第三章 10
十
「長宗我部盛親。水原に陸軍総本部司令長官、体面がある、大将!・・・愛洲彦九郎・・・来てないか・・・」
「参上いたしております。遅参して申し訳ありません!」
「呼んでなかったはずなのに・・・仁川に海軍総本部司令長官。大将・・・位階は、暫定である。当然、朝鮮からの、大使館、公使館も置いてもらいたい。軍隊も受け入れる。日・朝・台合同演習を富士の裾野でやっていきた。これを機に、日朝台安全保障条約、日朝台友好通商条約、当然、満州には、三国が、満州に侵攻する。明ではなく、鄭の私兵は、どれぐらい送れますか? 日本は承知してるからいいんだが、対朝鮮とのこともある。あまり、少ないときは、こちらから兵士をお貸しします」
「ありがとうごさいます。五万は出します」
「成功さんも、お父さんも判ってくれると思いますよ。満州の役のあと、一気に、朝鮮、台湾軍が入ってくるんです。驚きますよ。戦争の理屈なんてなんでもつきますよ。梵鐘の碑文に文句付けて、戦を始めた奴もいるんですから」
「国家康安 君臣豊楽・・・ですね」
「日本軍はそれを、意図的に、逆さに、君臣豊楽国家康安と、長旗には書いています。豊臣君楽と、徳川側に読ませたかったからですが・・・で、南からは十万、真田の私兵を出します。海軍五艦隊、海兵隊五艦隊。これで陸軍だけで、満州に三十万、と十万です。台湾5万、朝鮮が、最低でも、5万は出すでしょう。支援を求めて来てきている訳だから、常識では、十万は出すでしょう。合計で五十五万です。海岸沿いは、海軍。長江と黄河は、大きい船が入れますから・・・唐の時代分ぐらい獲ればいいでしょ。第一期で。後から全部、取りますけど、第一期は、唐ぐらいの面積にしましょう。いきなり、北京取って、紫禁城で、皇帝を座らてしまいませんか・・・」
「・・・」
四人は無言になった。普通、なるだろう。
「秀頼は、大阪城を継ぐからだめたな。儂が皇帝に・・・」
「だめです! 日本は誰が守のですか!・・・んもう!」
淀が凄い勢いで、怒鳴った。みんな驚いた。
「鄭成功では、立場上、反乱軍になってしまうな、結局は、大助か。本音は、秀頼が大阪城、大助が江戸城だったんだが、孫一か、武蔵どうだ?・・・」
「平にご容赦を・・・」
揃って平伏した。
「大助。皇帝やれ」
「はい。良いですよ。勉強になりますから。兄上もたまに来るでしょう?」
「ときおり交代したりして」
「あ、気にしないで。あの二人、変わっているから」
幸村が、苦笑しながら四人にいった。
(こんな風に、冗談半分のようなことで、中華大陸の皇帝を決めて良いのか?・・・)
と田川七左衛門は、思ったが、決めるべき場所は、厳しい口調で、家臣を鞭で叩くかのような、感じで決めていった。
朝鮮の李王が、まったく動けなくなるような、急所はピシリと決めていったのであった。
「今日は、一日凄い会議であったな。草臥れた」
確かに、幸村が一度は、腹の中で、決定していたことが、四人の登場で、大きく崩れてしまったのでは、会議の続けようがなかった。
その場で、幸村は、行信を呼んで、
「経緯は、見ての通りだ。ものことなんて、予定通りになど行かぬ。この後、儂の考えていたことが、すべて飛んでしまった。それがおかしかったのよ。ということで、大助が、北京の紫禁城の、皇帝に成る。このままでいけば、もう、明は崩壊寸前だ。勝つだろう。で、大助は、総都督ということだけだ。皇帝になる前の公的な役職が欲しい、大陸のことだ、どんな役職が良いのか。見当もつかぬは。できれば御上の手をわすらわせたくないのだが」
いうので、行信を、書庫に行かせて、役職関係の書物を探させた。
行信が、速読していて、突き当たったものがあった。
「これだ!」
とその役職というよりも、肩書を引き移していった。
その間に香音と鞠妃は、奥に退った。
幸村は、会議を終了させて、場所を小書院に移していた。
その場にいるのは、幸村と、淀、秀頼、大助、孫一、武蔵、清水将監であった。
幸村が、
「しかし、驚いたな。儂の得ていた情報と、清水将監の読みとが、およそ二十万の兵ということであったが、鄭猛竜の克明な数字が、十八万四千で、誤差が一万六千だった。こんなもの。誤差には入らない。それゆえ三十万人を用意した。敵よりも、十万多くした。その通りになった。鄭猛竜の、報告書が、これだ。駐屯地までが書いてある。地図もあるが、これを、判りやすい地図と、兵数の書き込みに直してくれ」
「承知いたしました」
清水が鄭の報告書受け取った。
そのあと報告を見ていたが、
「殿下。主要な川の幅と、水深が書いてあります。季節によって量が異なるのは当然ですか、春先は、氷や、雪溶け水で、水量が一番多く水深も当然多くなっているとあります。巧くすると、大型が乗り入れらる。これも、清書いたしておきまする」
「清水。出陣をオホーツク海の氷が溶けた頃としたのは、そこを計算に入れてのことだよ」
「あ。恐れ多いことを言ってしまいました」
「そうではない。その地図が、証明してくれたということだ。お前と愛洲は、運良く、ヨーロッパに留学出来た。向こうの文化に触れるか、触れないかで、ものの見方が、大きく違ってくる」
「殿下の蔵書は、宝の山だよ。武器は、つまるところ、科学と化学力だ。儂は、殿下の蔵書の図面集を見ると、自然と心が躍ってくる」
孫一がいった。淀が、同じことをいった。
「いま、兵士から、将軍までの軍装を懸命にやっているところです。ヨーロッパから中国まで、それは色々な軍装がありますけれど、日本人とヨーロッパ人とでは、根本的に、体格というか、骨格が違うので、洋服は、似合いません。日本人は、やはり、着物が似合う民族なのです。ですから、ヨーロッパの良いところと、着物の良いところを、どうやって、折衷していくかに悩みます。文化にはその国固有の季節、風土、食べ物による体格、骨格の違い、こうしたことから、宗教も、違ってきます。例えばですけど、日本にはキリスト教は似合いません、畳文化ですしね。ただ、戦闘服は違います。美醜よりも、機能的であるかどうか。動きやすいか、防備としてどうか? これだけ鉄砲が普及してしまったら、鎧兜では重いだけだし、色々な面で根本的な改革が必要だと思いますえ。先ず、素材の抜本的な改革が必要です」
「判った研究を急がせよう」
「殿下。忍び装束と言うのは、機能的です、この間の青年隊の軍装には負けますけれどもね。あれは凄い。拙者はとても買っています」
「武蔵。儂もだ。偏見はない。あれを、徹底的に的に研究させている・・・ところで、儂の構想が、グチャグチャになってしまった。地図を見てくれ。南方と北方の二枚と、こたびの満州の拡大とで三枚だ。儂は正直にいって、明のことは考えてもいなかった。明は別格で、強大な国と考えていた。が、田川と、鄭三兄弟の、今日の発言を聞いて愕然となって、頭が大混乱を起している。儂が今まで南方で、農園をやってその莫大な利益で、淀の言う通り、豊臣の金には、一切手を付けてこなかった。むしろ、米蔵も、金蔵も入りきれないほどだ、何倍にも膨れ上がったはずだ。それは、儂が手掛けているところは、清水は海軍の上に、商品の輸送まで手掛けて来ている。商品は多岐にわたっているが、結局のところ、主力は米だった。極東アジアは、日本も含めて、台湾、あの島は中央に山脈があって、雨が降っても、水は一気に流れ落ちて、海に注ぎ込んでしまうので、水田や農業用水が溜まる間がない。儂だったらまず人口池を造る。が、誰もやらない。強い指導者がいないからだ。つぎに韓国。この地図を見て見ろ。米なんか作れる国ではない。東側三分の二が、山脈で、その割に人口が多い。いつも米不足だ。中国はどうか? 穀倉地帯は、華北平原と、長江の中流域と、下流平原だけであとは黄土と山と、砂漠だ。なのに、人口は十三億人だ。矢張り米が足りない。この話は武蔵はあまり興味はないか?」
「いえ、最近は本気で、国の経営を考えだしていまする。あんなに米がないと騒いでいた。やれ一揆だ、集団離村だと言っていたものが、殿下の手に掛かって、大規模農業の国有化になってから、農村は豊かになり、飢えているものがいなくなり申した。軍隊も豊臣政府軍に一本かしたら。強兵になり、国は豊かになった。色々な産業も起きてきた。まるで手品のようだ。戦も減った。農道が煉瓦や、何というのか知らないが、平らな綺麗な道になり、水路も鯉が飼える綺麗な水になった」
「国の基本は土木ぞ。農業と土木だ。豊臣軍には強大な工兵隊がいる。建築隊がいる。施設隊がいる。砦でも塹壕でも彼らの手に掛かったらあっという間だ。料理隊がいる、豊臣軍で糒など食べてるものはいない。走りながらも料理を造っているからだ。兵士は、本当に戦うだけだ。戦のないときは、演習、訓練、勉強だ。この訓練のお蔭で、兵士は強靭な、体と精神の持ち主に変貌していった。他方で、儂もだが、孫一が一体、どれだけの、大砲、鉄砲、ガトリング銃、ガトリング砲を造り改造してくれたか。兵士が強くなって、兵器、武器が凄くなって、負ける訳がない。しかも、専門分野に徹している。徳川の四天王が訓練に来て、走るだけで負けていた。新兵にな、城壁登りも降りるのも、出来ない。四天王が聞いて呆れる。鎧で格闘したら投げ飛ばされていた。なぜ、演習するか、宮本武蔵が教えたからだよ」
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