「烈風真田幸村戦記(女帝編)」7

     七


 殆どの者が、満州の国境で待ち伏せの部隊に撃ち斃された。

国境の川が、死体のせきで水がながれなくなった。

 皇帝以下がソウルに這入った。

 朝鮮の王様以下が、出迎えた。

 雪が、機動騎馬に跨がたままで、

「日本の大使にいったのと同じ事を朕の前で申してみよ。恩を仇で返す卑怯者め」

 すると、王様が、

「それを言ったのは私ではなく、この男です。直ぐに頸を刎ねてここに」

 と男の頸を台に乗せて差し出した。

 雪が、腰の拳銃を引き抜いて、発砲した。

 弾丸は、台の頸ではなく、王の冠を撃ち抜いた。

王のまげが一緒に打ち抜かれて、髪がザンバラになった。

王が腰を抜かした。

「金蔵と食糧蔵を調べろ。少しでも残って居たら、容赦はしない。車に乗せて、全て運んでこい」

 その間に、

「椅子と卓を運んでこい。コーヒーが飲みたくなった」

と、幸村と同じ事を言った。

本陣車から、椅子と卓、コーヒーが運ばれてきた。

運んできたのは、ケリー中将であった。

そして、少しの間、肩を揉んだ。

「幸村公がお使いになっていたコーヒーカップでこざいますよ」

 と優しく言った。

「ケリーは、なんと優しい子なんでしょう。武蔵は、幸せですね」

 とにっこりと微笑んだ。

そのときに、荷車に何台もの金塊と金貨の這入った千両箱が運ばれてきた。

そして、米の俵が何台も運ばれてきた。

「金目のものを全て運び出せ。塵一つ残すな! 皇帝はコーヒーを飲んでいてください。ケリー、お変わりを持って来い」

「はい」

「さて、これだけの金貨や金塊を持っていて、米もこんなにあって、何故、払おうとしなかったのか。貴様のお陰で、死ななくて良い国民が、沢山、犠牲になった。どういうつもりだ? 一応、聞いてやる」

「死んだのは、平民ばかりだ。身分が違う」

「誰か、虎を三頭連れてこい」

 武蔵か怒った。

虎が三頭連れてこられた。

「王と大臣を全裸にしろ」

 動けぬようにしてから、

「大臣から虎に男根を食い千切らせろ。男根が無ければ、女性と同じだ」

 悲鳴が上がった。

虎が吠えた。一人の男が気を失った。

股間から、ポロリと男根らしきものが落ちた。

「男根がなかったら、平民以下だな」

 王が、全身をがくがくと震わせて、頸と台を取り落とした。

「今までの借金は、基地や城塞を置いている地代だといったな」

「も、申し訳ない・・・戯れて言った迄のことで、それも、この頸の男が言ったので・・・」

 小便を漏らした。

全裸なので、丸見えであった。

「嘘もいい加減にろ!我が国が女帝になったので、女だと思って、侮ったな」

「ですから、もう、二度と女王陛下を侮りません」

 言った瞬間に、王の首が高く飛び上がった。

武蔵の刀が、鞘に納まったときに、王の首が地面に落下した。

「この地に銅像を建てなさい。頸と男根を斬られた全裸の男の像で、卑怯王の最期と言う銅像です。銅像好きの国民らしいから。撤退!」

 と戦利品を持って、引き上げた。

雪は大阪城に帰ると、風呂に入って、後は仮眠をした。

 そこから、先の朝鮮は、悲惨と呼ぶ他はなくなった。

もう、鳳国は見向きもしなくなった。

 一隻の船に大勢が乗って、大海を漂ってるのを多く見かけたが、誰も助けなかった。

 朝鮮から使者がきて、

「卑怯王の、銅像も建てました。助けてください」

「だから」

 と一切、関係を断った。

労働者としても、後で、何を言い触らされるか、わかった物では無いので、取り合わなかった。

世界的な信用もなくなった。

その後のことは、歴史にも残って居ない。

 ただ、皇帝・雪の評判は、極めて高い者になった。

「あの、行動の素早さは、尋常ではない。男にだって出来る物では無い。しかも、三方から、圧倒的な速さと、圧倒的な軍事両力の差で、相手は何も出来なかった、それをこれは戦争であるというので、およそ、情け容赦もなく、敵とみれば、瞬時の隙も見せずに、撃ち斃していった。幸村公以来の凄さを見せつけられた。そして、自ら機動騎馬隊に乗って、先頭に立ち、大号令を発し続けた。あれは、ただの女性ではない。完全なる皇帝だ」

 と、誰もが噂した。

しかし、普段の雪は、優しい母親であった。

朝鮮での件以来、雪の、ケリーに対する接し方は、本当の親子のようで有った。

ちょっとしたことでも、ケリーに相談していた。

 夫の武蔵が、嫉妬したくなるほどであった。

「皇帝は女性ですよ。あなたが嫉妬してどうするんですか?」

「それは、まあ、そうだが・・・」

 となって、武蔵が、

「たまには、シベリアも巡視してこよう」

 というので、ケリー中将も付いて行くことしにした。

 すると、雪が、

「私も、一緒にいきます。たまには、領地内を巡視しなければ」

 と言いだしたのである。

そして、十兵衛に

「十兵衛殿たまには、自分の担当領地を巡視しなさい」

と言いだしたのである。

「どうなっているのだ? 二人は・・・」

 武蔵も、首を傾げた。

船に乗っている時でも、二人は何時も一緒あった。

「あの二人の事は、判らん」

 と武蔵が言うほどであった。

夏場であったので、シベリア運河の辺りも心地よい季節であった。

「ケリーの家族は、日本語もできるのでしょ」

「はい。普通に出来ます」

「だったら、日本にも家族の家を造りなさい。私の贈り物」

 というので、大きな屋敷をなんと、九度山に造ったのである。

大名屋敷のようであった。

大阪城にいるときは、本丸一ッ角に家族を住まわせた。

「私の、近衛室長にします」

 武蔵は、息子の助村に、本当の所を聞いてみた。

「母は、寂しいのだと思います。祖父の幸村と父の大助に死なれて孫三人は男ですしね。話相手か欲しいのです」

「なるほどなあ。その心の隙間をケリーが埋めているという訳か」

「はい。日本人だと、何かとややこしいことも、ケリー中将なら問題もありませんから」

 と言うので、ケリーは、雪から、絶大の信用を受けるようになっていた。

朝鮮戦争の副産物と言う他はなかった。

 青柳は元気を取り戻していた。

 木村重成が、久し振りで戻って来た。

「アメリカは、良いところです。妻が出来ましたので、その報告です」

 と妻を帯同していた。

なんと、インディアンであった。

もの凄い美人である。

その上に、若かった。

「酋長の娘だ・・・」

 と言って、照れていた。

しかも、妊娠中であった。

日本語も上手かった。

「これで、インディアンから、圧倒的に信用されるようになった」

「なるほどなあ・・・」

 と孫一が感心した。

自分の次男もアフリカで、黒人の妻を複数人抱えているのである。

「儂の命令は、なんでも聞くようになった。農地も、三十倍の広さになった。アメリカでも儂が、一番の大農家になった。で、小麦を輸出したい」

「そこまでになったのかよ」

孫一が、感心した。

「季候が良いから、年に二回収穫出来る。まだまだ、広げられる。インディアンは、木の農具で耕作していたが、鉄の鍬、鎌、シャベルを使うようになって、まるで能率が違うので、驚いている。耕作機にも驚愕している。白人は静かなものだ。攻めてきても、長城で、撃退できる。一度もないがな。白人の砦は木製だったが、鳳国の長城や城塞は石だ。鉄砲も怖くない。インディアンは、いつでも戦える訓練をしている。働き者だ」

「北アメリカの南部の方はどうだ?」

「いま、そちらを開拓している。北側は、青々としている」

「油断をするなよ」

 孫一が、笑いながら、注意をした。

「朝鮮のことは聞いたか」

 信幸が、聞いた。

「聞いた。皇帝が大活躍をなさたそうで」

「その通りだ」

「もう、朝鮮という国は、消えたな」

「国民は?」

「判らん。嘘つきだ。外交断絶だ。あの国は、触らぬ方が良い」


「一つぐらい、そんな国があっても、良いではないですか」

 雪が言った。

「そうだな。大勢に影響は、ないしな」

 と孫一がいった。

それで、朝鮮の話は、終わった。

「シベリアを見て来ました。だれが、あんな立派な農業国になるとこを想像したでしょう。鳳国の誇りです」

 と雪が、素晴らしい笑顔を見せた。

「亡き幸村公も、喜んで居られるでしょう」

「ところで、直江兼続殿、上豪州のニューギニア島の方の開発は、どのよう具合かな?」

 と、優しくきいた。

すると、雪が、

「直江殿は、新兵の教育をやって居る。一人での何役もでは、可哀想ではないか」 

 と取りなした。

「はい。あの島は東西にマケオ山脈とビスマーク山脈が、背骨のように伸びているので、目下は、南側の平野を屯田中であります。それも、目途がたちましたので、これより、北側の縄張りに取り掛かっております」

「そうか。それは、結構。新兵の方はどうか?」

「そちらも、近く、一期生が卒業の予定です」

「いや、今、皇帝もご心配なされていたように、直江兼続殿の身を案じてのことでござる。良き補佐でも付けては、どうかということで、他意は、ござらぬよ」

 確かに直江兼続は、多忙であった。

尤も鳳国のもので、多忙でない者はいないと言ってよかった。

みな幹部たちは、自分の防衛すべき持ち場の領土を抱えていた。

その上で、本部の仕事を行ったり、会議に出席しているのであった。

当然、日本人だけで出来る仕事の量ではなかった。

鳳国は、完全な多人種国歌であった。

だから、肌の色や髪の毛の色を見て、差別しているようでは、鳳国で生活してゆくことは、出来なかった。

「所で、直江兼続殿が見た感想でよいのだが、メキシコに誰を入れるか、推薦してくれぬか」。

皇帝の言葉であった。

(これは重いぞ・・・)

と思った。

「突然のことで、ございますので、咄嗟には出て参りません」

「そうか。私は薄田隼人を使おうかと考えて居るのだが」

「それは、良い人選ではないかと、思います」

「ケリー中将は、どう思うか?」

「はい。皇帝の決断されたお方が最良ではないかと思います」

「判った。薄田隼人と塙団右衛門、後藤又兵衛を任地から呼び寄せよ」

 皇帝、雪の言葉で、三人が呼び寄せられた。

「薄々様子は、判って居ることと思うが、メキシコを何とかしたい。此処を薄田隼人に任せる。必要な人員、軍資金、食糧、装備、兵器、武器を整備せよ。忘れてはならないことは、現地の者に侮られないこと。しかし、現地の者を巧みに使うことを考えよ。兵士に仕立てるのも良し。農夫、鉱夫にするもよし。農地はメキシコ湾添いとカリフォルニア湾添いだけにしかない。殆どが、山岳部だ。探せば必ず、鉱物資源があるだろう。鉄、石炭、石灰、石英、雲母、何でも役に立つ。掘らせることで、現地の者の仕事が出来るはずじゃ。頭ではなく、知恵を使え。山地では、トウモロコシが良い。メキシコの主食だ。農業を確りと教えることだ。後藤又兵衛はコロンビアとベネズエラとここは、一筋縄ではいかぬぞ。敵は麻薬だ、麻薬の畑を作っている者もいる。平地が多い、農業ことに出来るはずじゃ。麻薬を扱っているものは、ヤクザ者だ。構わぬ。射殺して、厳しさを見せよ。普段は頭目は隠れている。ビシビシとりしまれ。すでに、長宗我部盛親の一隊と本多正純の一隊を派遣している。敵はヤクザだ。臆するな。それで、後藤殿が適任と思ったのだ。期待に答えて欲しいい。良いな、一筋縄ではいかぬぞ。しかし、それらの者を恐れている一般の者もいる。そこを、見極めよ。影の者たちと、連絡を密にせよ。正し発覚されるな。発覚されたら、殺されるぞ。難しい国じゃ。だから貧乏している。 次に、塙団右衛門殿。パナマを守れ。そのためには中南米一帯を己の者にせよ。此処までが第一期じゃ。いつでも支援は送る。自分一人でやろうと思うなよ」

「はっ!・・・承知仕りました」

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