烈風「真田幸村戦記」(皇帝助村と真田十兵衞)4
4
「これ以上、あなたをここに置いておいておく訳にはいかない」
と司祭に説得されて、覚法は正門から追い出されることになった。
門を一歩でたところで、銃声が二発した。
覚法がバネ仕掛けのように吹き飛ばされた。
直ぐに担架が出てきた。
手足と口の中に鉄棒を入れられて縛り上げられた。
そのまま衛士つきでカザフスタンまでトラックで運ばれてきた。
銃弾は見事に両足の太ももを貫いていた。
「覚法。久し振りよの」
「これでは喋れない」
と言う意味のことを言った。
「ビルマの隠れ家も殲滅した。もう誰も残って居ない。坊主が悪に走ると、本物の悪人になるというが、見本よの。半日で一本ずつ、手足の指を切って焼酎につけて塩を掛けていく。悲鳴を上げたら耳を削ぐ。次は鼻だ。もう一つの耳。だから悲鳴をあげるなよ。悪らしくな。切るところがなくなったら男根を切る。そして、鋸で・・・いやそのまえに手足二十本の爪を剥ぐ。痛いぞ。次は歯だ。一本宛抜く。それから少しずつ血を抜いて、飯の代わりにお前にのませる。頭の骨、頭蓋骨を鋸で切ってゆき、猿に脳みそを喰わせる」
「殺せ!」
「駄目だ。最後には両腕と両足を切って、瓶の中に入れておく」
「殺せ!」
「駄目だ。便所のように口の中に糞便を押し込む。」
「殺せ!」
「駄目だ。生き地獄をたっぷり味わって貰う」
そして、地下二階の牢獄の中でほぼ同じ事をした。
しかし、途中で死んだ。
猿に脳味噌を喰わせている時に死んだ。
国家反逆罪で東欧の道端に晒した。
それを見た東欧の人々は、顔を思わず背けた。
「恐い国だ」
と思わせるためであった。
「反逆罪と認定されたらこのようになる」
と、英語、仏語、スペイン語で書いた木札を立てた。
ヨーロッパの中が井戸の底のように静かになった。
*
久し振りで本部の大阪城に帰ってきて、幹部たちが顔を揃えた。
「わざわざ、皇帝がヨーロッパにまで出向いてくだされた。ありがたいことでござる」
と十兵衞言った。
お陰でヨーロッパが実に静かになった。
武龍も馬賊を討伐して平和を取り戻した。
「つくづく、武龍というのは難しい土地でござる」
十兵衞は経験者である。
信幸は無言で大きく頷いた。
「それをあの糞坊主は、こともあろうにヨーロッパと結託して、東西で火の手を挙げようとした。悪知恵に長けた坊主であった。それも退治出来た。清々としたわ」
十兵衞は、相当に嬉しかったのであろう。
呵々として笑った。
久し振りに明るい雰囲気に包まれた。
その場の顔触れを見ると、相当に幹部の顔触れが若返っていた。
それは決して悪いことではなかった、
「ここから先は、如何に若い人たちが頑張ってくれるかだな。鳳国の伝統を受け継いで、見事な鳳国を造り挙げてくれるかだな。冬丸の活躍を見てそう思った。これは実感だ。我ら年寄りは、一歩下がって若者の動きを厳しい目で見守っていきたい」
十兵衞が気負った風もなくいった。
(潮目が変わってきたのかな・・・)
と十兵衞は思った。
(儂の役割もそろそろだな)
と建設的に思った。
そして、それを現実的に言葉にした。
「どうかなあ・・・儂が一番上にいるというのをそろそろ終わりにしたいが」
その言葉にその場の一同が、
「えっ?」
と息を呑んだ。
ただ、信幸だけは驚きはしなかった。
「素晴らしい決断だ」
と讃えた。
「儂の目の黒いうちに次を作って置きたい。冬丸。儂の後をやれ。一大決心をすれば出来る。皇帝も若い。自らが先頭に立てる。その力が必要なのだ」
十兵衞の言葉に、助村皇帝の眼が今迄になく鋭く光るものを宿した。
そして、ついに言葉にした。
「今後は、儂自身が先頭にたって各国を引っ張っていきたい。みんな付いてきてくれるか!」
「おおーっ!」
と力強い声で答えた。
(儂はこの一言を待っていたのかも知れない)
十兵衞が、
「儂は死ぬ思いでこの言葉をいう・・・ケリー、儂と再婚してくれぬか。儂も一人では寂しい」
その場が水を打ったように静かになった。
やがて、ケリーが口を開いた。
「武蔵様もお相手が十兵衞様なら許してくださるでしょう。お受けします」
途端に場内に割れるような拍手が起こった。
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