烈風「真田幸村戦記(大助編)」9
九
若い力が、豪州で活躍している。
豪州は新天地である
「見たい」
幹部の全員が思った。
これまでは、他国の、余剰人員、つまりは、移民の溜り場であり、アフリカからも、強引に人を投入していた。
誤解があっては困るが、奴隷では無い、移民であり、鳳国の国民の一人々々として、経済的にも、そのように扱ってきた。
故に、アフリカからの移民も、生活が、相当に楽になってきていた。
そして、多量の捕虜たちを、送り込んでいた。
言ってみれば、質の悪い者たちを、送り込んできたのである。
勿論、日本人も、相当に、入植をしていたが。
言ってみれば、ごった煮鍋のような、人種の多様な、新天地だったのである。
これらの人々を、教育するだけでも、容易ではなかったはずである。
皇帝と、ともに幹部たちは、豪州に這入った。
カーペンタリア湾から這入った。
湾内には、何本もの、コンクリート造りの桟橋が出来ていて、その桟橋には、相当に大きな船が、二、三隻ずつは着くものであった。
桟橋の幅も充分に取ってあった。
それが、何本も出来ているのである。
そして、東何号桟橋、西何号桟橋というように、明記されてあった。
東西で、四十本の桟橋はあった。
桟橋を出ると十三間はあろうかという、大きな道路が、走っており、その道路に沿って、巨大な倉庫が、百棟以上も建ち並んでいた。
出庫、入庫が楽なようになっていた。
素晴らしい、の一語に尽きる港であった。
倉庫街には、物の出し入れに使う、フォークリストや、その他の重機類が、屋根付きの、車庫の中に納まっていた。
その隣りには、明るい感じの事務所があって、構内に這入ってくる、トラックや、荷車の、受付をしていた。
そこを出ると、華麗な門があって、その中には、瀟洒な、建物が建っていた。
看板には、日本語で、鳳国交易所とあった。
商談所であった。
そこを、出ると、レルトラン、料亭、カフェ、バーが並んでいて、慰安設備も、それとなく判る様になっていた。
つまり、交易に必要な、施設がすべて、港に敷設されてあったのである。
見事であった。
そして、その一角は、高い塀で囲まれた、特別地区に成っていたのである。
その外側には、両側に、陸軍の師団級の基地が置かれてあったのである。
「豪州の玄関としては、完璧だ」
と、大助が、賞賛した。
一緒に来ていた、直江兼続が、
「すべて、若い者たちが、建設しました。外国から来た、移民たちも、一緒になって、作りました」
と説明した。
「教育は、共に働きながら、毎日、夜間学校で、学ばせました。試験に受かれば、待遇が変わっていきます。給料、衣服、食事、住宅、職種が、どんどん変わっていきます。まず、日本語の習得からで、職場でも、日本語が理解出来ないと、雑用です。日本語が出来るようになったら、仕事の仕組みを教えてゆきます。そして、専門知識を習得させます。そのたびに、待遇が少しずつ上がっていきます。ですから、みんな必死なのです」
直江の説明に、
「若手はどんな仕事をしているのかね?」
「どんなと言うよりも、仕事全般に渡っています。教育で、教師もつとめていますし、現場で、専門的なことも、教えたり、自分が、重機を操作したりしています。若い人は、身が軽いですから、それに、覚えるのが圧倒的に、早いですから」
「なるほどな。移民たちは?」
「一切、差別はないです。あるのは、実力と、階級だけです。上の者の言うことはぜったいです。黒人が、白人に命令しているのなどは、ざらにある、光景です」
「そういうことか。口で、立派なことを言っても、仕事が出来なかったら、何の意味もないということだな」
「はい。豪州では、仕事の能力だけで、評価しますから」
「それまでの、経歴も何も無い、ということか」
「その通りです。いっそ、さっぱりします。不満があったら、試験を受けて合格しなさい、ということです。それ以外の、不満は受け付けません。一つの職種で長く勤めている者は、表彰します。位も上がります。若くでも、実力があれば、工場長にもなります。人種は、関係ありません。軍隊も同じです。若くても、黒人でも、実力で、位は、あがっていけます」
「思想的には?」
「簡単です。鳳国のために、死ねるか、だけです。経歴は、色々です、移民もいれば、捕虜のものも同じです。捕虜のものには、あなたの国は、あなたの救出のために、この豪州まできてくれますか? 無理です。たったら、この豪州で、骨を埋めるつもりで、頑張りなさい。鳳国のために、死ねる覚悟を持ちなさい。考えを変えないと、一生、下積みですよ。ここは、自由の、国です。あなたの覚悟は、常に試されていますよ。毎日の仕事の中でね。と言う教育を、執拗に、すり込みます。三年で、捕虜も鳳国人になってゆきます。だって、事実なのですから」
「なるほど。直江兼続の、教育は、素晴らしい」
と大助が、賞賛した。その賞賛に、値することが、現実として、起こっていくのである。
*
大助を初めとする、幹部一同が、次に見たのは、豪州軍の演習基地で会った。
広大な敷地を使った、実弾演習の出来る基地で会った。
それというのも、そこは広大な砂漠地帯で、他に使える用途がなかったので、軍の実弾演習用の基地にしたのであった。
演習のためのあらゆる、設備が整っていた。
ここを見てしまうと、大阪城の演習場が、ミニチュアに見えてしまう。
そう言う、広大な規模の演習場であった。
基礎体力付けるランニングがあった、障害物が沢山あって、デコボコの土の道や、コンクリートの塀や岩場があって、上ったり、下ったりする。
そのコースを一周すると四キロであった。
途中には二十メートルの高さの崖があって、特殊な銃で撃つと、先端に碇が付いたロープがあって、崖のどこかに引っかかるようになっていた。
そのロープ一本で、二十キロの装備を付けて、登っていくのである。
登り切ると、人工的作った沼地があって、頭の上には、何らかの障害物があって、沼地を這って、通過したければならなかった。
丸太の上を、渡ら成くては、ならない場所もあった。
あらゆる障害が用意されてあった。
肋木を渡らないと、かなり下にあるプールに、落ちてしまう場所もあった。
相当に、過酷なコースであった。
「ここを五周しろ」
と言うのが歩兵に課せられた、最初の難関なのである。
五周出来ると、合格で、一等兵になれるのである。
次に投石の訓練があった。拳大の石を如何に遠くに、正確に投げるかの訓練が行われていた。
次にやり投げの訓練であった。
そして、室内トレーニングで、基礎体力を付けた。
全員、黙々と、演習をしていた。
食堂には、豚以外の牛、羊、鶏などの肉類や、野菜がうずたかく積まれてあって、好きなだけ食べられた。
体力を付けるのは、運動と食べることであった。
全員凄い筋肉をしていた。
女性も同様であった。
室内では、ボクシング、空手、柔道、レスリング、を教えていた。
別の体育館では、剣道、フェンシング、サーベル、銃剣を教えていた。
さらに二十キロの軍装での、体術を指導していた。
これらの技をマスターして、合格すると、勲章が貰えて、歩兵の上等兵になれた。
他国では、海兵隊級の訓練であろう。
しかし、豪州では、一般歩兵の扱いであった。
さらに、学校があって、語学を教えていた。
日本語が、ネイティブに成るまで教えていた。
それと、精神論であった。
その上で、座禅を取り入れていた。
次のクラスに成ると、乗馬と、水泳と、潜水をマスターする。
潜水は、素潜りで、三分以上であった。
これは、最低ラインであった。
乗馬は、大阪城方式を取り入れていた。
上、中、下のクラスに別れていた。
上級になると、騎馬隊に入隊できた。
武器の扱いは、大刀、小刀、手裏剣、ナイフ、鎧通し、手槍、長槍、投げやり、弓、矢、手打ち矢、などの扱いと、実技、手入れ法を徹底して教えた。
ここまでを合格すると、歩兵として、銃を持って良いと言う、許可がでる。
まず、銃の仕組みを学習して、分解、組み立てが素早く出来るように、訓練された。
そして、弾丸の仕組みを学習して、弾丸の管理を徹底して叩き込まれた。
「幾ら、銃があっても、弾丸(たま)がなかったら、何にもならないのだぞ。自分の弾丸が、何発あるとか、常に、頭にいれておけ。そうしないと、戦場で死ぬぞ!」
若い教官に、頭から、どやしつけられていた。
「着剣!」
の、一言で、全員が揃った動きで、銃剣をつけた。
そのまま、屋外の演習場で、藁人形に突撃して、次々と、突き刺していった。
別の組では、匍匐前進の、訓練をしていた。二脚を立てての、銃撃の訓練をしていた。
それらの、一連の教育課程を見学した、大助と、幹部たちは、
「立派なものだ」
と感心した。
「教師用の、教育教則本がありますから」
と、直江兼続が、いった。
一同は、本部の休憩所にいった。
畳の間があった。そこで、いつものように、雑談を始めた。
「このような感じで、将校までを、教育しているのか?」
大助が、直江に訊いた。
「将校は、別に、一般兵の中から、幹部候補生の入学試験を行ってから、合格者のみを改めて、教育します。思想教育を徹底します。実技はこんなものでは、ありません。血の小便がでます」
「農業や、他の職種は?」
「同様です。基礎から徹底して教えます。農業は、農業大学から大学院まであります。一種、二土、三作り、と言うことを農業生には、教えていますが、同種のもの掛け合わせて、新種の種を作り出して、そこの気候風土に合ったものを作りだしていくか、という研究までさせております。そして、原種の種が、如何に重要かを、教えます。種苗の、国外持ち出しは、厳禁だけでは無く、重罪になると、教えています。漁業では、各種の魚の養殖の研究を、進めています。私の留守の間に、日本から、鰻の養魚を、仕入れて生育して大きく成ったものを逆に日本に輸出しています。これは、漁業大学の場合です。地質学も、鉱山学もあります。これと思うものは、研究させます。化学、科学も、です。タイヤの研究、電気の研究もやっています。研究と挫折は、付きものです。根気よく、やらせています。成果の出たものは、現場で使わせています。土や、砂を運ぶのには、ベルトが早いと、判りました。これは、土木、農業、鉱山にも、有効です。モーターの小型化と、小型にしても、馬力が落ちない工夫が必要です。これを、随所に於いてベルトを回転していけば、トラックも不要です、鉱山の坑内から、土を運び出すことも、可能なのです。現実に稼働しています。ベルトを、何本も引けば、相当の規模の作業が可能です。土の運搬は、一番厄介なことです。それを、解消できます。後ほど、鉱山を、ご覧になってください」
「あい判った」
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