第三章 9

   九


「清水将監。発言したことと、殆ど変らなかったな」

「一万六千、下回りました。多くなかったことで、ほっとしておるところでござる。総人口約百五万人です。あの広大で、厳しい気候のなかで、百五万はいかにも人が少ない」

「それに苦慮したヌルハチは、盛んに捕虜を捕まえては、満州で、奴隷にしています。奴隷と言っても厚遇して、国民化しようとしています。彼らの、悩みの種なので」

 末弟の、鄭瑞祥が答えた。

参考になることばかりであった。

「儂が、前漢で、夫余(うよ)と言っていた地名のところが、唐の時代に入って。高句麗となった。今の吉林だ。ところが、満州は、朝鮮と巧く行っていない。そのために、早くいえば貿易だが、それが巧くいっていない。朝鮮人参と、貂の毛皮が、在庫となって、山のように積まれている。明と断交したもののそれらを民に買ってもらいたいのだ。そこで、朝鮮を、経由して、朝鮮から売られていたが、朝鮮との関係がこじれてしまって、販売経路が立たれていまった。そこで、朝鮮を武力で恫喝して売らせ始めたが、再度満州と朝鮮が交戦する兆しがある。朝鮮の李王は、日本と深い関係になりたがっている。経済的にも、軍事的にも、支援が欲しいのだ。満州と交戦することは、望んでいない。太閤殿下は、正しかったのだ、いま、あの規模で朝鮮を攻めたら、苦労なく、朝鮮を獲り、かつての渤海国、満州も取っていただろ。今なら太閤の考えが正しいことが判る。時期の問題、天の時だ。太閤は、少し早かった。ご自分の年齢や、健康のことも判っておられたのだろう。淀」

「はい。殿下・・・」

「儂は、そなたに言ったことがあったな。太閤殿下の『浪速のことは、夢のまた夢』その夢の続きを儂はやるのかもしれない、とな」

「はい。覚えておりますとも」

「以外と早く、その続きが来た。朝鮮の李王朝の王様から、来てくれ。話だけでも聞いてくれと。実は矢のような、誘いがある。ともに戦うことになるのかな?・・・概略は掴めた。で、明は?」

「駄目でしょう。どんな大木でも木の幹が、うろになっていたら、ちょっとしたした風邪で、もろく倒れます。みなさんの前ですが、よろしいですか?」

「田川七左衛門。儂には、意外と秘密はないのだよ」

「では。申し上げます。明は駄目だ。兄は、一時、高砂に引きます。しかし、軍資金にはことかかせません。わたしがいる限りは。北海、雷州半島、海南島使って下さいと言うのは、兄からの合図なのです。満州が終ったら、トンキン湾から、南を見るのではなく、北を見てくれと言っているのです・・・お邪魔でしたら、澳門と香港のポルトガルとイギリスをどかしましょう。明には、出来ませんが、鄭一族の力でならできます」

「鄭芝竜氏のころから、私兵を養っていたな」

「はい。従弟の鄭三兄弟は、全員、各隊の隊長です」

「どうりで、武人の叉手をした」

「あ、そこまでご覧になっておられましたか」

「トンキン湾に入って、南ではなく・・・北を見ろと?・・・」

「南は、いつでも取れるでしょう。ヨーロッパも手を出しませんから・・・まず、朝鮮は参戦しないでしょうで」

「七左衛門・・・」

「はい!・・・」

「お父さんは御幾つになられた?」

 真剣なやりとりになっていた。

「六十七歳です・・・閑居しております」

「まだ、十分若い。たまには会いたいな」

「どちらで、お会いになられますか?」

「温泉・・・でもあるまいよ。京城で会いたい。鄭の親父ならピッタリだ」

「何に?」

「李王が断ったら。米も、何もかも止まる。延滞している借款の元利、そっくりお返し願う。鄭芝竜と組んでの一幕芝居だ。朝鮮総督府総裁になってもらう。副官は末弟の鄭瑞祥。梶原忠勝」

「はっ!」

「平城に朝鮮総督府公使館公使していけ。高橋源吾!」

「はいっ!・・・」

「朝鮮総督府大使。ソウルの大使館に入れ。二人ともハングル語は、大丈夫だな」

「はい!」

 二人が同時に、大きなで答えた。

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