最終話 他人に甘々な優しい天使が俺にだけ毒を吐いてくるんだが

 恋人になって数日後――


 放課後。俺たちは毒を吐く吐かれる時代によく訪れた喫茶店に来ていた。 

 もちろん、苺の愚痴を聞くためである。


「何よ急に夜に近づいちゃって。嫌な女たちね」

「いやぁ急にモテ期来ましたわ」

「……あ?」

「……マジでごめんなさい」


 付き合ってから、学校中で注目の的となってしまった。

 でもありがたいとことにほとんどの人は俺と苺の交際を好意的に思ってくれているらしい。

 

 どうやら、学校で苺の手を男らしく引いたことで、俺のファンが少なからずついたらしいのだ。

 正直デモが起こることも予想していたが、この展開は全く予想していなかった。


 ……平和な世の中である。


「……もしかして苺さん、嫉妬してます?」


 だからこそ、最近調子のいい俺は苺総隊長に対してそんなことが言えた。

 だが、何事も凍らせてしまいそうな目つきで負けじと俺を睨んでくる。


「あ、当たり前じゃない……彼女なんだから」

「……可愛いなこの野郎」

「……か、可愛いって言うな……ばか」


 だけど、昔ほどの攻撃力はなく、最近はこんな感じでたまにデレたりもする。

 正直に言おう。

 

 この苦みと甘さのバランス、最高である。

 俺の彼女、やっぱり超可愛い。


「ちょっといちごみるく飲ませて!」


 俺に許可を取る前に俺から強奪して、ぐびぐびと飲んでいく苺。

 いつも苦いものしか好まない苺が……珍しい。


「どうだ? 前みたいに甘々じゃないだろ?」

「……甘々よ! ばか!」


 え、えぇー!


 どういうわけか知らないけど、甘々らしい。

 頬をぷくーっと膨らませて抗議の視線を向けてくる苺を横目に、苺からこっそり奪ったコーヒーを一口飲む。



「案外いけるな、コーヒー」



 そう呟くと、苺は少し笑った。


「でしょ?」


 そう言う姿はやはり人間を超越した魅力を持っていて、やはり天使と言わざる負えない。

 そんな天使が俺の彼女だと思うと、やはりどこか信じられないけど、でもやっぱり幸せだ。



 たとえ天使が毒を吐こうが、やっぱり俺は、苺が好きなんだな。



「なぁ苺」

「ん?」

「好きだ」

「……ぷしゅー」


 苺の顔が真っ赤になって、頭から湯気が出る。

 その姿に腹を抱えて笑いつつ、この幸せな時間を噛みしめた。


 

 他人に甘々な優しい天使が俺にだけ毒を吐いてくるんだが、でもやっぱり――




 最高に可愛い。




                            

                                                                    完

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他人に甘々な優しい天使が俺にだけ毒を吐いてくるんだが 本町かまくら @mutukiiiti14

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