烈風「真田幸村戦記」(皇帝助村と真田十兵衞)10
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武吉は密かに動いていた。
インドの東側の東パキスタン(バングラデシュ)のマハラジャの何人かと交渉して、ベンガル地方東パキスタンとビルマの間を売るか貸すかして貰えないがと交渉して、九十九年間借りることに成功した。
それの代償として、帆船二隻と船に一杯の食料品を乗せて渡すことであった。
マハラジャは、半端な知識のままで交易をしようとしたのであったが、自力では帆船を操船することは出来ず、鳳国に泣き付いてきた。
そこで武吉は、
「帆船二隻のために、鳳国の船員を使う訳には行きません。他のマハラジャたちは、十二隻の帆船を買い、六隻を交易に使い、後の六隻は、メンテナンスのためにドックに這入っているのです。新艇の時は十二隻使えますが、一航海を見てみれば判ります。十二隻を一度に使えば、十二隻をドッグに入れなければ成りません。それよりも、六隻ずつ交代に使った方がベストですよ」
と船の使い方から説明をした。
他のマハラジャよりも欲張りで頭が悪かった。
「二隻は手元にあるので、後十隻を売ってくれ。それと船員を頼む」
「判りました。先に六隻、二隻ありますから、後四隻を造ります。次の航海用の六隻も造りますか? 造るのでしたら、船の取引は家と同じで前金です。商品はどうしますか?」
「仕入れも頼む。後四隻分だ」
というので、前の時と全く同じで、駆逐艦の護衛も付けた。
ブツブツいっていたが、一航海、終えて帰って来て、テーブルの上に売り上げの金貨の山を見せると、
「こんなに儲かるのか!」
と喜んだ。
「後五隻分ありますよ」
と金貨の山を六つにすると、
「嘘だろう」
と腰を抜かした。
「次の六隻を直ぐに交易に出したい!」
「判りました。商品を積んでお持ちいたします」
そのうえで、航海を終えた船を見せたものの見事に、塗装は剥げ、船底には貝や海草が付いていた。
切れかかっているロープや帆布も交換しなければならなかった。
それを見て大きく頷いた。
「それは直さない訳にはいかない」
「造船設備はありますか?」
「ない。何とかして欲しい」
「メンテナンス料はかかりますよ。前金でお願い致します」
金庫には飛んでも無い量の金貨が這入っている。
「判った。今後はすべて君の指導に従う」
武吉は(手間の掛る、マハラジャだ)と思ったが、小さな商いではない。
面倒を見るより仕方が無かった。
直ぐに部下三人を宛がって、
「良く面倒を見てくれ。大切なお客さまだ」
と教え込んだ。
こういう難かしい客を面倒見ていくうちに、一人前になって行くのであった。
武吉は次の段階に移ることにした。
東パキスタンに食料を運んで見たのである。
非常に小さな国なのに、人口は一億三千万人もいるのである。
しかもその国土は、ガンジス川が雨期になると、必ず氾濫して、国土は水浸しになってしまうのであった。
そのために、収穫が思うように行かなかった。
このガンジス川の治水を完全なものにしなければ、豊穣な実りは期待できなかった。
そのために、国民は常に飢えていた。
武吉は、食料支援のために、船に一杯の穀物を積んでいたのであった。
その話し合いのために、国王の下を訪れていた。
武吉を迎え入れた国王は、如何にも疲れた顔をしていた。
かなりの餓死者が出ている模様であった。
「これは失礼ながら、大変な状態になっているとお見受けいたしました」
「ご覧になった状態のままです。どうしたら良いのか・・・」
国王が、頭を抱えんばかりにしてそういった。
「解決の仕様がない」
そのように言う国王に、武吉か遠慮のないことを言った。
「まず、圧倒的に人口が多過ぎます。一億三千万人は、どうしようもなく多いですな。どこか信用の置ける国に、移民の策を取ったら如何ですか」
「引き受けてくれる国があるなら半分にしたい」
「でしょうなあ。六千万でも多いくらいです。しかし、七千万の移民を引き受けてくれる国は、そんなにあるとは思いません。次に大切なのは、国土が低すぎます。それなのに、ガンジス川やその他の川が多く、毎年洪水を起こしている。治水が何も出来ていない。小規模のため池をいろいろなところに造るべきです。治水を終えてから、次に国土全体をかさあげするべきです」
「それだけの工事と成ったら、莫大な資金が必要です」
「たった一つ助かる道があります。鳳国連邦に加盟することです。東南アジアの国々は、そうやって助かってきました。今、私が言ったことをすべて可能にしてくれるのは、鳳国だけでしょう」
「この国が助かるのでしたら、是非参加したい」
「皇帝に相談してみます」
と、いうので、武吉は国王に初めて、自分の鳳国に於ける立場を打ち明けた。
国王は大変に驚いて、改めて緊張して、
「ぜひ、東パキスタンが救われて、鳳国の傘下に入れるようにご尽力ください。このたびの食料支援には、心から感謝もうしあげます」
「判りました。この国の国土改造についてもお任せ願いますか?」
「はい。ただし、私どもには、それだけの大きな工事をやるだけの資金は、とてもありません」
「了解しています。どこかで、その事業の資金が捻出できると良いのですがね。それは良く考えてみましょう」
*
本部に戻った武吉は、皇帝、十兵衞、ケリー、信幸らの大幹部に、東パキスタンの悲惨な状況を報告した。
皇帝は、
「武吉は、インドの吝嗇で頭の悪いマハラジャに、木造帆船を売っているとばかり思って居たのに・・・」
といってから、
(何か飛んでも無い事を仕掛けてきたな)
と、思って、武吉の次の言葉を待った。
「はい。規定通りに十二隻の帆船を販売しましたが、皇帝の申されますように、嫌、吝嗇の上に、頭が悪い。貪欲で・・・この手の人物の仕事はあまりしたくないですな。しかし、どうにか仕事にはなりました。後は部下に任せてきました。三人置いてきましたが、勉強になるだろうと思います。ところで、東パキスタンだけではどうにもなりませんので、東パキスタンとビルマの間にあるベンガル地方なのですが、インドの飛び地で、その頭の悪いマハラジャが領有しているんです。飛び地ですから、実際には何も出来ません。そこを帆船二隻で、土地を租借してきました。九十九年間です」
「買ったのも同じだな」
「はい。そうしますと、東パキスタンと併せますと、このように倍の国に成ります」
と地図を見せた。
「なるほど。隣はビルマか。好都合だな」
「はい。しかし、問題が山積しております」
「金で、解決が付くのだろう? それが一番だ。その様に村公も言っていたそうだ。それで、シベリアとカザフスタンを買ったのだ。スケールは小さいが地の利が良い」
「はい。インドが商圏になってきましたので、間隣になります」
「そういうことだな。武吉も抜け目がないな」
「問題の一つ目ですが、人口です。貧困国は十中八、九は人口過剰です。この小さな所に一億三千万人います」
「何? それは幾ら食料支援をしても糠に釘だな」
「はい。それで、この人口を半分にする必要があります。七千万人の移民です。これを引き受けられる国があるでしょうか?」
「ある訳がない。世界は何処の国も食料不足なのだぞ。引き受けられるとしたら」
「鳳国しかございません。東シベリア、アラスカ、カナダ、アメリカ、ブラジル、ロシア、カザフスタンといった地域に、必要な分だけ引き取って貰いたいのですが」
「カナダで三千万人」
「アメリカで三千万人」
とケリーと大道寺孫三郎がいった。
「残りの千万人はシベリアで貰おう」
と、十兵衞が言った。
「これで、七千万の引き取り手が付いた。凄い国だ、鳳国は」
と、武吉が首を振った。
そして、後、二千万に位、減らさなくては成らないのですが」
「シベリアで取ろう。教育が大変だぞ。初めは無駄飯だろうが、その期間が大切なのだ」
「はい。やっと四千人で当たり前の国に成りました」
「つぎの問題は」
と、十兵衞が先を促した。
「はい。後は土木になります。第一期で、ガンジス川とブラフマプドラ川が、氾濫を起こします。これを防ぐためには、相当の数の溜め池(ダム)を造らなくてはなりません。一つの溜め池にすると危険ですので、十個所以上に造った方が、あとで後悔しません。第二期といいますか、一所にやった方が面倒がないのかも知れませんが、国全体が低地ですので、嵩上げした方が良いのです」
「土は何処から運ぶのだ?」
と、十兵衞が訊いた。
「はい。そのために、頭の悪いマハラジャから、帆船二隻に穀物を満載しまして、九十九年間、ベンガルの土地をかりました」
「悪だなあ。売ったのも一緒ではないか」
「契約書の裏面には双方に異存がない場合は、自動延長で九十九年間現状を維持すると明記してあります。そちらもサイン済みです」
「ああ、ますます悪だ。いや、褒め言葉ぞ」
「はい。承知しております。で、ベンガルのメガラヤというのは、東パキスタンの直ぐ隣です。カシー山地というところがあります。この小高い山を一つ削り取れば、上手い具合に低地が嵩上げされます。表土は取って置いて、後から耕作の時に攪拌します。相当栄養がありますから。坂ですから、線路を引いて、トロッコを使えば、土をどんどん運び出せます。土を取った山も平らになりますから、東パキスタンの方から栄養のある土を運んで、攪拌すれば、山の方も綺麗な農地になります。同じように、平坦にいていけば、ベンガルと東パキスタンは、理想的な穀倉地帯になります。残った者たちも仕事はありませんから、工兵の手伝いで作業員になるでしょう。この時点で、土地は全て国有地にします。溜め池では、錦鯉とか鰻を飼うとかすれば面白いでしょう。東パキスタンは鳳国の傘下に這入りたいと、国王が申しておりました。以上です」
といってから、言い忘れたのか、
「東パキスタンには、良い造船所や港かたくさんつくれます。インドの木造帆船のメンテナンスは此処で出来ます」
「またまた。悪よのう。そこに海軍兵学校と船員学校を造って、インドから留学生を入れる魂胆であろう」
「判りましたか。同時にインドにも学校を造れば、生徒も集りやすいです。初等科を教えます。インドの西側のマハラジャたちも、船を欲しがっています。交易が遣りたいのです。交易をやっているマハラジャたちが、泥棒のように儲けているのを知っているのです。ですから船が欲しいのです。勿論、ヨーロッパでも船は造れますが、商品の仕入れから警護の駆逐艦、航海の後のメンテナンスで、ヨーロッパにまではいけませんから。それに船員もいません。ですから、鳳国に注文する他ないのです」
それまで武吉の話しを訊いていた皇帝が、
「それで、そのベンガル地方の土地を所有していたのは、その頭の悪いマハラジャであると言うわけなのだな」
「はい。本人にも訊きましたし、人も使って、徹底的に調べましたので、先ず間違いはありません」
「む。然し念には念を入れよう。仕事を始める前に、青柳千弥と高梨内記に、いまいちど領有権に関して、国王との関係を調べてくれ。武吉を信用していない、訳でないがな」
「懸命なご判断だと思います」
と、信幸が言った。
信幸の助言は常に適切であった。
インドにも国王がいるのだが、その権限は、殆どが各マハラジャに移譲されているというのがインドの実情であった。
しかし、国土となると話しは別の可能性があった。
青柳と髙梨が、インドの国王と面談して、件の土地のことを切り出した。
すると国王は、
「私は確かに国王ではあるが、私の持っている権限は実に小さなもの過ぎないのです。元々インドは、大変に多くの国に分国されていて、曲がりなりにも一つの国になったのは最近のことです。そんな訳で、各地方の権限は各マハラジャに任されているのです。ベンガル地方に付いても、例外ではありません。私は、インドの単なる冠に過ぎないのです。土地に付いても、ベンガル地方のようなインドの端の方の件については、その地方のマハラジャを押し除けて権限を発揮することは、残念ながら出来ないのです」
と言うのが国王の答えであった。
鳳国にとっては、好都合な事であった。
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