烈風「真田幸村戦記」(皇帝助村と真田十兵衞)3
3
場所は何度も調べている。
ネパールとブータンの間のインド領であった。
周囲に人は殆どいない。
反対側インドというよりも、東パキスタンであった。
そちらにも軍勢を回して、逃げ道を塞いだ。
山の中腹に軍勢を十重、二十重に巻いた。
そのままじわじわと輪を縮めていった。
さすがに敵も勘づいた。
敵陣の動きがあわただしく成っていった。
切り込み隊は別働隊として、十数組でとうに敵陣の所まで来ていた。
投石機だけは、何台もバラして運び上げて、現場で素早く組み立てた。
先ず、火の点いた岩石を十数カ所から敵陣に投げ込んだ。
続いて、陶製の油玉を投げ込んだ。
さらに、火薬火矢を天空を被う勢いで打ち込んだ。
一気に敵陣内の炎が広がった。
さらに、油玉を十数カ所から投げ込んだ。
火の手は一気に燃え広がった。
火の点いた岩石を投げ込んだ。
火薬火矢を空が見えなくなる程、打ち込んだ。
大手門も搦めても二脚を立てて敵が火で絶えられなくなって、門が開くのを待っていた。
匍匐しているのは、ガトリング銃、ガトリング砲であった。
背中には日本刀を背負っていた。
さらに、これでもかと油玉を投げ込んだ。
敵陣は火炎地獄のはずであった。
凄い勢いで、炎が燃え上がっていた。
五万の人間がこのままでは完全に焼き殺される。
我慢にも限界が在る筈であった。
やがて、大手門が開いた。
背中に火が点いた敵兵は、叫び声を上げて飛び出してきた。
「撃てーっ!」
十兵衞の号令が響き亘った。
ガトリング砲とガトリング銃、迫撃砲が敵陣に撃ち込まれた。
「機関銃、撃て!」
さらに、逃れた者は匍匐している兵に狙撃されて吹き飛んだ。
搦めても状況は同じであった。
搦めてには村智がいて指揮を執っていた。
「虎をはなて!」
搦め手に伝令が走った。
檻から虎が放たれた。
大手門二百五十頭、搦め手二百五十頭が猛然と走り込んでいった。
敵陣内から悲鳴が上がった。
門から出てくると狙撃された。
「虎を、引き上げろ!・・・盾隊。一番大きな盾を二十人が前。二十人が屋根だ。一分の隙間も開けるな。二十隊で行け。小隊長、周囲の様子で下を決めろ。全員、付け剣!」
十兵衞の命令は直ぐに伝令によって搦め手にも伝わった。
こうるすと、二十枚の盾が一枚のガラスの壁になるのであった。
盾と盾が練結出来るよう、盾の上部と下部に連結出来るように金具が付いているのである。
屋根にするときの金具が付いていた。
しかも、支え用の棒が付けられるようになっていた。
実に機能的な盾であった。
屋根付くことで火の粉を避けられた。
しかも、銃口と付け剣出せる銃眼がすいているのである。
二十枚の盾の壁一列で、二十丁の銃剣付きの小銃隊が出来上がるのだ。
それが二十壁、向ってくるのである。
小銃も箱形弾倉で二十五発撃てるのである。
こんな壁に向ってこられたら、敵にとってこんな遣りにくい相手はいないだろう。
盾は機関銃の弾丸でも弾いてしまるのである。
それが、小銃二十丁で向って来るというのが盾隊なのである。
二十の壁でグイグイと押して来るのであった。
「盾三枚の班も入れ!」
これは五人一組で、一人の敵を盾三枚でグイグイ押し付くて、四人目が刺叉で喉を押さえ付けていく。
刺叉の内側はサメの歯のようになっている。
相手は身動きがとれない。
しかも、盾には銃剣、剣が付いている。
三本の銃剣の剣で三個所を刺されているのである。
鳳国軍の銃剣は実に長い。
当時の銃剣は、何所の国でも割と長い剣を使っていたのである。
それだけ銃が頼りにならないということでもあった。
一発撃っては掃除をしているのである。
その間に相手に攻め込まれてしまうと言うことがあったのである。
それで、実用的に長かったのである。
しかし、鳳軍の銃剣は、刀鍛冶が鍛錬した日本刀である。
斬れ味が違った。
相手の銃剣ごと斬ってしまうという凄さがあった。
その三本に刺されてしまうのである。
それだけで通常ならギブ・アップである。
しかし、五人目がいた。
短槍で足を払って倒した。
戦争で倒れたら敗北である。
五人目が鎧通しで、ずぶりと急所を一突きして終わりであった。
こんな合理的な肉弾戦はなかった。
相手が槍で突いても、防弾ガラスの盾は傷も付かなかった。
「よし。今だ。犬を放せ!」
五百頭の猛犬が放たれた。
犬は、犬鎧を着ている上に、三本の専門の槍を背負っていた。
虎の次は猛犬である。
燃えさかる陣中の方々で悲鳴が上がった。
どんな豪傑でも、虎だの犬とは戦ったことは無いだろう。
しかも、犬は鎧を付け、三本の槍を背負っているのである。
それは悲鳴も上がるだろう。
「頃はよし!・・・抜刀隊、斬り込むぞ!・・・行けえ! 南無弓矢八幡守護あらんことを」
十兵衛が抜刀して戦陣を走った。
予備にもう一本刀を背負っていた。
「おん大将に遅れまじ!」
と抜刀隊が十兵衞に続いた。
冬丸、綿貫数馬、高橋是高、小林勇、以下の武蔵十人衆、才蔵、佐助らの真田十勇士が、部下を引きて連れ、紅蓮の火焰の中を敵を求めて猛進してゆく。
十兵衞は数名を叩き斬ったところで、
「敵が少ない。しまった! 図られたぞ!五万の数ではないわ。糞坊主にまたしても。全員、退避!犬もだ。逃げろ!敵陣には火薬が仕込んであるぞ!」
十兵衞の一早い勘で、全員が陣外に避難した。
盾隊、五人組、犬をも犬笛を吹きまくって呼び戻した。
一兵の損傷もなく陣の外に出た。
「急いで陣から離れろ 」
十兵衞の指令が響いた。
全員が離れた五分に、陣内で大爆発が起こった。
陣の外にまで爆発は及ばなかった。
そのときにケリーがヨーロッパに向けて、数十羽の鳩を飛ばしていた。
カザフスタン、ロシア、西シベリアに伝令を送ったのであった。
「ん?・・・なんだ?」
十兵衞が訊いてきた。
周囲には当然人がいる。
ケリーは無言で、小片の紙を十兵衞に渡した。
「ベラルーシを中心に、東欧で反乱の兆し。怪僧により、東西で火の手をあげるべしの英文の手紙入手」
ケリーが、
「私の手の者からです。ハニートラップで英文を手に入れました」
と小声で素早く十兵衛に伝えた。
「あの糞坊主。絶体に捕まえる」
「西シベリアの兵を応援に入れましたベラルーシのガラスの家で、徹底抗戦をさせています。ガラスの家の農兵に加えて専門兵を入れました。火薬火矢の攻撃に、敵兵は愕然となったそうです。矢が体に刺さった後、火薬が炸裂。五体がバラバラに飛び散ったのを見て恐怖したとあります。なおも向かってくる者にも、火薬火矢を撃ち込んで、五体が飛び散るのを見せたところ、反乱は治まったようです」
「む。先ずは出来るところからだ」
十兵衞が厳しい声でいって、
「糞坊主の消息は?」
と周囲の者に訊いた。
「麓の方に向かって一師団近くが、騎馬で駆け下りて行ったと言う報告が入っています。先頭を走っているのは五条袈裟で、顔を被った僧形の者という報告が入っています」
「む。どうせ影武者だろうが、三師団で追え」
すると、
「機動騎馬隊で追う! 戦闘装甲車もそれなりにジグザグ走行で付いてこい!」
叫んで立ち上がったのは冬丸だった。
「えっ? この急勾配を機動騎馬隊で駆け下りて行くのは無理だろう」
十兵衞が吃驚した。
上がってくるのは何とか出来た。
しかし、下りとなったら命掛けであった。
が、五百騎の機動騎馬隊が冬丸の後に続いた。
戦闘装甲車も機動騎馬隊の後に続いた。
それは曲芸とも言える突っ走り方であった。
しかし、誰も転倒するもの者たちはいなかった。
チベットの山岳地帯を五百騎の機動騎馬隊が、猛然と駆け下っていく光景は、圧巻であった。
戦闘装甲車も、それなりにジグサグの経路を執りながら下っていった。
「何と言う奴らだ・・・」
十兵衞も肝を冷やした。
「義経の鵯越だぞ・・・」
瞬く間に逃げている馬賊に追い付いて、走りながらガトリング砲やガトリング銃で、銃撃を加えた。
突然の横合いからの攻撃に逃げている馬賊の方たちも仰天して、応戦の仕様がなかった。
ガトリング砲や銃で、騎馬ごと谷底に吹き飛ばされていった。
勝負は早かった。
五百騎の機動騎馬隊に、横合いから殴り込まれたのである。
バタバタと斃れていった。
生きている者は居ないのではないかと言う必殺の一撃であった。
五条袈裟の男をしとめだ。
しかし、坊主頭ではなかった。
黄色い狼煙を上げた。
騎馬隊は全滅させたかが、坊主は影武者であると言う合図であった。
それを見て十兵衞が、
「勝負が早いな・・・」
と呟いた所に伝令がきた。
「もう一隊がビルマの山岳地に遁走しております。五条袈裟を被った男がします」
「それも、影武者だろう。追うな・・・半分は武龍に残れ。馬賊とみたら殺せ。生きて捕まえた奴らを拷問に掛けろ。糞坊主、覚法が何所に隠れたかを聞き出せ」
拷問にかけた結果。
「覚法老師は、ヨーロッパに始めからいます。我々の隠れ家はビルマの山岳地です」
と吐いて失神した。
死ぬだろう。
報告を聞いた十兵衞は、足の速い小型トラックにの追って、
「五師団、付いてこい」
といって走り出した。
「行く先はカザフスタンだ。ヨーロッパを押さえる。ビルマの山岳地は残った者たちに任せる。二度と暴れられないように全滅しろ」
チベットの高原を狂ったように駈け下らせた。
その後を五師団が必死になって追った。
造ったばかりの弾丸道路を疾走した。
途中に兵站基地があった。
そこに飛び込むと、
「全員に飯を食わせろ」
と食事と休憩を与えた。
そこで隊列を組み直した。
歩兵は全員トラックに乗った。
一番遅れたのは騎兵隊であった。
五師団が揃うと、
「行くぞ」
と一声かけると、再度、小型トラックに乗って、弾丸道路をウイグル方向に突っ走っていった。
ふと気が付くと、同じトラックにケリーが乗っていた。
「ヨーロッパと言っても範囲が広い・・・」
「今、探させています。ヨーロッパの中でもアジア人は少ないです。まして、スキンヘッド(坊主頭)の者なら目立ちます。必ず探せるはずです」
「ヨーロッパの中のことはケリーには敵わない」
「大丈夫です。今、全力を挙げています。カザフに着く頃には、足取りは掴めているはずです」
「食わせ物の糞坊主だ。案外、宗教繋がりで、キリスト教の教会を隠れ家にしていないとも限らない」
「あ。十兵衞殿、それはあるかも・・・直ぐに連絡を取りましょう」
と、鳩を飛ばした。
後のことになるが、十兵衞の予感はピタリと的中した。
ドイツの修道院の中に隠れていたのである。
やがて、カザフスタンにはいった。
十兵衞たちを待っていたのは、なんと、助村皇帝だったのである。
「儂にも連絡は入った。東西で火の手を挙げる積もりだったのだ」
皇帝が十兵衞たちを迎えてそういった。
「東を十兵衛立ちがやっているのなら、儂は西をと思ってな。案ずるな。覚法が隠れている修道院は、ぐるりを我が手のものに取り囲ませてある。宗教施設だ。中には踏み込めぬが、一歩でも表にでたら、迷わずに狙撃しろといってある。両足を狙えとな。ふざけた糞坊主だ。一気には殺さぬ。じわじわと殺す。儂の趣味ではないがな」
「儂の趣味です。こんな生き物は瞬時に殺すのは勿体ない」
「十兵衛も面白いことを言うわ・・・確かにな・・・」
ドイツには十師団が入っていた
「しかし、話しは代わりますが、ここに居る冬丸の命知らずには驚きました。機動騎馬隊五百騎で、チベット高原の急な坂を鵯越えのように駈け下って行きました。相手も驚いたのでしょう。あっという間に一師団を殲滅しました」
「いや。シベリアの高原から見たら楽なものです」
「そうか。二代目武蔵とは、聞ていたが、飛んでもない事をするは」
「ドイツの政府には、覚法の事は掛け合っている。どうしても駄目なら、本意では無いが、修道院ごと吹き飛ばすといってある。そのうち返事が来るだろう」
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