「烈風真田幸村戦記(女帝編)」8

     八


 雪は皇帝としての本領を次第に発揮仕始めていた。

「私は、この場合、幸村だったら、どうしていただろう、と真剣に考えているだけです」

 と幹部たちに言った。

 雪は、時折、

「草臥れた」

といって、小部屋に籠もった。

そのときには、不思議にケリーを伴った。

その小部屋で何をしているのか、誰もが気になった。

武蔵も気にしていた。

ケリーは、皇帝と二人だけの時のことは、一切言わなかった。

ただ、

「皇帝というのは、大変なお仕事です。気の休まる時がないのでしょう」

 とだけ言った。

「む。ケリーの出来ることは、その気持ちを、ほぐしているのに、役だっているのか」

「はい。私が日本人でないということが、とても安心出来るようなのです」

「なるほど。壁の代わりだな」

「壁?」

「そうだよ。壁は何も言わないだろう」

「ああ、確かに・・・で、肩を揉んだりしているくらいなんですよ」

 といったが、嘘であった。

もっと、女らしい機能の部分も、やさしく、弄るように揉んでいたのであった。

雪には、それが堪らなく幸せな時間だったのである。

その、小部屋には、誰も近づくことを禁じられていて、その一角には見張りを立てていた。

雪の皇帝という、立場上、当然の警護であった。

そこの一角は、雪の個人的な空間で、寝室もあったのである。

皇帝の、計り知れない密室であった。

防音装置も施してあったし、天井裏にも、忍びさえ這入れないように工夫がしてあった。

淀が使った事の無いエリアだったのである。

雪とケリーしか、知らない秘密の部屋も在った。

そこは、地下になっていた。

そして、寝台の他に、洋風の風呂までが設備されてあった。

これは、九度山から職人をそっと呼んで造らせたもので、地下は、雪専用の納戸に繋がっていた。

その、地下室で行われていたことの切掛けは、朝鮮征伐のときに、コーヒーを雪が飲んでいるときに、何気なく、ケリーが、雪に肩を揉んだのが始まりだったのである。

雪は、その時の感触で、鳥肌がたつような感触を人生の経験で、初めて感じた。

喜悦の感触だったのである。

それは、ケリーからでなくては、感じられないものであった。

「ケリー。私と、こういう関係になったのは、嫌かい?」

「いえ。私も、女性同士で、こういう関係になったのは、初めてです。ただ・・・」

「ただ?・・・」

「はい。私には、武蔵という夫がいます」

「そうだね。これは、武蔵に対しての裏切りになるのだろうか? 武蔵とは、普通の夫婦関係を維持しておくれ。そうしないと、二人の関係が発覚してしまうから」

「はい。それは、心得ている積もりです。でも、私。自分でも、判りません。皇帝と、こうして、女性同士なのに・・・とても、愛しいのです」

「二人切りの時は、雪と呼んで」

「はい。雪様・・・」

「ああ・・・ケリー、愛しくて堪らない」

 二人は、どちらからともなく、接吻をしていった。

激しく、深い、接吻であった。

雪が、ケリーの豊満な乳房を愛撫していった。

ケリーの指が、雪の秘部を優しく愛撫していった。

「ああ・・・ケリー・・・もっと」

 と、声を出した。

どんなに大きな声を出しても、他に聞こえることはなかった。

ケリーの指が、雪の官能の奥行きの芯に響いていった。

雪の肌が、あわだっていった。

ケリーの指は、女性の外構の中で、もっとも鋭敏な突起部を構っていた。

それは、時には、膣よりも強く、響く部分なのであった。

そうした、女性の肉体の中での、特別な秘密であった。

男性は、得てして、挿入に依る摩擦の快感だけを求めて、事足りてしまうことの方が、多かったのであったが、女性同士だと、官能が、体のあらゆる部分に潜在しているのを女性だから、知っているのであった。

ケリーが、雪の肩を口唇と舌で、ゆっくりと舐め上げていった。

ながて、舌は、蛇が這うように、背中を舐めていった。

女は、そうしたところも、官能の一部なのである。

力強く触れては、快感が逃げてしまう。

微かな刺激が、肌から脳に伝わっていくのであった。

女同士だから判る、官能の秘密であった。

雪は、濡れている自分の体の中心が判った。

ケリーは、すかさず、指を官能の秘密の洞に差し入れた。

「ああ・・・響く」

 雪が喘ぎ声を上げた。

それは泣き声に聞こえなくもない。

頂点への予感を感じさせていた。

「欲しい・・・」

と、雪がねだった。

ケリーが、特性の両形(あいがた)と呼ばれる、張り形を特性のぬるぬるとした油を塗って、雪の女の最終的な秘密の穴に、ゆっくりと差し込んでいった。

「ああ・・・ケリーも来て・・・」

 雪に誘われて、張り形の反対側を自分で、膣に差し込んだ。

合い形と呼ばれる、二人用の張り形だったのである。

 やがて二人は果てた。

納得の行く、愛の行為であった。

入れたままで、死んだように仮眠した。


                 *


 雪とケリーというよりも、皇帝と中将に戻っていた。

二人の前に、地球儀が置いてあった。

「此処とここだと、思います」

 とケリーが、地球儀のある場所を指さいした。

それは大西洋の赤道で、三十度のところであった。

「近いです」

「確かに・・・西アフリカのセネガルとリベリアに兵站基地と城塞を置き、ブラジルのナダルとスリナムのパラマリポにも、兵站基地と城塞を築けば、緊急の支援基地になる。北アメリカのフロリダにも、兵站基地と城塞が必要だ」

「はい。地球儀を見れば、当然の戦略です」

「ケリー中将に、地球儀で説明されて、納得がいった」

「はい。それと、パナマ運河をまもるのに、エクアドルのキトに、兵站基地と城塞があれば、パナマとコロンビアの両方が見張れます」

「なるほど・・・」

「勿論、パナマ運河には、それなりの護衛が必要です。誰もが欲しがっている施設ですから。それはスエズ運河もシャムの運河も同様です。こんな便利な施設を出来る実力のある国など、鳳国以外には有りません。それだけに、他国は、この三つの運河が、欲しくてたまらないのです。隙があれば狙ってくるでしょう。一番危ないのは、スエズ運河だと思います。エジプトは、必ず何かしらの文句をつけてくるでしょう。そのためにも、地中海の紅海、アデン湾を確りと護衛する必要があります。圧倒的に、エジプトを見張る必要があります。それとジブラルタル市は、イギリスですが、確実に奪取する必要があります」

「現在は、鳳国が、実行支配しているが」

「必ず、奪い返しにくるでしょう」

「モロッコ側と、スペイン側の両方を奪取するべきです。そのためにも、セネガルに、基地と要塞が必要です」

 二人は、広間に這入るときは、別の入り口から這入った。

 雪は、ケリーからの戦略は、自分が考えたものとして、幹部たちに、発表し相談をした。

 帝王の雪が、発表することが、次々と、的を射

ていることに感心をして、その用兵を着実に実行していった。二代目の大助帝王が、大きくしていった新大陸の領土や三本の運河は、万全の用兵を採っていたのであるが、雪皇帝からの指摘は、実に的確なものであったので、直ぐに、実行していった。西アフリカのセネガル、ガンビア、ギニア、シエラレオネ、リベリアの五個所に、基地と城塞を造った。南米のブラジルにも、五個所に基地、城塞を造った。単独の城塞は危ないというのが、戦略の基本であった。更に、エクアドルに、五個所の基地と要塞を造り、フロリダにも、五個所の要塞を造った。そして、メキシコの、ユカタン半島にも、五個所の城塞と兵站基地を造った。

 それまでは、幹部たちは、平坦な地図で、作戦を練っていたのだが、皇帝に、地球器儀を出されて、そのアフリカと、南米や北米の近さを知ったのであった。

「アジア人の盲点なのです。私たちは、武蔵のアラスカ侵攻から、新大陸の存在をしりましたが、地球儀で太平洋側から、アメリカとヨーロッパ、そしてアフリカの位置関係を知ったところで、危ないと思ったのです。折角、先代の大助皇帝が造った三本の運河は、宝物です。それを、むざむざと、他国に取られること程、残念なことは有りません」

 と雪が言った。

的を射ていた。

幹部たちは、何も言えなかった。

ただ、雪を女帝と侮ったら、飛んでもない事になるぞ。

見事な皇帝である。と思い、その命に服した。

誰も、ケリー中将の入れ知恵であるとは、思っていなかった。

武蔵もそう思っていなかったのである。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る