烈風「真田幸村戦記」(皇帝助村と真田十兵衞)9

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 華やかさの陰には、必ずある種のうら悲しさというものは、表裏一体のものとしてある物であった。

表は太陽だが、裏は月夜、長く尾を引いた影のように、いつまでも心を涙色の糸で縛って、湿らせてゆくものであった。

その呪縛に掛ったら、誰もが感傷の虜になってしまうものであった。

それは、真田十兵衛であっても例外ではなかった。

この世の「変化」を感じたりということは、「諸行無常」を思うことなのだ。

現世的に言えば、決して建設的ではない。

感傷にその身を縛られているときなのである。

そして、それは長い時間ではない。

誰にでもある思考のエアーポケットのようなものでもあった。

それの最大の原因は老いからくる。

若い者が太陽を見て、月影に思いをいたすということは先ずはない。

松の樹影は、年輪が価値になっていく。

十兵衞の年輪もまさしく価値を持っていたが、その代償もある。

それは、ふと思うことであろう。

 それはいつの間にかであった。

十兵衞の側にそっと寄り添う陰があった。

ケリーであった。

無言であった。

さりげなく掌と掌を静かに合わせてきた。

「ケリー・・・」

「はい・・・」

「倖せか?」

「はい」

「良かった・・・うん、本当に、よかった」

「あなた」

 ケリーが合わせた掌に力を込めてきた。

十兵衞も握り返していた。

「凄い国になったな・・・」

「はい。あなたや多くの人の力で建設されていったのです」

「そうだな。今も命掛けで仕事をしている者も居るだろう」

「はい」

「長い時間が掛ったが、ケリー、ハリー宮本一族で、やっと誰にも気兼ねしないで生活出来る、カナダという国が出来た。ケリーの長年の夢だった。自分の国が持てたな。良かった」

「ああ。なんという優しい言葉なの。私に真田十兵衞という夫を与えてくれた神様に、感謝をいたします」

「武蔵のことも、時には思い出してやれ」

「ああ。何と大きな人なのでしょう」

「当たり前だ。儂には兄であり師匠のような人であった。武蔵がいなかったら、儂はいなかった。すべて、縁(えにし)よ。武蔵との最初は、草原での武芸者同士の決闘だったのだ。強い。鬼神のように強かった・・・」

「しかし、あなたも負けなかった」

「そうだな。斬られる事が本望だった。止めに来た幸村様に、武蔵も儂も頬を殴られた。そして義弟になれと真田姓にさせられた。あんな曲芸のような人の使い方のできる人物は、もう出ない」

「だから、二人ともお札になっています」

「なるほど・・・」


                     *


 「美とスポーツの祭典」が終わった。

その鳳凰城の広間で十兵衞が、

「この平和を長く続けるために、鳳国の軍事面を根本的に改修する。今後、百年の計の構想です」

 と祭典の浮かれた気分が吹き飛ぶような厳しい言い方をして、一座を射竦めるように見回した。

「今後、鳳国の基本戦略は、十の空母打撃群と十の強襲打撃群で更生する。空母打撃群は、空母1、戦艦2、巡洋艦4、駆逐艦8、高速戦闘艇16、以上の31群である。これに完成すればだが、潜水艦4艦で35艦態勢にして、これが10群。潜水艦は目下は当てにしない方が良い。ここまででどうか。因みに空母艦載機は約百機弱である」

 白井賢房が発言した。

「はっきり申上げて、百機の艦載機を積んだ空母と戦艦2,巡洋艦4、駆逐艦8、高速戦闘艇16の空母打撃群に勝てる国は、目下何所にもありません。それが10群だなんて驚愕です」

「いま、白井提督が言ったのは目下である。儂は百年の計を考えて述べておる。空母打撃群だけでは勝利は出来ない。陸に誰が行く?」

「・・・」

 全員が無言になった。

「これに強襲揚陸艦群が別働隊で動く。旗艦は空母同様に全通甲板であるが、空母は自分で戰うことはないが、強襲揚陸艦は自ら武器を持つ。艦載機は、空母の半分から三分の二である。この船体には、戦車、装甲車、装甲戦闘車、自走砲、機動騎馬隊、工兵戦闘戦車などなどが入り、海兵隊もスターンのハッチからボートに乗ったまま海上に滑り降りる小隊以上の海兵が乗れるだろう。これに矢張り、全通の甲板の輸送船が海兵隊の兵員分だけの艦数が随伴することになる。これを護衛するために、戦艦(バトルシップ)2、巡洋艦(クルーザー)4、駆逐艦(デストロイアー)8、高速戦闘艇16で、つまり、輸送船の数が増減する。これに、両群とも水、燃料、食料、弾薬などの輸送船、先の輸送船は、艦載機を、二十機から三十機を乗せて、海兵隊の上陸の支援を大砲などと共に行なう。この両群で20打撃群となる。これが世界の海に乗り出す。戦いたくなる国はあるかね」

 一同が、

「ない!」

 と期せずして声を揃えた。

「勿論、陸軍は別の輸送船で出陣することになるのは、これまでと同じである。陸上の移動には鉄道が使える。以上だ。二個打撃群、三個打撃群と戦えるかなあ。両打撃群は、常に揃って攻撃する。負けるか? これで・・・」

「絶体に負けません!」

 白井賢房が言って、みんなが爆笑した。

「十年以内には、全部できるよ。三群でも大丈夫だろうが、儂は臆病だ。それで一杯造りたくなる。海、空、陸だ。攻められる方は容易じゃないぞ。儂なら、尻に帆を掛けて、とっとと逃げる。が、逃げようもないか」

 といったので大爆笑になった。

 皇帝が言った。

「十兵衞は天才である。真似しようと思わぬ方が良いぞ」

 といったので、また爆笑になった。

「国防のことである。確り、素早く作りたい。十兵衞、資金は腐るほどあるぞ。此処に掛ける資金は出し惜しみせぬ。実は、使って見たくて仕方が無かったんだ」

 と、皇帝がいったので、

また爆笑になった。

実は、戦艦も含めて、以下の船団は、今現在すでに在る船であるから、全て流用が効くのである。

新造は、空母(キャリアー)と新式の強襲揚陸艦と、これも新式の輸送船ぐらいなのである。

後は、飛行機に金が掛るぐらいである。

しかし三千機もあれば、あとは陸上の爆撃機ぐらいであろう。

それもすでに百機はすでに在る。

皇帝が思っているほどには掛らない。

しかし、小さな国ではとても手の出る金額ではなかった。

ヨーロッパ各国では、現在の鳳国の戦車やその他の兵器だけでも、とても製造出来る金額ではなかった。

そこに、やれ飛行機だの空母だのということになったら、大抵の国は破産して当然であった。

然し、鳳国では、小売部門の何ヶ月分かで足りて終うのであった。

しかも、他国に出て行く資金ではなかった。

すべて、自国で賄えるのである。

工場は国営である。

金は、何処にも出て行かないのである。

それで、これだけの兵器が作れてしまうのであった。

熟々、飛んでも無い国であった。

1号と2号の空母と、強襲揚陸艦と輸送船が完成した。

飛行機も、シベリアの工場で大量に作っていた。

艦載機がのって、空母と強襲揚陸艦と輸送船が進水して、テスト走行に這入った。

艦載機は、カタパルトではなく、レールの上を走って行く射出機発射なのであった。

着陸は、水の上の水上飛行機なのである。

船に戻すのは、クレーンで拾い揚げていくのであった。

空母の甲板よりも、水上の方が広いのは当たり前である。

着水したあとは、空母のクレーンの方に艦載機の方が寄っていけば済むことであった。

一番事故の少ない方式であった。

水上機は陸上にも着陸できるし、水上からも地上からも離陸できたので在る。

問題は射出時だけであった。

そして、空母の三十ノットの巡航速度が加わるので、離陸も問題はなかった。

そして、空母や強襲揚陸艦には、大砲以上の武器があった。

甲板から垂直に発射される長距離のミサイルで、砲弾の後ろにロケットまたはジェットが付いているもので、セルと呼ばれる垂直型の筒が、甲板の中に埋め込まれているのであった。

そして、蓋が閉まっているのである。

ロケットは、燃料を噴射したままで推進するが、ジェットは、噴射した排気を少量の燃料と混合して再利用するという違いがあった。

物凄い噴煙と炎を吹き出しだしながら、天空に上昇していくのである。

空母は後方甲板に32セルある。

1セルには、複数個の垂直発射型ミサイルが収納されているのである。

これを戦艦、巡洋艦にまで改装して付けることになったのである。

戦艦には、なんと前方甲板に64セル、後方甲板に、32セルがついたのである。

主砲の3列3段、後方2段を迫力があったので、見た目の威圧感のために残したが、現実的には、セルでの発射のミサイルの方が破壊力があったのである。

距離は、燃料次第で無限大(∞)といって良いほどに飛翔したのである。

飛行機を製造しているのはシベリアの工場で、10個所もあったのである。

造船はウラジオストクの他に、武龍の遼東半島と南洋のスラウエシ島で造船をしたのであった。

この時の飛行機、戦艦、空母、戦車等々の資料や図面が後代に役立ったのである。

そうでなければ、明治期に這入って、あれだけの短期間で、多数の軍艦、戦闘機、戦車等々が製造出来る訳がないのであった。

惜しいことに、それらの資料は全て、敗戦後、米軍に接収されてしまったのである。

中島飛行機や三井、三菱、石川島播磨重工等々にも、その資料や図面は渡っていたかもしれない。

繰り返すが、そうでなければ、明治期のあの短期間であれだけの兵器、武器は作れなかったであろう。

本題の物語に戻る。

空母四隻、強襲揚陸艦四隻の空母打撃群、強襲打撃群が、ジャワ湾に勢揃いしたのである。

一ブロックで62隻である。

計248隻の大艦隊が勢揃いした光景は、圧倒的な迫力であった。

鳳凰城の山の天守から見下ろすと、それは壮観であった。

皇帝、十兵衞、ケリー、助幸、信幸らが乗る空母、強襲揚陸艦の甲板には、艦載機がびっしりと並んで銀翼を光らせて眩しいほどであった。

「この62隻が10艦隊で、世界の海を巡回します。常時10艦隊と言うことは、30艦隊と言うことです。船の稼働率は三分の一です」

「む。十兵衞。儂もそれぐらいは承知して居る。散々、インドに帆船を売っているからな」

「でしたな。立派な悪徳商人ですな、殿下も」

「わお! 何と酷い事をってか、ははは・・・」

「然し、インドはまだ、あの帆船で稼いでますよ」

「それはいかん。もう、船の寿命ですよ。半数ずつ取り換えた方が良いと言ってやろう」

「あ、また商売する気だ。ははは」

「一回で66隻の帆船が売れる。計132隻ぞ。商売も大切じゃ」

「然り。然りでござる」

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