烈風「真田幸村戦記(大助編)」8
八
ヨーロッパ各国の人々は、一斉に、驚き、怯えた。
卒倒する者もでた。
無理も無かった。
これまで、自分たちが、奴隷としてきたアフリカの黒人たちが、急に、街を、鳳国軍の旗を手に小銃や、投げ槍、手槍、弓などをもって一個小隊で、巡回しているのである。
黒人の黒い肌、白い歯、眼に出会うと、体が硬くなった。
自分たちが、彼らに対して、散々に酷いことを、してきたので、その仕返しをさせる、と言う思いが先に立つのであろう。
全身が震えた。
女を見ると、その場で脱ぐように、命じられた。
娘であろうと、人妻であろうと関係なかった。
手に鞭を持っていて、拒む姿勢を取ると、男の方を、鞭で叩いた。
「た、頼むから、脱いでくれ・・・このままでは、殺される・・・」
妻が裸体に成ると、全員を、寝室に連れて行き、まず、妻を犯した。
黒人の巨大な、男根を見て、
「こんな、大きいの、壊れる・・・」
と、驚くのだが、物も言わすに、口唇に加えさせられた。
思わず噎せると、ビンタを喰らわせた。
そのまま、妻の股の間に、巨根を、捩子込んだ。
夫の前であった。
「さ・・・裂ける!」
と妻が叫んだ。
だが、夫には、どうすることも、出来なかった。
黒人兵に、日本刀を抜き身で、突きつけられで居るのである。
黒人兵は、遠慮なしに、激しい、嵐のような、抽送を来り返しているのであった。
やがて、信じられない程の量の精液を射精した。
しかし、それで、事は終わらなかった。
何人もの、黒人兵がいた。
別の、黒人兵は、娘の方を犯し始めていた。
止むことの無い、輪姦が行われていった。
「やってないものはいるか?」
「気持ち良く出しました」
「では、次の任務に行くぞ」
と、去って行った。
あとは、地獄の修羅場になっていた。
妻と、娘のそこからは、鮮血が流れ落ちていた。
夫は、言い知れぬ虚脱感の中で、肩で息をついていた。
こうした、黒人の強姦事件は、至る所で起きていた。
訴えたところで、どうにも、なるものでは無かった。
戦争と、こうした事件は、付きものであった。
ヨーロッパ、就中、西欧と、北欧は、毎日が地獄であった。
黒人兵の出現は、実に効果的であった。
もう、毎日が、震え上がって生活しているというのが、実体であった。
中には、毎日のように、黒人兵が現れるので、絶え切れずに、一家で、心中をする家もあった。
しかし、黒人兵は、相変わらず、巡回しては、それらしい家を物色していった。
悲鳴が上がるのは、日常茶飯事であった。
とてもではないが、抵抗運動どころの騒ぎではなかった。
ドイツよりも、問題にならないほど、西欧、北欧が静かになった。
孫一の考えは、実に効果的であった。
黒人問題の上に、食料不足の問題があった。
とても、復興などを考える事は、出来なかった。
しかし、鳳国に相談できる問題では無かった。
復興に必要なのは、資金であったが、その資金は、武器兵器とともに、鳳国に、根こそぎ、持って行かれてしまっているのである。
借款をしたくとも、西欧、北欧が、同じ状態なのであった。
どうすることも、出来ないというのが、実態であった。
「今度ばかりは、ヨーロッパも、何も出来ないな」
というのが、鳳国側の見た方であった。
「報告は聞いた。黒人兵に怯えてなにも、出来ないと言うことだな。黒人兵が、多少、羽目を外したり、乱暴をしているようだが、今までの、恨みを思えば、仕方の無いことだろう。それよりも、怯えている間は、何も出来ないということだ」
と、大助は、言った。
しかし、黒人兵たちの、復讐心を利用していることに、少し、心に痛みを、覚え無くはなかった。
けれども、黒人兵たちの、これまでの、ヨーロッパ人に対する思いを考えると、復讐の希望を叶えてやったのは、あながち、悪いことではないのではないか、という、思いも抱いた。
確かに、ヨーロッパ人のやったことは、飛んでもない悪なのと、一度は嫌というほど、思いし知ることは、必要なことなのであった。
ヨーロッパ人を、このまま、のうのうと、今までとおりにして置くことは、奴隷にされたことのある、アジア人に、とっても、良いことではない。
植民地から、多くのものを、簒奪したことは、許されることでは無いのだ。
大助は、それを『誰か』に代わって、黒人兵に、復讐させているという思いもなくはなかった。
矛盾した思いが、心の中で葛藤していた。
大助たちは、大根城の、一つである、カザフスタンとロシアの国境にある、オレンブルクに、大部隊を入れて、一先ずの、休息を取らせたところであった。
ベラルーシや、バルト三国にも、黒人兵が這入っていた。
矢張り、恐怖は同じであった。
これらの国から、詫びが入ってきたが、
「もう少し、怖い思いをしていなさい。彼らも、鳳国軍の、一員である」
「抵抗運動を、食料の支援を、受けていながら、行った。その裏切り行為の、罰を受けていなさい」
取り合わなかった。
「黒人奴隷を、農奴として、使って居たのは、確かなんだから、多少、酷い目に遭っても仕方がないでしょう」
「黒い子供を孕んでしまった」
「大事に育てなさい」
「娘なのです」
「鳳国軍の将軍の中には、黒人との混血の孫も居ます。可愛いといっていますよ」
と答えてから、西欧、北欧に、
黒人との混血児を、殺害したり、虐待したら、『殺人罪と同様の重罪を科す』という触れを出した。
もう、どうすることも出来なくなった。
「これからだよ。本当の、苦しみが、始まるのは。人が人を動物以下の扱いをして、自分たちさえよければ良い、と言う考えが、如何に、間違ったものであったかを、しみじみと思い知るのはね。人間は、そんなに、簡単に変わるものではないからな。自分で黒い子供を、育ててみることだ。動物に見えるか、人間に見えるか。自分の胎で育った子供だ。幾ら。強姦されてもな。自分たちも、散々、強姦をしてきたのだ。黒人の女性をな。日本の兵士の中にも、黒人の女性兵士と、結婚をすると言うのが、何人か出ている。最も、ここも、アフリカと同じで、一夫多妻制だからな。一人くらい肌の違うのが居ても言い出だろう」
と孫一が、笑いながらいった。
「黒人というのは、とても、繁殖力が強いそうです。見る間に、黒人の人口が増えますよ」
と、船から上がってきた、清水将監が、言った。
「国民の人口が増えますよ」
と、愛洲彦九郎がいった。
「それだけ、国力が増すというわけだ」
武蔵が、顔色も変えずに、言った。
「儂の妻のケリーは、何種類もの人種の混血だ。しかし、今一番ハッキリしているのは、鳳国人で儂の妻と言うことだけだ、それが、肌が黒いと言うことだけだろう」
「私は、武蔵総統を愛しています。総統だから、愛しているのではありません。武蔵だから、愛しているのです。私の生きがいです。セックスは、全てではありません。人生の、無くては成らない、一部に過ぎません。愛を伝える手段です」
「それは、清水が投げられたときに、しみじみ判ったな」
「判りすぎていますよ」
といったので、一座に爆笑が起こった。ケリー中将の強さと、多国語を駆使できる能力は、誰も敵わなかった。
「上帝であった、親父が、ケリーを、中将に大抜擢したのは、慧眼だったな」
と、大助が言った。
「ヨーロッパのことは、みなの活躍と、戦後処理に、鈴木師団を使ったことと、食料不足で、抵抗勢力の出番は、なくなったな。しかし、面倒なのは、これからだ。ここからは、武力だけでは、どうにもならん。こんな、面倒臭い上に、生産性の無いところは、占領する気にも
ならないが、このままでは、各国とも、独立国として、復興できるかが、問題だ。割と、しぶとい民族だけに、鈴木師団が撤退すれば、じわじわと復興してくると思うがな」
「しかし、ここまで、徹底して、破壊された、経験は無いでしょう。復興には、時間が掛かると思います」
武蔵が、現実を見ていった。
「とりあえず、一に、鈴木師団の撤退だな。次に来るのか、食料事情だろう」
「問題なく、配布出来るのは、鈴木師団だのではないですかな」
と言ったのは、木村重成であった。
木村はこの戦争で、方面司令官をやってから、すっかり、貫禄も付いて、司令官らしくなってきていた。
人は修羅場を潜る度に成長していくようであった。
自分なりの意見も付いてくるのかも知れない。
「黒人に対する見方も変わってくるでしょう」
「なるほど。鈴木師団に、その役割をやらせてみるか」
皇帝である、大助の言葉は、重い。
食料支援の仕事が開始された。
青柳千弥と高梨内記が、交渉して、無償援助では無いことを告げた。
特別に高くも、安くも無い価格で、各国は、借財であることを、契約させた。
各国とも、それでも「助かる」ということで、契約をした。
食料が到着して、配布がはじまった。
鈴木師団が、公平に配布をしていった。
紳士的な態度で、各人に、接していった。
あの、怖かった黒人たちが、嘘のそうに、優しく、公平に食料を配布していった。
確かに、現地の者たちの、黒人に対する、態度が、変化していった。
そうなると、黒人たちも、さらに、優しい態度で、接するように、なっていった。
評判が、嘘のように変化していった。
そうした、評価が本部にも、伝わっていった。
「どういうことだ?」
清水が、孫一に訊いた。
「判らん」
というのが、孫一の答えであった。
「恨みに対して恨みで接すれば、その恨みは、止むこと無し。両輪の轍が、永遠に交わらぬように。釈迦の教えだがな。鈴木師団の兵士たちは、荒ぶる魂のままでは、世界が変わらぬことを、身を以て知ったのであろう」
禅師の言葉であった。いたく、納得のいく言葉であった。
*
久しぶりに鳳凰城に、幹部たちが帰ってきた。
「落ち着くわ。我が家に帰ったようだ」
と、清水将監と愛洲彦九郎が、声を揃えて言った。
確かに、こんな大きな城はない。
それでいて、温かみがあった。
畳敷きのせいも、あるのだろうが、それだけでは無い、何かがあった。
「ともかく、ヨーロッパは、ひとまず終わった。後は、借金の取り立てぐらいだな。鈴木師団の引き上げの件が、あるが」
「木村殿、その件は、考えながら、やっている。すでに食料配布の時から、少しずつ、引き上げは、開始している。食料が、少なくなってきた、と言うときには、もう、誰もいないはずだよ」
孫一の言葉が、
「そういうことが、視線が、他に言っているときに、行動をする。鉄則だな」
と、続いたときに、
「そういうことか・・・」
と、木村重成が、大きく頷いた。
「鈴木総統が、そんな下手はうたないよ」
と武蔵が言った。
「長年の付き合いの、拙者にも、鈴木師団のことは、言わなかった。あんな軍団を作っていうるなんて、皇帝は知っていたのでござるか」
「知ってはいたが、六十万人とは、聞いていなかったぞ。しかも、司令長官が、次男の、孫介とは、さらに、驚いた。あのときは、戦争中だったから、驚いた顔は、しなかったがな」
と、大助も、改めて驚いた。
「実をいうと、儂の案では無い」
「ん?」
「次男の、孫介の考えだ」
「恐ろしい、策士よなあ・・・」
と清水が、仰天した。
「次第に、若い者が台頭してくるのだわ」
武蔵が言った。そして、
「それでなくては、鳳国の次の時代が危ない。これで良いのだ」
と言葉を、継いだ。
「今後の、我々の仕事は、いかに、若い者たちに繋いでいくかだ」
木村重成も、そういって、頷いた。
「その、若い者たちの仕事が見たかったら、豪州、東豪州、上豪州を、見てくることだ。若い者たちに、重要な仕事をあたえてきたのは、他でもない、直江兼続だよ」
と、大助が、笑った。
「直江は、国作りと、人作りの名人ぞ」
「飛んでも無いことでござる」
とその場にいた、直江が急いで、手を振った。
その場にいた、真田信幸が、
「儂も、武龍で助けられた。若手をどんどん、投入してゆく。人は信じなければ、育たない。
鈴木師団も同じことだ。アフリカ人を信じたから。立派な、師団ができた。人件費が、問題にならないくらい安い。凄いところに目を付けたものだ。それも、若い者の特徴だ。こんごは、若者の抜擢だな。しかし、若さ故の勇み足もある。そこを我々が、後見してやることだ」
「この国は若い。その上に、考え方も若い。老害はないぞ」
禅師がいった。
「若さの力に敵う者はない」
ともいったのである。
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