烈風「真田幸村戦記(大助編)」13

    十三


 斥候の言う通り、小さな砦は、黙殺していった。

そして、東部にズガズガと無味込んでいったのである。

戦車の弾丸を、水平撃ちで街の中に撃ち込んだ。

弾丸の通り道の家々は、木の葉のように吹き飛んだ。

今度は、機動騎馬が、エンジン音を鳴らして町中に突っ込んできて、ガトリング銃をバリバリと三十騎で撃っていった。

人も死んだし、街中も滅茶滅茶になっていった。

「誰が偉いんだ。偉い奴十人並べ」

 並んだ途端に偉くないのが判って、その場で十人をガトリング銃で撃ち斃した。

「本当に偉いのを、十人並べろ」

 又出てきたのを、打ち殺した。

「チャンスは後一回だ」

 やっとそれらしい十人が、恐る恐る出てきた。

「宣告する。百十度W、四十度N、これが、今後の暫定的国境線である。嫌なら、全部取る。それと、奴隷は全員、解放しろ!インディアンとは、敬意を払って仲良くやれ。インディアンの方が先住民なのである。賛成の者は手を上げろ。反対の者は、この場で撃つ」

 全員が、手を上げた。

「承知したんだな。直ぐに、政府に伝えろ。判ったな。声を出せ」

「は・・・はい・・・」


               *


 そして、国境線沿いに、ロシアで経験済の長城を作っていったのである。

二十間の幅を持たせて、両側の長城を作るやり方である。

所々に角楼を造った。

砲台も屋根付きで造った。

トーチカもコンクルート製で造った。

長城の前には、外堀があり、馬防柵があった。

これを、見る間に造っていったのである。

インディアンたちも手伝った。

手伝った者には、食料を与えた。

みんな喜んで仕事をした。

以外だったのは、黒人の奴隷たちが、いのちからがらで逃げてきたことであった。

彼らを、手当てした。

少ない数では無かった。

彼らに、衣食住を、与えて、ゆっくりと養生をさせた。

やがて働けるようになってきたが、重い仕事は、為せなかった。

 しかし、自分の方から、仕事をさせてくれと、言い出してきたので、少しづつ、本格的な仕事を与えていった。

勿論、仕事によって、食糧や衣類を与えていった。

どういう訳か、インディアンたちと親しくなっていった。

長城は、太平洋側と北に、グングン伸びていった。

そして、カナダとの国境も塞いでしまった。

一月も掛からなかった。

銃眼は、内側からしか開かない。

随所に開いていた。

インディアンに、

「此処を、攻められるか? 欠点があったら教えてくれ」

 と訊いたが、

「無理だ。どうやって、馬で攻めるのだ?」

 逆に、質問された。

「これだけ、どうして、早く造れるのか?」

「工場で、殆どの物は造ってある。それを機械の力で組み立てで造るのだ。後はこの中に、大きな城を造ってゆく」

これも、三月も掛からないで、巨大で、華麗な城を造ってしまったのであった。

これも、難攻不落の城であった。

「これで、一仕事終わりだな。見事に、中央シベリア分ぐらいは、領土を増やしたな。武蔵よ。これも天虎にするか?」

「いや。これは、木村重成を、総統として、推薦します。」

「勿体ない事をいうは。重成、武蔵の推薦じゃ。遠慮せずに貰え、アラスカ、カナダ、アメリカだ。大変だぞ。しかし、ネイティブ・アメリカンと、黒人奴隷出身者は、味方につけた。なに、宗主国のイギリスは、首根っこを押さえてある。下手なことをすれば、食料がなくなって、アフリカの、鈴木師団が出動するだけよ。鈴木師団には、確りと、食料を渡してある」

「はい。努力してみます。ついては、薄田隼人と、清水将監の長男を、脇に付けたりとおもいます」

「おい。清水将人は、儂の秘蔵っ子だぞ。ま、少し、修業にだすか」

(少しずつ、若手が育っていく・・・)

 大助は、悪い気持ちではなかった。

 十師団を残して、各総統も持ち場に返っていった。

(親父の、幸村は、飛んでもない領土を手に入れたが、儂も、分相応の領土を手に入れた。しかし、儂の本分は、守ることにある。親父の遺産をいかに、次に繋げていくかだ)

 真田四代目というが、実質は二代目であろう。

これほど、難儀な二代目はないであろう。

 大助は、太平洋を渡りながら、

(ともかく・・・終わった)

 と、海風を、思い切り深く、吸い込んだ。


             *


「まてよ・・・」

 大助は、ハワイ諸島当たりにきたときに、

「太平洋は、ただ海が広がっているだけではないぞ」

アリュウシャン列島から始まり、ハワイ諸島、ミクロネシア、メラネシア、ポリネシア、それ以外の島々も沢山あるが、これらの島々を統括している組織がない。

島ごとに、別々に、支援をしている。

これでは力にならない。

「愛洲はいないか?」

 と愛洲を探すようにいった。

愛洲彦九郎が、

「お呼びでしょうか?」

 畏まった。

「む。それ程、畏まる用でも、ないのだがな。この太平洋に、限ったことではないが、沢山の島がある。気がついたら、これらの島々を統括している部署がない。これは、陸軍の仕事では無いな。海軍の仕事だ。インド洋にも、大西洋にもあるだろう。これらの島嶼部を統括する総統が必要だ。海軍初の総統だ。しかも、大変に守備範囲広い。愛洲。お前がやるか?」

「いえ。私には、他にもやりたいことがありますので。近々にお願いに、伺おうと思って居た矢先だったのです」

「ほう。となると、この役廻りでは、誰が、適任かのう」

「ハッキリ申しまして、範囲が余りにも、広大です。一人では、無理かと思います。そこで、一人は、沼津秋伸。もう一人は、横井神太郎が適任かと、推薦申し上げます」

「なるほど。相判った。それとなく、意向を聞いてみよう。で、愛洲彦九郎が、やりたいというのは?」

「はい、こちらに、世界地図を、お持ちしました」

「む・・・」

「三個所ございます。一個所は、タイ湾を出て直ぐのスラータニーの辺りに運河を造れば、直ぐに、アンダマン海に出て、インド洋にでられます。これには、工事を始めます前に、アンダマン諸島とニコバルを買い取ってこくことが、肝要かと存じます。二つ目は、中南米のパナマですが、此処は内陸に、ガトゥン湖と川が流れていますので、運河には持って来いです。此処を超えると、もう大西洋なのです。アメリカの東海岸に出られるのです」

「なに?」

 大助が、地図を引き寄せた。

タイの運河を造るというのは、自分でも思っていたので、さして、驚きはしなかったが、パナマ運河の話には、まさかと思った。

「して、三つ目は?」

「エジプトです。我々は、地球海に出るのに、カスピ海、黒海と回ってエーゲ海に出て地中海に出ておりました。アフリカと、中東を、結んでいるのは、この細長い紅海だけなのです。土地は、エジプトのスエズですが、此処に運河を造ればアラビア海、紅海、スエズ運河、地中海なのです。我々は、シベリア廻りの航路とスエズ運河経由の二系統の、航路を持つことが出来ます」

「正式に、幹部会に諮ってみよう」

 ということになった。


             *


 甲論乙駁となった。

日常は、仲間意識の塊なのか、鳳国の圧倒的な良い面である。

大阪城夏の陣、以来の戦友でもある。

日常の会話は「俺、お前」の関係であった。

それだけに、意見に遠慮がなかった。

良い意味でも、悪い意味でも、ズバズバと物を言った。

と言う意味でも、それが、鳳国の、幸村以来の伝統なのであった。

 大助も、それを大切にした。

大阪城の大広間で行われた、「小田原評定」とは、別の意味で、徹底的に論議された。

後で後悔するくらいなら、論議を尽くすべきであると言う伝統があった。

しかし、最期は幸村が断をくだした。

これが決定であった。

決定した以上は、その断に従う。

各持ち分に従って、ベストを尽くすのである。

そして、論理を、後に持ち越さないと言うのも大切なことであった。

 しかし、今は、断を下すべき幸村はいなかった。

結局のとこと、皇帝である、大助の両肩に掛かってくるのであった。

これは、拭い難い、どうしようもない、孤独な地位であった。

 この決定で、場合によっては、何万の人間が、死ぬこともあるのであった。

 最期は、「覚悟」であった。

大助が、一番も持たなくでは、成らないものであった。

四十代半ばである。

男盛りのときであった。

だれちも、頼る訳にはいかないのである。

 実母の雪もいた。

禅師もいた。

だが、杖でしかなかった。

自分の足では、ないのである。

「まず、本題に入る前に、こたびの戦である、アラスカ、カナダの北部と、南部、そしてアメリカとなってしまった。広げ過ぎたか。戦力は充分にあった。それだけに、広大な領土は手にはいった。儂は新大陸には、手は出すまいと、思っていた。しかし、戦は生き物である。千変万化してゆく。こたびの戦の良き面は、インディアンと仲良くなれたことであり、多少なりとも、黒人奴隷救出できたもとな。いまも言ったと思うが、先ずアラスカだが、これは、民政と悩みだ。日常的には、いま武蔵が、苦しんでいる、極寒のちでの、生産である。木村重成に、全てを面倒見るように言ったが、弱音ではなく、アラスカだけでも、武蔵に、応援して貰え。武蔵か東シベリアで苦しんでいることも、判っている。その隣だ。それが自然だろう。どうかな。武蔵、木村」

「上様の、仰られることは、ごもっともでございます」

「何だ。木村。投げ出すのか」

「武蔵殿。そうではごさらん。初体験としては、余りにも広大な領土で、何処から、手を付けて良いのか、判らん」

「拙者のところも、同じよ。まず、何が何でも、人口を増やせ。人種も、宗教も構わん。それに、宗教には、ぜったいに触るな。こじれる原因になる。心配するな。気楽に遊びに来い」

「はい」

「後の戦の、小競り合いはとういにでも成る。アメリカの砦を見た。木に柵だ。インディアンとは、絶体に仲良くやれ。黒人ともな。黒人の女とインディアンの娘とも恋をしろ」

 武蔵は、ザックばらんな言い方をした。

「後は技術的な問題だろう。次に、本日の本題に入る。愛洲彦九郎だ持ってきた。飛んでもない話だ。今の鳳国以外で出来るところはない。しかし、これが出来たら、世界中が驚愕する。世界地図と、三枚の地図を貼れ。試しに、特大の地球儀をもってきた。我々は、常に太平洋から、地球を見てきた。しかし、ひょいと、大西洋から見てみろ。ヨーロッパと新大陸は、こんなに近いんだよ。ポルトガルと、ブラジルを見てみろ。我々が南洋に行くよりも、近いんだよ。が、もっと近い道を、愛洲彦九郎が、考えだした」

「え?」

「我々が、シベリアの航路を考え出したときは、世界中が驚愕したと思う。あの難工事をやってくれたのは、ここに居る、武蔵と、十兵衛だ。勿論、工兵隊の松井善三郎、内田勝之助、田中長七兵衛の、農業隊の全員のちからだ。感謝しても仕切れる物ではない。亡き、父親の上帝、真田幸村の言葉を思い出している。国の基礎は、土木と農業だ。世界中が、食料不足の時にあっても、我が鳳国は、微動もしない。前に武力、右手に食料、左手に土木。背後には、宗教も、人種もない。自由、平等の大義の旗を立てているからだ。そうで無ければ国民は従いてこない。もう、君臣豊楽 国家安康の長旗は、使わない。『自由・平等・豊穣』だ。もう、豊臣・徳川は滅んだ。豊臣を滅ぼしてくれたのは、お袋さんだ。新しい器には、新しい『大義』が、必要だと思う。ヨーロッパや、他の国々が、飢餓で喘いでいるのは、地主と農奴という、旧態依然の人災では無いのか。 本題が飛んでしまったようだ、本題に戻ると、世界には、三つの喉首があって、航行する船が困っている。そのために、マラッカ海峡を通り、危険な思いをしている。それをタイに運河を造ることで、最短で、アンダマン海にでられる。そのためには、現在、インド領になっている、アンダマン諸島と、ニコバル諸島を、工事の秘密がばれないうちに、買収しておくことが肝要である。これは、青柳と高梨で遣ってくれ。儂も以前から、此処は、と思っていた。 しかし、後の二つは、愛洲彦九郎の独創である。愛洲から話せ」

「はっ!・・・ユーラシア大陸と、アフリカ大陸。そして、北アメリカと、南アメリカ。この二つは、本当に、小さな陸地で繋がっています。それが、このパナマと、スエズなのです。ここに、運河を造ることによって世界は、本当に、短距離、短時間で自由に、航行出来ることになるのです」

「なるほど。太平洋から、大西洋に、アラビア海から、地中海に行ける。これは、飛んでもないことぞ!」

「運河の距離も、そんなに長くはない」

「どちらか、と言うと、スエズの方が、難工事に成ると思います」 

 と言う声が、掛かった。松井善三郎の、第一期生の中でも、土木の秀才と言われた、川俣規六であった。

「川俣。見て来たのか?」

 愛洲彦九郎が、訊いた。

「はい。いずれは、こうした話が出るのではないか、と思いまして、スエズは交易船でたちよって、後は、歩いて往復しました」

「一人でか?」

「いえ。土木の者たち一小隊で、商人隊を装って、駱駝を連れていきました。砂漠の中を、掘削することになろうかと思います。砂との戦いになろうかとおもいます。あの砂漠の砂をどのように、仮止めしてゆけば良いのか。目下、思い当たりません」

「川俣殿。儂も、豪州でな。砂漠の、砂の多さに、泣かされた一人よ。エジプトは、砂漠の中の街だ。しかし、その近くに、不思議なことに、サバクが流れている、サバクと言っても瀑布のことだ。滝だよ。運河の水は、ここから引くしかあるまいな」

 といったのは、直江兼続であった。

「豪州も、四分の一は、砂漠だ。儂は土木の専門科ではないが、何となくな、自然のことは、自然に任せた方が良い来がしてな。タールで防水をした上で、水のちからで、砂を吹き飛ばしてみた。飛んだ後に、間髪をいれず、土をいれさせた。防水が無かったら、無理であったろうが、結論を言えば、一部だが、小麦畑になった。色々な事が、試せるぞ」

 直江の、物言いは、どこまでも優しかった。

相手の心、傷つけない配慮があった。

「直江様。誠に優しい、ご助言、ありがとうございました」

 川俣規六が、恥じ入るように、頭を下げた。

「多士済々のよう。鳳国は、伸びるわけだ」

 大助がいった。そして、

「まだ、愛洲彦九郎の話が終わってない。聞いて見よう」

 と言った。いつしか、大助に、皇帝らしい、風格が備わりだしていた。

「今の、ご両所の、いわるる如く。難工事は、スエズです。パナマの方には陸地の東よりに、ガトゥン湖というのがありまして、運河に使える可能性があります。従って、はじめに、パナマ運河を完成して、スエズの土地の領有者の、エジプトに見せて、このようにすれば、アフリカの、喜望峰廻りで、苦しむよりも、多くの船が利用するでしょう。その一隻々々から、通行料を頂く。喜望峰廻りのことを思えば、期間短縮、危険負担の軽減、船員の労力の軽減、等々を考慮すれば、貴国に、損な話ではないと、存するがと、正面切って持ち込めると思うのですが」

「青柳千弥、高梨内記。交渉の専門家といて、どう見るか?」

「ハッキリ申しまして、交渉は、政治そのものです」

「む。青柳の言うこと尤もである。政治と武力は、腹合わせだな。今の鳳国軍に、不足はあるか?」

「エジプトならば、古い国です。生き残るのには、知恵が必要です。知恵の最初は、情報でしょう。ヨーロッパでの出来事を知らない国ではないでしょう。現在は、食料を迂回輸入しているようですが、何しろ、昔から、洪水の多い国です。ナイヤガラの洪水が、肥沃な土砂を運んできますから、洪水の功罪ですね。当然、そう言う国ですから、食料が、足りている訳がありません。交渉の武器は、武力と食料でしょうね。運河が出来れば、同然その入り口は、商都となります。食料も、黙っていても、手に入りますよと、言ったところが、交渉の、入り口だと思います」

 高梨が、穏当なことを、言った。

「それとも、ナイル川の河口で、ぼろ船を引っ張っていって、演習だといって、大砲の五、六発で撃って、肝を冷やして遣るという手もある」

 と孫一が、乱暴なことをいった。

「これ。孫一が、それを言うか」

「冗談ですよ」

 と言ったのに、武蔵が、

「紳士的になっていたら、交渉だけで十年はかかる。拙者は、もう、生きては居ない。ときには、強引な暴力も、必要かもしれん。言って判らん奴は、莫迦か、欲深な奴だ。目が覚めれば、自分が何を言っていたかが、ハッキリと判る。その位の気持ちでやれ。十年が、三年に縮まる。何なら、拙者が、交渉に行く」

「纏まる話が、壊れるわ」

 孫一が、笑った。

「孫一が言い出したのだぞ」

「漫才は、後でやれ。大方針はやるということだな?」

「はい」

 と一同が答えた。

「この、三つの運河の利権だけで、普通の国なら、喰える。ただ、この三つの運河の工事が、他のどの国も、出来ないことだ。一つも、出来ない。国の基本は、土木と、食料と、武力だ。この、三本柱が、揃っていれば、何処にも負けないし、何事もできる。亡くなられた、大殿の言葉だ」

 と伊木遠雄がいった。

伊木も大阪城、夏の陣からの強者である。

「さて、何処からやるか?」

「それは、すでに陛下の胸のうちに・・・」

 木村重成がいった。

「まず、インド・・・アンダマンと、ニコバルの島々を買い取る・・・」

「会議が終わり次第、行ってくる」

 青柳と高梨が、同時に言った。

「次は、パナマだな。いつもに五師団と、鈴木師団六十万を使え」

 と孫一が言った。

「脅かすだけだ」

「一発で、決着が付くな」

 武蔵が、笑った。そして、

「孫一に、悪いオモチャを与えたな」

「なんということを・・・武蔵で無ければ、斬る!」

「おお、斬れ! 孫一に斬られたら、本望だ」

「儂が、斬られるわ」

「だから、漫才は、後でやれと、言っているのが、判らんのか! まるで、駄々っ子じゃ」

「上帝がいないから。絡む相手が、武蔵しかおらん・・・」

「・・・判らなくは・・・ない・・・だが、後にしろ。判ったか」

「はっ! すみません」

「む・・・」

 大助の目頭にも、熱いものが、たまっていた。

が、大助は、敢然と拭いきった。

「今後は、俺と、喧嘩しろ」

「はいはい。勝ちますがな」

 と孫一が、ぺろっと舌を出した。

「なに?」

「漫才は、お後で・・・」

 と言ったのは、雪であった。

ぷふっ、と禅師が笑った。

そして、

「何、煮詰まった会議よりも、身があるは。アフリカに、六師団分の輸送船はあるのか?」

「禅師も、痛いとこを突くのよ。清水将監。手配してくれ。護衛もたのむぞ。次男が乗っている。大族長になったそうだ。こたびの、ヨーロッパの勲功でな。黒人の大立て者ぞ。親馬鹿か?」

「ケリー中将にも、子供が出来た」

 武蔵が、ブスと言った。

 大助が、

「会議は、休憩じゃ」

 と言った。雪が、

「それは、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「名前は、私が付けます」

「いや。武蔵の子じゃ。儂がつける」

「母子喧嘩は後で」

 禅師が、制した。

爆笑になった。

「子供が産ませるということは、道か通るぞ。運河も、道じゃ。それも、民人は判らぬでもな、世界の道じゃ。それを世界一の鳳国が付ける道じゃ。どの道理の判らぬ石頭は、木っ葉微塵にせい。国の価値などないは!」

 と禅師が、獅子吼した。

空気が震えた。

「拙僧ならば、小細工を労せず。三個所一度にやるわ。インドにアンダマンとニコバルの小さな島々を売られれば良いのであろう。拙僧の手紙を持って行け」

 というので、マハラジャに見せたら、

「ここれは、覚法様の書状・・・梵字で書いた手紙であった。それが、インドでも一、二も僧院に持ち込まれて、鳳国が世界を便利にしてくれるといっている。付いては、貴国の離れ島、アンダマン、ニコバルの諸島が、大変に邪魔になる。完成すれば、全貌が見え、鳳国のやっていることが、いかに意義深いか判るであろう。無償とは言わず、穀物交易船で五隻分を進上いたすゆえ、割譲して頂けまいが。きっと世の中の役に立つ事業である。覚法様の仰られること故、話に乗ろう」

ということになった。

了解の返事が来た。

五隻分の穀物を満載して、送った。

その場で、譲渡し証が渡された。

覚法が、インドの船だけは、通してやってくれ。

「ただし、儂の手形のある船はな」

 インドにも、

「まだ、仏道は生きているようだ」

 と呟いた。

覚法の若いときの話は誰も知らない。

それにしても、交易船五隻分で、全てのしまが、買えてしまったのである。

証書に間違いはなかった。

鳳国の者たちは、改めて、禅師の凄い力を知った。

「平和利用の物だから、向こうにも、判ったのだよ」

 といっただけであった。

手紙は、梵字である。

誰にも読めなかった。

以来、禅師の存在は、特別のものになった。

当然、一番早くに工事に入った。

ここで、運河の独別の技術を学んだ。

それは、シベリアの運河の技術にも、活用されていった。

運河の両脇に道路を造って、それを両側から、トラックで引っ張っていく方法などであった。

 パナマに関しては、鈴木師団の黒人兵が、猛烈な圧力になって、工事了解のサインをした。

即、工事に入った。

こちらの工事は、猛烈な早さで進行した。

見る間に小型船が通航できるようになった。

それは、あくまでパイロットであった。

そこから、幅と深さを、広げて、行かなくてはならないのであった。

護岸も入ってくる。

此処でも、多くの物をまなんだ。

 工事中から、スエズの者たちを招いて、

「これで、太平洋と大西洋がとながるんですよ。物流に、どれだけ役に立つか、計り知れない物があります。当然、船一隻に対しての、通行料が這入ります。船の大きさに依って、料金は変化します。パナマ一国の年間予算は、此で遣って行けるようになるでしょうね。アフリカの喜望峰を回っていくか、スエズ運河を通過して、いきなりアラビア海に出るのと、どちらが、気分的に楽ですか? 喜望峰の先は常に暴風が舞っているのですよ。何度も言うようですが、時間、労働力、経済性、様々な利点が生まれます。公法的には、パナマの方が数倍楽です。スエズの場合は、砂漠です。どう言う工法があるのか? 今後の課題でしょうね。巨大な、鉄の箱を現地で組んで、水路を確保するか、水の問題があります。ナイル側の水を使うか、海水を使うかで、工事単価が、違ってきます。淡水の方が、後に生じる手入れが、大変に成ってくると言うことも、考えなくては成りません。ただ、工事をするのは、我々、鳳国の問題ですがね。これたけの、大きな工事が、現在の世界の何処にありあますかね?・・・食料問題で手一杯でしょう。エジプトは楽です。通航料が這入るのですですからな。ただ、こんな機会は、二度と生まれないでしょう。こんな莫迦を、遣る国もでないでしょう」

 交渉役は、青柳と高梨であった。

 交渉後、エジプトから、細々といた注文を、出してきた。

「無条件でだければ、工事は一切遣らない。そちらは、砂漠を提供するだけである。膨大な工事費を出すのは、当方の、鳳国だけである。砂漠の間々に、置いて、おいて置けば良い。割譲したかったら、砂漠の値段で買いましょう。我々には別の航路がある。黒海から、エーゲ海にでられる。なんなら、その証拠として、ナイルの河口で、一大演習を致しても良いが、当方には、アフリカ兵の、気の荒い黒人兵が、六十万から百万人いる。かれらが暴れても、我々にも止めようが無い。そのことだは、前もって通知しておく。ヨーロッパでは、最近、黒人の混血児が、多数誕生している。おめでたいことである。誕生後、その街にも、何処にも、住み難くなっているという。困った物ですね。では、演習の時までに、諸々お決め下さい。念のため、土地の割譲は、砂漠以上の価値はありませんので、悪しからず」

 だから、と武蔵が言った。

「最初から、泥船、引っ張っていって、ドカンと遣るのが一番だといっただろうが。ヨーロッパ人に限らず。向こうの人間は、一筋縄では、行かないんだって、戦さの連続で、人間が擦れきっているんだよ。そのために、拙者が、何人の王様の首を飛ばしたか」

「冗談ではなかったのか」

「半分冗談だがな。今後もあることだ。彼奴らの言うことは、真にうけるな。良い勉強にはなったな」


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