第2話 幼馴染、ポンコツ!!

 やっとの思いで1人暮らしを始められると思った矢先の話だ。俺の新居にやってきたのは幼馴染のペトラだった。まだ初日だぞ!? 滞在時間なんか1時間も経ってないぞ!?


「翔也様は和室の方が良いですよね?」

「えっと……うん」

「なら、こちらの部屋は私が使わせて貰いますね」


 確かペトラと俺は2つ違いだから、俺が大学入学ってなると、今は高校2年生になるのか。それにしてはだいぶ落ち着きがあり、見た目こそは年相応に見えるが、立ち振る舞いはそれ以上に見えた。


「ってかペトラさ」

「はい、なんでしょうか?」

「日本語、すごく上手くなったね」


 イギリスで会っていた頃も全く話せなかった訳じゃなかったけど、当然カタコトの日本語だった。そんな記憶しかなかったもんだから、今のペトラの母国語ですよね? ってくらいスラスラと話せてる様には関心をしてしまった。


「勉強しました。いつか留学に、日本に来る為に、一生懸命」


「そっかそっか!」


 どんな事でも努力をした事はすごいし褒めるべきだろう。だから俺はついペトラの頭を撫でてしまった。そう、遥か昔の話、幼かったペトラに同じく幼かった俺がしていた様に。


「あの、翔也様……?」


「ん? あ、ごめん……」


 ペトラが恥ずかしげにこちらを見できたので我に返り、俺も咄嗟にペトラの頭から手を離した。気まずい、実に気まずい雰囲気を散らす為に各々の荷解きをしようと提案して、お互いに作業を進めていく。

 作業を進め始めて小一時間が経った頃に、俺の腹の虫が食べ物が欲しいと泣いてきた。思い返せば今日は朝は飲み物を飲んだくらいで何も腹に入れていなかった事に気がついた。


「ペトラはここまで来る途中に何か食べてきた?」

「いえ、飲み物を飲んだくらいで食べてはいません」

「そっか。実は俺もなんだけどさ、流石にお腹空いたからどこか食べに行かないか?」

「それでしたら、私がお作りします」

「え?」

「家事などは母から仕込まれていますので、ご安心を」

「いや、それはそれでありがたい申し入れではあるんだけどさ。ペトラだって飛行機とか電車使ってここまで来たんでしょ? なら疲れてるだろうし」

「お気遣いありがとうございます。でも問題ありません。少し待っていてください」

「は、はぁ」


 どこかに食べに行こうと誘ったのに、ペトラはそれを断って自分で作ると言ってきた。これからの生活、外食ばかりだとお金は減る一方なので自炊とかもしなきゃいけないとは思っていたが、今日くらいは許されるだろうと甘い考えは目の前の金髪少女に却下されてしまった。


「なんか、悪いね」

「いえ、これが私の仕事ですから」


 ペトラはそう言ってまた微笑んだ。まだ使用されてなくて真っ白なキッチンに立つ金髪メイドは映えていて、かなり風格があった。


「ちょっとベランダに行ってくるから、できたら呼んで」

「はい、分かりました」


 キッチンにいるペトラを置いてひとりベランダへと足を運ぶ。そのまま右ポケットに入れていたタバコを取りだして徐に咥えた。吸い込んだ紫煙をいろんな思い、感情を乗せて吐き出す。嫌な事があったりイライラした時は良くタバコに逃げていた。高校の時に初めて吸って、その時は涙が出るくらい咽せて、こんな物二度と吸うか!って思った記憶があるのに、今ではコレがないとおちつかない。


「翔也様、ご飯ができましたが」

「あ、もうできたんだ」


 ペトラにはかからない様に紫煙を吐き出して、携帯灰皿の中にタバコを押し込んだ。コレで消える訳はないけど、多少の誤魔化しとして香水を少し吹きかけてタバコの臭いを軽減させてから室内へと戻った。


「サンドイッチ、か」

「はい、もしかして苦手でしたか?」

「いや、むしろ好きな方だけど」


 イギリスにいた頃はよく母さんに作って貰っていたし、口馴染みはあった。ただ、普段作られたサンドイッチと比べると全体的に細い? いや、薄いと言った方が適切かもしれない。


「普段食べてた物と比べて薄いなって思ってさ」

「サンドイッチは本来、薄い方が上品とされてるんですよ」

「そうなんだ。でもペトラは良く知ってるね」

「サンドイッチの発祥はイギリスですから」

「あ、そうなんだね」


 そのあとはこれと言って会話は特になかった。お互いに黙々とサンドイッチを食べていた。沈黙が嫌だったのと、ずっと気になっていた事もあったので俺は口を開いた。


「ってかペトラ、それはなんなの?」

「それとはなんでしょうか?」

「いや、その服装だけど」

「クラシカルのメイド服です。サンドイッチの味は如何ですか?」

「めっちゃ美味しいよ! ってそうじゃなくて、なんでそんな格好なのかって聞いてるのこっちは!」

「お世話をするので、この服装の方が似合うかなと思いまして」

「家政婦だと確かにそーゆー服装だったりするけど、ココではそこまで仰々しくしなくてもいいから!」

「そうなんですね。ですが、そう言われても他の服も似た様な物ばかりで」


 食事が終わってからペトラの持ってきた荷物を確認した。服を出す時にピンクや水色の下着がチラッと見えたが、見なかった事にした。ってか少しは隠しながらとかしてくれよ!


「こんなもんですが」

「こんなもんって、全部メイド服じゃん」

「そうですね。でも、丈の長さは変えています」

「いや、そうじゃなくてね。日本じゃ私服にメイド服を着るようなもんじゃないんだよ」

「そうなんですか?」

「日本の勉強したんじゃないの……?」

「日本ではなく日本語です」


 優等生っぽく成長したと思っていたが、どうやら多少はポンコツ属性も持っていたらしい。普段着がメイド服なんて聞いた事ないし、比較的世間知らずの部類に入るだろう俺でも、コレが異常である事は理解できた。


「でもこれじゃあ外も歩けないよな」

「私は気にしません」

「いや、周りがすごい反応するから! コスプレなんじゃないかってくらい驚いちゃうから!」

「そうなんですか」

「よし、出かけよう」

「出かける、ですか?」

「うん、ペトラの服探し。久しぶりに会えたんだし、プレゼントするよ」

「いえ、それはいけません。自分の為の物は自分で買いますので」

「久しぶりに会ったんだから、これくらいさせてよ。成長したペトラへのお祝いって事でさ!」

「翔也様……」


 メイド服を着られて一緒に歩くのは勘弁な気持ちが多いが、久しぶりの再会を祝福したいって気持ちも当然あった。それでも、半ば強引なやり方ではあるが、ペトラの服選びをする為に俺達2人は街へ向けて歩き始めた。

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