烈風「真田幸村戦記」(皇帝助村と真田十兵衞)6
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皇帝は、ヨーロッパとの交易を再開した。
しかし、今迄のように、相手の言う数量のまま販売することをしなくなった。
各国によって、販売量を制限したのであった。
「なぜ、いままでのようには、売ってくれないのか?」
「食料は、その年の天気によって左右される。ことしは豊作というわけではない。何事にも限界というものはある。ことしはここまでじゃ」
と、穀物の売り止めをされてしまったのである。
その分をトルコ、インド、パキスタンなどに売った。
ヨーロッパは俄然、飢餓状態に陥った。
牛肉も羊の肉もなかった。
どうすることも出来なかった。
「小麦、一袋六両なら出すが」
二回目の船にそう言った。
「六両というのは高い!」
「というのなら売らない。お上からその様に命令されている」
どうしようもないので、六両で買うほかはなかった。
当然、帰国後の値段も跳ね上がった。
困ったのは庶民であった。
物凄い物価の高騰であった。
普通に働いていたのでは生活出来なくなった。
街には、売春婦が倍になって、縄張り争いまでが勃発していた。
男は、炭鉱や長期間の漁船に乗る者が増えた。
物価は鰻上りで上がっていった。
そこに、鳳国の商船団が来て、一袋五両で売った。
群がるように買い手が殺到した。
すでに一両は上がっているのであった。
しかし、ヨーロッパの交易船よりも安いのである。
安い訳である。
古米であった。
しかし、庶民は少しでも安い方がありがたかった。
しかし、鳳国の船は一度しかこなかった。
ヨーロッパからの交易船は何度も来た。
六両なら必要な分だけ売って良いことになった。
皇帝助村はこうして、経済が武器であることを学んだ。
国が荒廃するのは、貨幣価値と食料事情だと言うことも学んだ。
普通の主婦や未婚の娘たちまでが、手っ取り早く金になる売春に手を染めていく課程までが、如実に判った。
国が荒れていくのである。
食料を売ったり絞ったりした。
(ただ売れば良いというものではないぞ)
牛の鼻面を持って引き回すように、売るとき売らないときと商売をした。
(経済は立派な武器になる)
食料を買うだけで、相手の国は疲弊しいていくのである。
しかも、食料は食べれば無くなってしまうのである。
そして必需品であった。
此処を握られていては戦いようがないのである。
地中海のリビア、チュニジア、アルジェリア、モロッコを商圏に組み入れていった。
彼らも飢えていた。
「売る場所はいくらでもある。ヨーロッパだけを考える必要はない。取引は現金だ。それ以外では売らないことだ。海だけではなく、陸の商戦隊を考えよ。トラックで商隊を組んで、護衛を付きで内陸部を顧客にしてはどうだ。アフガニスタン、タジキスタン、ウズベキスタン、チェコ、ハンガリー、ポーランド、オーストリアと海のない内陸部がある。そういう所に隊商として回っていけば、まだまだいくらでも売れるぞ。向こうは待っているのだ。これからの武器は、食料と経済力だ。結局は金のあるところが勝つ」
助村の考えは明快であった。
若いだけに切り替えも早かった。
多くのトラックによる隊商が組まれだ。
更に、トラックと小型商船による小売り部隊もどんどんつくられた。
インドなどでは、幾ら持っていっても商品が間に合わない程であった。
マハラジャのところには、食料品の他に珍品類を持って行かせた。
これも高価なものなのに飛ぶように売れた。
小売のトラックは二十万台、船も同数まで増えた。
「いいか。塵も積もれば山となるのだ。小銭を莫迦にしてはいけない。数字の始まりはなんだ? 一だろう。何事もそこから、始まるのだ。一を大切にしろ」
この助村の考え方は、家臣たちに猛烈に浸透していった。
ベラルーシやバルト三国のも小売を浸透させていった。
当然、小売の方が利益は大きいのであった。
陸と海や川での船の行商は、四十万台になっているのである。
毎日売っているのである。
その累計は飛んでも無い数字になっていった。
助村は外ばかりに眼を向けていたが、そうでは無く、国内にも小売を開始したのである。
一人で何もかにも造っている訳ではない。
肉も野菜も必要であった。
ここには、国内なので、店舗にして、多くの種類の商品をだして売り捌いた。
現代で言えば、スーパーとコンビニを増やしているような物であった。
(国内での商売を見落としていた)
というので、猛烈な勢いで店舗数を各国でやらせ始めた。
一番豊かなのは鳳国の国民たちであった。
そこに、小売店を猛烈な勢いで造っていったのである。
「儂は足下が見えていなかった。鳳国が一番豊かな国ではないか。これを全ての国にやらせよう」
と、各地域に猛烈に造っていったのである。
忽ち、何十万と言う数の小売店ができたのであった。
しかも、地域によって特産品が異なった。
それを持っていって、帰りは持って帰ってくるのである。
往復で儲かった。
「何のことはない。国内が一番よく売れるではないか」
と、自分で腹を抱えて大笑いをしてしまった。
しかも、国民からは大変に便利がられて、大喜びをされたのである。
見る間に、外国の売り上げを軽く追い抜いてしまったのである。
国内部と外国部に分けた。
ただ、驚かされたことには、十兵衞と武蔵が統治していたロシア、カザフスタン、シベリア、アラスカ、カナダには、すでにマーケットが完備していたのであった。
南米も同じであった。
それ以外の南洋、豪州、メキシコ、アフリカ、武龍には出来ていなかった。
「なんと、武蔵と十兵衞の統治能力は凄い」
改めて二人を尊敬したのであった。
しかし、小売店網が確立されると、多くの国民の間から大喜びの声が上がった。
その意味で言うと、日本は本当に文化程度の高い国であることが改めて理解出来たのであった。
大阪、名古屋、江戸は、庶民の力で日常の生活には困ることは殆どなかったのである。
しかし、隣の朝鮮には、一切手は出さなかった。
それが正解でもあった。
それ以外の国で小売店舗網を飛躍的に延ばしていったのである。
これらの商行為で、鳳国は巨額を稼ぐことが出来たのであった。
「飛んでも無いところに金鉱はあったのだ」
助村は側近の者たちに言った。
さらに助村は、木造の商船を何隻が造船して、それをインドのマハラジャに見せた。
帆船である。
この時代は帆船が普通であった。
ヨーロッパの船も、商船は帆船が主力で、水車は補助で回転させているのである。
水車が帆船の帆の抵抗に成ってしまうことかあった。
かといって、水車だけで長い航海を乗り切ることは出来なかった。
そのことも説明して、マハラジャに売り込みを掛けさせたのである。
「船を持っていれば、外国と交易が出来ますよ」
「うむ。確かに船は欲しい。しかしなあ・・・操船が出来ん」
「インドの方で操船が出来る様になるまでは、鳳国で責任を持って操船を引き受けますよ。それと、鳳国には海軍用の学校がありますから、入学希望者は留学させてください。確りと操船をお教えしますよ」
「それはありがたい。しかし、売る商品がない」
「それも、食料から雑貨まで、仕入れの商品は鳳国からお売りしますから、ご安心ください」
「そこまでやってくれるのならありがたい」
「船は船団でいかないと危ないですから、五、六隻は最初にお求めください」
「それはそうだな。単独では無理なのは判って居る。これで外国と貿易が出来るということか」
「はい」
「少し考えさせてくれ」
「結構ですよ。納得して購入して頂くのが、鳳国のやり方ですから。ただ、他のマハラジャの方も数名居られます。注文の早い方から造船に這入ります。船団を作るとなると、最低一年以上は掛ります。後からの方となると、船員の人数には限りがありますので、その辺りはご了承ください。特殊な技術ですので」
これは効いた。
売り込み団が帰国と同時に発注が来た。
帆船一隻の値段は大変なものである。
それが六隻注文が来た。
直ぐにマハラジャを造船所に案内した。
そして、一隻に使う木材の量を見せた。
「これだけ大変なことをやるので、発注時にお代の半金は頂戴いただかないと、造船には掛かれません」
「承知をした」
商売の王道であった。
造船所は、久し振りに活気が出た。
六隻を同時に造船していったのである。
しかし、図面もあるし、鉄船のように難しくはなかった。
職人も慣れていた。
見る間につくられていった。
完成した船団に、目一杯の小麦、コーン、大豆、生きたままの牛、羊、鶏、バナナ、マンゴー、蜜柑、林檎、牛蒡、人参、キャベツ、玉ネギ、ニンニク、スパイス類、銅製の鍋、フライパン、包丁、まな板、フォーク、スプーン、ナイフなどの雑貨類、衣服、布地、燭台、蝋燭、ペルシャの段通、虎の皮、鹿の革、羊の皮、黒檀のテーブルと椅子、木製のオモチャ、そして、乗馬用の馬、馬車を目一杯乗せた。
これをインドのマハラジャに見せた。
六隻である。
流石のマハラジャも目を丸くした。
それらの代金と船の残金、それと操船する船員の費用を支払わせた。
商売用の指導者を一隻に一人を付けたので、その費用も貰った。
後はインド側の商人が乗り込んだ。
「時に、スエズ運河を通るのでしょうが、アデン湾の辺りは海賊がゴロゴロいます。無防備でいったら良いカモにされますが。警護はどうしますか?」
「そこまで頭が回らなかった」
「通常、商船一隻につき一隻の駆逐艦の護衛船を付けますが」
「是非、頼む」
「往復の護衛となりますがよろしいですか」
というので、これの費用も前払いとなった。
しかし、商品を卸値で売ったので、価格表通りに売れば巨額の利益が出るはずであった。
しかも、商品は羽が生えたように売れるはずであった。
兎も角、一回目の商船団が帰帆してきた。
マハラジャの目の前に積まれた金貨の山に、
「うーん。交易というのはこんなに儲かるものか」
全ての商品は完売であった。
「驚いた」
と言うマハラジャに、
「それは一隻分の利益です。あと五隻分があります」
「なに?」
金貨の山が六つ積み上げられた。
「鳳国を敵にしますか? それとも友好国にしますか?」
「勿論、身内同然だ。さあ祝杯をあげよう」
と、大歓喜をした。
しかし、
「船は一航海したらメンテナンスが必要です。船底を見てください。貝殻や海草が付いているでしょう。あれでは船は走れません。造船所で除去して、船底や船体の塗料を塗り直しします。そうしないと、船は直ぐにボロボロになります、造船所はありますか?」
「ない」
「でしたら、鳳国の造船所を使いましょう」
「しかし、直ぐに次の船団を出したいが」
「常に六隻の船団を出したいのなら、十二隻の船が無いと無理です。船に詳しい人に聞いて下さい」
「判った。鳳国を信用している。思った通りにやってくれ。兎も角、休んではいられない。メンテナンスの間は、新艇六隻で航海に出る。新艇はないのか?」
「そう思って、六隻をご用意いたしてあります。全く同じ船です」
「流石は鳳国だな。見事だ。直ぐに航海の準備をしてくれ。商品も頼む」
と、十二隻の船が売れた。
商品がさらに六隻分が売れた。
「商品のご希望はありますか?」
「いや。前の通りで良い」
この話を他のマハラジャが聞きつけて、一気に十人のマハラジャが船の注問をしてきた。
前金で払ってきた。
先ず六隻ずつを渡して、六十隻分の商品を渡した。
勿論、現金取引きである。
操船の船員、指導員、護衛の駆逐艦六十隻である。
それらの諸費用も前金であった。
更に六十隻であるから、合計百三十二隻の木造帆船が売れたのであった。
これに、メンテナンス料が這い入った。
そして、スエズ運河の通行料が這入った。
護衛船の分も這入ったので、足すと百三十二隻分が足された。
凄い商売であった。
しかも、相手も笑いが止まらないほど儲けているのである。
これの総指揮は宮本武吉が当たり、勘定方は菅沼の部下の深井と坂口が当たった。
「造船所は天手古舞いです。メンテナンスが、常に六十六隻這入っています。駆逐艦の賃貸料が六十六隻です。帆船の船員料とロープ、帆布、塗料と這入ってきます。このところ暇だった船員、駆逐艦が六十六隻出て、凄い演習になっています。海軍兵学校の生徒も入れておりますから、良い訓練にもなっています。ヨーロッパも木造帆船で、インドの船ですから、鳳国に対するような警戒心はなく、安全に交易が出来ているようです。商品は飛ぶように売れております。インドのマハラジャも笑いが止まらないでしょう」
「頭は使い用だな。インドに船を売っただけだ」
と、皇帝助村は上機嫌で笑った。
「インドに木造帆船を売ってやれ」
と言ったのは何を隠そう助村自身だったのであった。
それが、こう言うとんでも無い結果を生んだのであった。
国外に小売の大店舗網を造り、巨大な利益を生み出し、国内にも国民から大喜びされた店舗網を作って、これも巨大な利益を生み出していた。
しかし、武蔵と十兵衞の統治する地域には、すでに市民の利便を図る店舗網は完備していたのであった。
(参考にするべきであった)
と助村は思った。
次に、助村が思ったのは、音楽、演劇、舞踊、美術、絵画、彫刻、陶芸であった。
鳳国は広い。
各地に独特のそうした音楽、舞踊、演劇、美術、文学の朗読を一堂に集めて、一大イベントを行なってみようと思い立った。
さらに、運動(スポーツ)の大会も併せて行ないたいので、これは鳳凰城の方がやりやすいと思って、その旨を書いた手紙を十兵衞に送った。
「大賛成である」
と言う返事が来て、シベリアの学園も積極的に応援、参加をしたいということだったので、南米、中南米の、ラテン音楽から、アフリカの音楽や舞踊、日本の猿楽、能楽に至るまで披露することで、鳳国の文化が国民に広がり、平和が来たと思わせることは必定であり、何よりも大切なことであると書かれた手紙が来た。
それと同時に、余談だが、蒸気機関車というものが出来た。
二本の鉄路の上を高速で走って行く。
すでにテスト走行を終えたので、シベリア横断鉄道と言うものを造ることにした。
ウラジオストクを始発として、運河と道路沿いに走らせて、カザフスタンを一応の終点とする。
国は、何らかの土木事業をしていないと活気に欠けてくるというのが、幸村公の遺訓である。
それを守って、この大事業を起こしたい。
近々にお目に掛りたく、大阪表にまかり越したく思っている。
「なんと・・・蒸気機関車でシベリア横断鉄道だと・・・」
その知らせを知った助村は、
「直ぐに会いたい」
と伝令を出した。
対して、十兵衞から、
「明後日には大阪に参ります」
という返事があった。
「何? 明後日・・・どうやったらシベリアのウラン・ウデから大阪に来られるのだ」
が、二日後に大阪城の上空に二羽の巨大な化鳥が、大きな音を響かせながら次第に舞い降りてくるではないか。
「な、何だ、あれは?・・・」
助村が近習の者たちに訊いたが、
「わ、判りません」
と、誰も答えられるものはいなかった。
やがて二羽の鳥は、大阪城の木津川に舞い降りた。
二羽は並んで河口の桟橋について大きな音を止めた。
中から、二人ずつの人間が降り立った。
一機からは、十兵衞とケリーが降りてきた。
もう一機からは、信幸と助幸が降りできた。
四人が大阪城に向かって手を振った。
主翼には四機のプロペラがついていた。
操縦してきたのは、ケリーと助幸であった。
「やれやれ。どうにか辿り付いたな。本当は半日でこられたのだがな。ちょっと距離があったからな。空中給油をしながら来たので、その支度に手間取った」
と、十兵衞がいった。
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