烈風「真田幸村戦記」(皇帝助村と真田十兵衞)7

    7


 大阪城の広間に陣取った十兵衞たちの説明を聞いても、助村はピンと来ないままであった。

十兵衞たちが乗ってきたのは飛行機というもので、海、湖、河川などにも着水出来るもので、水上飛行機というものであると説明を受けたが、

「判らん・・・」

 と、首を傾げるばかりであった。

「これは、学園の生徒たちが、研究員や職人たちと考えた傑作だ。彼奴らは勝手にやらせておくのが一番だな。各班が飛んでもないものを造ってくる。その中の一つだよ。飛行機は真面目なものの一つだけれどな。この間の狙撃銃だとか、面白いものも造ってくる。この空気中にはいろんなものがあるそうだ、その中の一つに気流というのがあって、更にその中には揚力というものがあるそうだ。その揚力に乗ってプロペラを回転させると推進力を得る。水の中と同じだよ。ただ、目には見えない。しかし、飛んでも無い速度が出る。大砲がどうのこうのと言っている間にだ。この飛行機が爆弾を抱えて、飛んで、目的地で落下させたら戦い用がないぞ」

「え?・・・十兵衞。そんな事を考えて居るのか?」

「考えて居るのかではなくて、現実に我々は、現にここに居る。あの飛行機に爆弾を乗せて飛べば良いだけだ。それを生徒たちが考えたって事でござるよ」

「ち、一寸待て、頭が混乱している。こんな武器が出たら。どうやっても飛行機の勝ちだ」

「殿下。現実にあるのです。まだまだ研究中だそうです。どうなることやら」

「十兵衞。降参だ。どんな大砲を持っている船でも、飛行機の上から爆弾を落下されたら、手も足も出ない」

「射出機というのを考えて居る研究班がいます。大砲のように撃つ。ただしレールだけです。それで、そのままその力で飛行機は発射します。これを戦艦に何機も付ける。船に乗せて運びますから、どこにでも行けます。滑走路はいらないのです。行き成り飛び出しますから。相手は参りますな。しかも、バルカン砲という機関銃を搭載します。これで空中から撃たれて爆弾です。勝ち目はありませんな。専用の戦艦を設計している奴がいます。この戦艦いや、航空母艦というそうですが、ここに百機くらい乗せるそうです。相当な都市一つが簡単に灰になりますよ」

「十兵衞。まさか・・・」

「カスピ海の沿岸で、それ用の造船所は完成しました。折角、設計したのだから、作れるようにはしてやろうと思っています。空母ともいいますが、それと戦艦、巡洋艦、駆逐艦、高速戦闘軍、強襲揚陸艦で空母打撃群を編成します」

「おい。誰か、水を持って来い・・・頭が痛くなってきた」

「儂も、答えがこんなに早く出てくるとは思っていませんでしたよ。研究学園都市を造ったら、何かは出るだろうなとは期待はしていましたが、飛んでも無いですな。若い連中の脳は柔らかい。驚愕しました」

 と、十兵衞がいうと、

「嘘です」

と、助幸がいった。

「ん?」

「皇帝。すべて、十兵衞殿が指導していたのです」

「あら・・・約束が違うでしょ」

 といったのはケリーであった。

「いや、ケリー。黒幕は十兵衞に決まっている。若い者だけで、こんなに手際良くできるものか。十兵衞の引退には何かあるなと思っていた。それが研究学園都市だという。凄い隠れ蓑よな。こんな途轍もないものを造って・・・嗚呼、恐ろしい。敵でなく良かったわ。何艦隊造る気だ?」

「五つ程・・・」

「なに?」

「これで世界は真に平和になります。言うことを効かない莫迦な国は消し去ります。百機に爆弾を落とされたら、何所でも言うことを効くでしょう。それが五艦隊で五百機です。世界は平和になります。それが研究学園都市の願いですから」

「ケリーたち三人は知っていたのか?」

「はい。別にカザフスタンを始め、平らなところには飛行場が出来ていますので、空軍と呼んで居ます。艦載機よりも大型の飛行機で、爆撃機という、一機で何百発もの爆弾を積んで飛べる飛行機が、百機はすでにあります」

「なに?・・・み、水を呉れ・・・」

「これは足が長いので、長い距離が飛べますので、どこへでも・・・」

「鳳国の領地内で、此処はと思う場所には飛行基地を造っておいた方が良いでしょう。同時に練習機を置いて、飛行学校を造って、飛行兵と整備兵を至急に養成したくては成らないでしょう。そうしなければ、幾ら飛行機が、あってもどうしようもないですから」

「なるほど、誰も空を飛んだ者などいないからな」

「殿下。そいうことなのです。宝の持ち腐れでは仕方がないですからな」

 と言った後で、助村が、

「時に、蒸気機関車のことを聞かなくてはならぬな」

 話題を切り変えた。

「模型を持って参りました」

 と、蒸気機関車を鉄路(レール)の上に乗せて、更に客車を繋いだ。

「船の動力と同じで、外燃機関ですが、タービンを省略して、蒸気を弾み車の動輪に当てて車輪を回転させます。レールの上ですので、容易に回転して走ります。動力車を二両、石炭車を二両、水の入ったタンク車を二両。客車を一六両牽引して、レールの上を走ります。従って、レールの敷設が大変ですが、これをシベリアを横断させて、ウラジオストクからカザフスタンのアスタナまで敷設します。運河や道路のことを考えたら、どうということはありません。民間用と軍用を考えました。戦車、戦闘装甲車、装甲車、自走砲、兵員、全てを運べます。ここまでが上手く行ったら、アスタナからウイグル経由で、敦煌、蘭州、オルドス、北京で、北京から遼寧省のハルピンに入り、ハルピンからウラジオストクに入ると、大陸大環状線に成ります。北京で二つに分岐して、武龍の沿岸を走って、大越のハノイに這入ります。ハノイから沿岸を通ってカンボジアに入り、鳳凰城で終点です」

「驚いた。確かに大陸大循環線である。しかも、鳳凰城まで行けるとは恐れ入った」

 皇帝の前には、地図が広げてあった。

「シベリア横断鉄道は、すべて四階建ての高架線で複線です。こうしてから、線路にお湯を流します。これで冬でも凍りません。レールロードの下は道路です。更にその下は住居です。一皆は、商店街、病院、学校、政府の公的機関、警察、娯楽施設、一部は住居、全てを集約します。列車は、特急、準急、各駅停車の鈍行です。もう、雨、風、雪、氷雪に悩まされないで、みんなが快適に生活できます。一挙何得になりますかね。工場や勤務先も近くなります。多分、全部は使わないでしょう。空いた部分は、馬小屋、戦車、戦闘装甲車、装甲車、自走砲、その他の格納庫になります。上は兵士の宿舎です。これが、北方特有の合理的な生活法だと思います」

「またまた。驚かされた。無駄がない」

「国民の識字率が上がりました。みんな日本語が読めます。そこで、印刷所で新聞を発行します。購読料は取ります。更に上水、お湯、下水、下水処理場を作って、浄化されたものを川に排水します。共同溝を動じに作って、上水、お湯、下水を、一括管理します。その時にガス管を、配管しておき、各戸の台所に引き、炊事に使えるようにします。電気の配線も通しておきます」

「電気だと? ガスは判らなくないが、電気とは何だ?」

「発電所で、石炭、石油などを使って蒸気を作り、タービンを回すと電気が発電します。それを変電所に送って電圧を調整します。家庭用でしたら百ワットで充分でしょう。これを電球を使って明かりを得ます。目下、電球の研究中です。勿論、電気もガスも有料です。各戸にメーターを取り付けて、毎月集金をします。各戸の収入は相当に上がって豊かになっています。すでに税金と年金は給料からの天引きです。それと、中虎、空虎は、共通の『紙幣』を使っていますので、金貨、銀貨、銅貨などは使っていません。造幣局で印刷したものを通貨として使っています。ダッカン紙幣なので。何時でも銀行で交換できます。銀行では、預金業務も行なっています」

「驚くことばかりだ」

「紙幣や預金、銀行などは、学園の経済学部の研究成果です」

「これは、我々も考えなくてはならないことぞ」

「もう一つ、必須のことがあります」

「なにか?」

「はい。消防の事でございます。消防署は、各所に一個所は必要なものでございます」

「確かに・・・今日は、十兵衞に色々なことを教わって、頭がクラクラいたすわ」

「はっ・・・余分なことを申上げて、誠に持って恐縮至極に存じ上げ申す。平にご堪忍の程を願い上げ申し上げます」

 十兵衞にも、死んだ武蔵にあった古武士の風格が空気として、十兵衞の体全体を押し包んでいた。

これは、他の者に真似の出来る物では無かった。

そしてケリーは、その雰囲気が堪らなく好きだったのである。

武蔵にもあった古武士の風格なのであった。

(十兵衞は唯一の鳳国の宝ぞ)

 と、皇帝も頭の下がる思いであった。

誰にも犯す事の出来ない空気感が漂っているのであった。

「もうしばらくは、大阪城にいてくれよ」

 皇帝が頼むようにいった。

「お言葉に甘えまして・・・」

 大阪城内には、十兵衛丸もあるのであった。

「しかし、失敗をしたわ・・・」

「何をでござりまするか。皇帝」

「研究学園都市は、この大阪にこそ造るべきであった」

「ならば、殿下。分校をお造りなされませ」

「なに、分校とな」

「はい。飛行機でしたら直ぐに、本校と往復が出来まする」

 十兵衞に言われて皇帝ははたと膝を打った。

「大阪城の近くにも、それなりの広い敷地はありますでしょう。必要な科目の専科や研究所をお造るになるのはいかがでござるか?」

「是非、そうしたい。先ずは敷地探しじゃ」

 というので、研究学園都市を構想し始めたのである。

偶然にも、大阪城に隣接した土地が空いていた。

すぐさま設計構想に這入った。

「それとじゃ。鉄道構想の中に日本が這入っていないが、無理かのう、四方海の島国だからのう。大陸と繋ぐのには、対馬から朝鮮に這入るのが楽だとは思う。その跡の敷地買収を考えるとな。如何にも鬱陶しい」

「殿下も、そう仰ると思いまして、北ルートを勘考いたしました」

 と、十兵衞が地図を広げた。

「ただいま。松井、内田の工兵が、津軽の竜飛岬から蝦夷の函館に海底水道を掘っております。これが、計画よりも早く進んでおります。蝦夷を縦断して稚内に行き、稚内から北蝦夷に這入ります。ここで宗谷海峡に当たりますが、隧道にするか橋にするかを考える必要があります。北蝦夷の北部の間宮海峡でしたら、冬場は歩いても渡れる近さなのです。ボギピから対岸の大陸まで船が通りますので、高架橋を架けます。渡ってしまえば、ハバロフスク経由で、ウラジオストクには簡単です。これでしたら、鬱陶しい国を経過することもありません。日本の本州に這入りましたら、太平洋沿いに仙台、江戸、名古屋、大阪です。ウラジオストクから北京までは、すでに鉄路があります。鳳凰城まで一本でいけます。あ、それと、大事なことがひとつ。ウラジオストクに造船所を造ります。空母は巨艦なので、カスピ海から出られません。外海にあって不凍港となりますと、ウラジオストクになります。付け足しですが」

「なるほど。そこまで考えてあったか」

「高架線にして湯を流せば、冬場でも凍ることはなく列車は通行できます。下は道路です。その下は、米蔵、金蔵、馬、牛の牧舎にも使えます。どうするかは若い者に研究させます。分校で考えてください」

「なるほど・・・北回りか。考えたのう」

 皇帝助村は「なるほど」を連発していた。

「分校を猛烈な早さで造れ」

 と、命じた。

「誰に・・・」

 近習の者が訊いた。

「松井、内田には弟子がいるだろう。仕事をさせろ」

「はっ!」

 と、廊下を走っていった。

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