第14話 手を繋いで
「ほんと、ダメな奴だよ。お前は」
そう言うと、甘蜜はぽけっとした顔のまま俺のことを見つめてきた。
目の下は赤く腫れていて、今まで泣いていたんだなということが分かる。
「だけど、俺より人間ができてるのは間違いないな」
ここで自虐を投入。
ふっと笑って見せると、甘蜜もいつも通りの笑みを浮かべて、
「慰め? でもあなたに比較されている時点で侮辱よ」
「この状況でもブレない毒舌。それはもはや才能だな」
「それはどうも」
なんだよ。普通に会話できるじゃないか。
ひとまず俺は、甘蜜に手を差し伸べる。
「な、何?」
「まぁまぁ」
ここはあえて言わない。
甘蜜の性格はよくも悪くも真面目だから。
「……私と手を繋ぎたいってこと?」
上目づかいでそう聞いてくる甘蜜。
なるほど。確かに男子が甘蜜に惚れ惚れしてしまうのもよくわかる。
「じゃあそれでいい」
「じゃあって……まぁいいわ」
ため息をついて、諦めたように俺の手を握る甘蜜。
俺は一気に甘蜜の体を起こして、手を繋いだまま歩き始めた。
「ちょ、ど、どうしたの⁈」
「……あのさ」
甘蜜の手を引きながら、階段を下りていく。
あくまでも後ろは振り返らず、でも甘蜜にちゃんと聞こえるように言う。
「学校サボらね?」
「はぁ?」
そんな反応になるのもわからなくはない。っていうか当然の反応だ。
だが俺はそれでも歩みを止めず、甘蜜の手を引いていく。
そしてそのまま教室に入った。
「早く荷物持って来いよ」
「えっ、ちょ……ほんとどういうこと?」
「とにかく、荷物持ってきてくれ。行きたい場所がある」
「……わかったわ」
そう言う甘蜜だが、俺の手は決して離さなかった。
たぶん、心細いんだろう。甘蜜の手が少しだけ震えている。
俺たちは教室でも堂々と手を繋いだ。
もはや人の目なのどうでもいいと、この時の俺は思ったから。
たくさんの人から視線をもらった。だけど俺はひるまず、甘蜜の手を握る。
「持ったわよ」
「ん。じゃあ行くか」
二人して鞄を肩にかけて、静まり返った教室を突っ切る。
教室から出ようというところで、後ろから声が聞こえた。
「苺どこ行くの⁈」
確か……よく甘蜜に付きまとってる花って女子生徒だった気がする。
苗字は知らないけど。
「……どこ行くのよ」
小声でそう聞いてくる。
別にこいつの質問に答えてやる必要はない。
だけど一応のため、代わりに俺が答えじゃない答えを返した。
「今から俺と甘蜜は早退する。二人とも偶然体調不良だ」
「絶対嘘じゃん! っていうか、苺と仁神君……どういう関係?」
その言葉に、クラス中の関心が集まった。
それはきっとこの場にいる誰しもが気になっていることだと思う。
視線が回答者である俺にグッと集まる。
甘蜜は緊張からか、俺の手を強めに握る。
俺も強めに握り返して、言い放った。
「俺と甘蜜は、俺と苺は――幼馴染だ」
決め台詞のようにそう言って、教室を後にする。
早く行こう、あの場所に。
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