題ではないかもしれないが、言い訳をするのであればこれは不慮の事故である。男女2人が生活しているこの空間、洗面所には鍵なんか付いていないし、こういったハプニングは起こりうるのだろう。

 カーテン越しに謝罪はしたものの、ペトラからの返事はなかった。ただ、着替えてるであろう衣擦れの音が聞こえて、これがなかなかどうしてエロいではないか。先ほどの下着姿の事もあり、想像してしまう、幼馴染で邪な想像をしてしまう……


「気にしないでください。翔也さんに悪気がないのは分かっていますから」

「ぺ、ペトラ……!」


 彼女のその温かい言葉に顔を上げると、そこには真っ白なはずの頬を朱色に染めたペトラが伏目がちにしていた。冷静でクール、そんな彼女が見せる恥ずかし気な表情……これがギャップ萌えと言うのだろうか。やっべ鼻血出そう。


「ご飯の用意はできてますから、早く食べてください」

「う、うん。分かった」


 そう言ってペトラはリビングへと早足で向かっていく。そんなペトラの後姿を見送ってから洗面所に入り顔を洗い始めた。リビングに行くとペトラがご飯の用意をしてくれていたが、まだ顔は赤くなっていた。


「きょ、今日はトーストなんだね……!」

「お気に召さなかったでしょうか?」

「そんなことはないよ。じゃあ食べようか!」


 いやぁ気まずい。普通に気まずいし会話ないし、むしろなんて話題作ればいいか分からないよなこれ。トーストを食べながら模索するも、妙案など思いつくはずもなかった。


「美味しいよ、ペトラ」

「ありがとうございます」

「う、うん……」


 気まず過ぎるこの雰囲気は耐えられないんですけど、身体中から変な汗が出てきたし、心臓に悪いよこの空気。


「翔也さんは、あまり女性のその……下着姿とかは見られないんですか?」

「は……?」

「いえ、ただの興味本位です。少しと言うか、かなり焦っていたので」

「そんな経験は……無いかなぁ」


 普通に答えたけど、これってなんの時間? なんの拷問の時間なの? 公開処刑にもほどがあるよね?


「そうなんですね。少し、安心しました」

「安心?」

「翔也さんが不埒な人じゃないと分かって、安心しました」


 不埒……不埒ですか……非常に難しい解釈だよねそれ。幸いに心の中を見られてないから良かったものの、人間の心が見れる世界線だったら確実にアウトだよね?

 事故って見ちゃってワンアウト、そのまま見ちゃってツーアウト、妄想しちゃってスリーアウトのチェンジじゃん。チェンジって意味わからないけど。


「後学の為にお聞きしますが、その……どうでしたか?」

「は?」

「だからその……私の下着姿は……どう、でしたか?」


 なにこの質問? 現在進行形で困惑中です。感想を言えと? 幼馴染の前で? 下着姿見てどうでしたかって? 言えるわけないじゃん! そんな事言えるはずないだろうが!


「よ……良かったです」


 ペトラさんは顔を真っ赤にしてらっしゃいます。トーストで顔を隠していますが、感想聞いてきたの君だよね? ってかなんか言ってよ! 俺だってクソ恥ずかしいし、いっそのこと誰か俺を殺してくれ……


「ありがとう、ございます」

「い、いえ……こちらこそ」


 ただの変態のやりとりだった。けど、とりあえずは大きな問題にならずに済みそうなのでそこは安心できた。だけど、これからの彼女との生活において不安要素はかなり増えてしまったのは言うまででもない。

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