烈風「真田幸村戦記(大助編)」7

     七


「ドイツの、ヘルゴラント湾の、ブレーマハーフェンから出撃する。輸送戦の余裕は、あるか?」

「充分にあります。特殊機材を積んでもまだ、充分に余裕はあります」

「そうか。では、この本陣車と、接待車も全て積んでくれ」

「え? つ、積めますが、まさか・・・」

「そのまさかだ。朕が出陣する!」

「はっ!――」

 と、答えたと同時に、陣内に、緊張が走った。

「イギリスだけは、朕が、直々に、成敗する。二度と鳳軍に、逆らえないようにする」

 大助が、厳しい言い方で、自分に言い聞かせるよういに、いった。

大船団が、イギリスに向かって、岸を離れた。

その光景は、見るものを、嫌でも、圧倒した。

北海が、鳳国の戦艦団で、埋め尽くされた。

やがて、北海、イギリス海峡、大西洋、大西洋の一部である、ケルト海の、海と言う、海を埋め尽くした。

イギリス側は、その戦艦の、圧倒的な数に、息を呑んだ。

イギリスは、船団に、完全に包囲されていた。

しばらくは、何も無かった。

無音ほど、恐ろしいものはなかった。

やがて、イギリス側の、建物という建物の窓から、白い布が棒に、括られて、振られた。

が、大助は、

「白旗は無視しろ」

 と命じて、

「各船に告ぐ。情け容赦は、自分を滅ぼすと思え。発射用意・・・駆逐艦にいたるまで、発砲せよ・・・撃て!」

 命令一下、一斉に艦砲射撃が開始された。

 かつて、イギリスが、これほど迄の艦砲射撃を、受けたことが、あったであろうか。

三百六十度からの、砲撃であった。

その、爆撃の音は、耳の鼓膜を、つんざいて、脳を直撃した。

建物という建物は、地上を揺すり立てたように、揺れて、次々に、倒壊していった。

全ての建物が、悲鳴を上げる間もなく、粉砕されていった。

勿論、人も、家財も宙に、木の葉のように、舞い上がっていった。

神も、ここまでの罰は与えまい。

見渡す限りが、瓦礫になった。

人の姿がなかった。

 砲撃は、一時間は続いた。

その時には、海兵隊は、もとよい、陸軍も、すべての兵器や、機材と共に上陸を、完了していた。

そのまま、鳳国軍は、ロンドンを目指して、進軍を開始していた。

人影を見ると、射殺した。

 大助は、機動騎馬隊の戦闘に立って、進軍していた。

その、両脇には、武蔵と、十兵衛が、これも、機動騎馬に騎乗して、進んでいた。

 他にも、近衛師団が、盾を二段二列にして、皇帝を囲繞していた。

大助が、幾ら自由に振る舞いたい、と思っても、大助は、若き皇帝である。

掛け替えのない体であった。

近衛隊以外にも、真田十人組や、東海党や、雑賀党、盛親党、本多党が、十重二十重に取り巻いて居た。

本陣車は、そのすく後を追いてきた。

進軍したくとも、道は、瓦礫が、塞いていて、通りようがなかった。

近間で、小銃の音が、散発的に聞こえたが、全て、味方の音であった。

「これでは、機動騎馬に乗っても意味が無い」

大助は、本陣車に戻った。

武蔵と、十兵衛も、ともしに本陣車に、戻った。

「工兵に、重機で道を作らせるのが、先だ。誰だ、こんなに壊したのは?」

 と大笑した。本陣車には、雪、孫一、禅師、ケリーがいた。

「これでは、進みたくでも、無理ですよ・・・」

 と、雪が言った。

「いまから、工兵に道を作らせながら、進みますから、のんびりして居ましょう。道が敷けたら、知らせてくるでしょう」

「本部以外のところでは、戦闘しながら、と言っても、掃討ですが、進軍しているようです。その後、鳳軍の独特の、やり方ですか、掃除隊が綺麗に、片付けていきますよ」

と孫一が、説明した。

「ともかく、我々は、首都のロンドを、制圧しなければ、勝利したことには成りませんから」


                  *


 やがて、ロンドンに到着した。

宮殿は、半ば崩壊していた。

国庫を、案内させて、軍資金を、奪取した。

「資金があるから戦争を、するのである。それを、全て没収する」

と宮殿に限らず、政府機関のすべてから、資金を没収した。

さすがに、イギリスは金を持っていた。

時間を掛けて、全てを没収しいった。

銀行からも、没収していった。

金と武器、兵器がなければ、戦争は、出来ないのである。

イギリスも、まさか、ここまで、徹底的に破壊されるとは、思わなかったのであろう。

皇帝や、幹部たちも、完全、虚脱していた。

誰もが、幽鬼のような、青冷めた顔をしていた。

敗北するというのは、そう言うことなのであろう。

「レジスタンス運動などと言うことを、やらなければ、我々も、乗り出さなかった。乗り出せば、こういう結果になることは、眼に見えていた。抵抗運動の首謀国が、イギリスと、フランスであることは、充分に調べはついている、監視国にドイツを選んだ。ドイツは同じヨーロッパである。手心が、あったのだろう。それが、抵抗運動に、繋がったようだ。次は、監視国には、オスマントルコあたりに、頼むか。イランでも良かろう」

「お願いです。トルコや、イランは止めて下さい。我々は奴隷にされる」

「散々奴隷を使ってきたのだろう。今度は反対の立場に立って見るのも、良いのでは無いのか」

「勘弁して下さい」

「黒人大使をよべ」

「え?・・・」

 黒人大使を、船で、全員、呼び寄せてあった。

ナイジェリア、カメルーン、ペナン、トーゴ、ガーナ、コートジボワール、リベリア、ギニア、ナミビア、ルアンダ、南アフリカ、コンゴと、殆どの国に、大使は居た。

「お前たちが、親、兄弟、妻、恋人を、子供を拉致されて、今もアメリカで、農業の奴隷、農奴として、家畜並みに、扱われて、働かされている、その大本を作った国だ、イギリス、フランス、スペイン、ポルトガル、オランダ、ベルギー、すべて、これ以上、壊しようが、無いほどに、破壊した。どの国も、例外なくだ。この国々を、監視していく必要がある。この国々を、監視出来るか?」

 武蔵が訊いた。間髪を入れずに、全員が、

「出来ます!」

 と答えた。

「軍隊は?」

「あります。鈴木閣下の、ご命令で。五年前から、六十万人もの部隊を、創設しております。武器は、弓矢、大刀、小刀、アサルトナイフ、手槍、長槍、投げやり、銃剣付き小銃、手榴弾、硝子製の盾、これだけあれば、充分に戦えます。我々は、耳と目が良いですから、百発百中です。是非、我々にこの任務を行わせて下さい。積年の恨みがあります。混血児が、生まれるだろう、行為があるのは、止めようが、ありませんが、それは、長い期間、苦しめられてきた相手です。理性では、抑えきれるものではありません。それだけは許して下さい。しかし、任務は、必ずや、命に代えても、遂行したします」

 いつの間にか、各国の、黒人兵が、その場に、緊張感をもって、ビシッと整列していた。

どの顔も、精悍な面構えをしていた。

「お前たちは、何処の兵だ?」

 孫一が、鋭い声で訊いた。

「鳳国皇帝陛下の将兵です!」

 一糸乱れぬ、答えであった。

「お前たちか食べている、飯は、何処の国のものだ!」

「鳳国皇帝陛下から、下賜されたものです」

「武器は?」

「鳳国皇帝陛下のものです!」

「日本語は?」

「母国語同様に喋れます」

「英語は?」

「大丈夫です!」

「フランス語は?」

「習得しています」

「スペイン語は?」

「母国語なみです」

「規律は?」

「遵守します」

「鳳国皇帝のために死ねるか」

「はい!

「師団名は」

「鈴木師団です」

「私が、その、鈴木孫一である」

 いった、途端に、全員が、孫一に、土下座をして平伏した。

「ここに、居られるお方が、鳳国皇帝陛下である」

「ははーっ!」

 とさらに、頭を下げた。

「なおれ! 起立して、休め・・・と、いうことだ。いつか、役に立つと思ってな。武蔵殿の弟子も活用させて貰った。陛下、監視役、死守(しもり)したいと言っておりますが」

 そのことを、イギリス人に通訳すると、全員、死んだような顔になって、膝から、崩れ落ちた。

中には昏倒する者もいた。

無理もない。

まさか、アフリカの黒人部隊とは、想像もしていなかったのである。

どんな、復讐をされるか、判った物では無い。

 黒人鈴木師団には、女性兵士も、チラホラまじっていた。

 孫一は、ヨーロッパ人が、一番、嫌がるであろう、

黒人部隊を、密かに、アフリカで五年も前から、育てていたのである。

「孫一には負けたな」

「司令官には、次男の鈴木孫助を付けてある。黒人の妻が、三人いるそうだ。みんな美人だよ」

 孫一が、ケロリといった。

「孫も居る」

「・・・」

「その生命力が、鳳国の力だ。良くやったと褒めてやった。孫は可愛いぞ。酋長の娘だそうだ。男の子と女の子だそうだ。酋長の上に、族長がいる。一人ずつ出来た。ハハハ・・・」

 と、笑い飛ばした。

「どうする? 使うのか?」

「使う。適任だ」

「六十万人も、いれば、スカンジナビア半島の三国から、ポルトガルまで大丈夫だろう。各国に戦車、装甲車、装甲戦闘車、自走砲、機動騎馬隊を、二個大隊ほど、残しておけば。納まるだろう」

 と、孫一が言った。その通りにした。

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