第三章 5

   五


 孫一は、大阪城の奥総取締役という重責の淡島と結婚することで、奥に深い関係を持つことになったのである。

遠い姻戚関係の者よりも、もっと利的な関係を持つことになって、身内同然となっていったのであった。

淡島は淀の私生活の殆ど全てを知っているのであった。

しかし、それをペラペラと喋るようでは、総取締役の地位は務まらなかった。

たとえ夫であっても、奥のことは秘密の中の秘密であった。

「こうなったら、子供も出来ることであるし、本丸の東側の、猫間川の方に、五の丸、六の丸の本格的な城を造ろう。秀頼丸と大助丸だ、それと孫一丸と、武蔵丸、同時に四つの城を造ろう。国と言うのは、常に何かの土木をやっていた方が、活気が出るものなのだ。目出度いことで土木が始まるのは良いことだ。国民を苛める訳ではない。城の大外濠の外にもドンドン町が出来ているが、これでまた多くの人々が集まって、大阪は益々賑やかになるぞ」

 と幸村が、嬉しそうにいった。

「本丸からみんなが、出ていったら寂し気がするけど。独立ですものね。それに、各お城には全部矢倉のよな橋を架けて貰いましょう。それなら、直ぐに来られる」

 淀は、ゴッドマザーなのである。

全部のものを、自分の所に集めたいのであった。


         *


 休憩していた幹部たちの会議が、再会された。

大陸の蛮族を攻めるということは、コンセンサスが得られた。

「で、話を国内に戻すが、国内を大きく分けて、政治的には、州制とし、同じ地域を方面と呼びたい」

 と幸村が、話の口火を切った。

 一、蝦夷は、蝦夷の他に、北蝦夷、千島列島。

 二、東北は、陸奥、陸中、陸前、羽後、羽前、岩代、磐城。

 三、関東は、常陸、下野、上野、下総、上総、安房、武蔵、相模。

 四、信越は、甲斐、信濃、越後、佐渡。

 五、東海は、駿河、遠江、三河、伊豆。伊豆大島。伊豆七島、小笠原諸島。

 六、北陸は、越中、飛騨、能登、加賀、越前。

 七、中部は、美濃、尾張、伊勢、志摩。

 八、関西は、近江、若狭、京、山城、摂津、河内、和泉、丹波、丹後。

 九、畿内は、大和、伊賀、紀伊。

 十、山陽は、播磨、美作、備前、備中、備後、安芸、周防、長門。

 十一、山陰は、但馬、因幡、伯耆、出雲、石見、隠岐。

 十二、四国は、讃岐、阿波、土佐、伊予、淡路島。

 十三、九州は、豊前、豊後、筑前、筑後、肥前、肥後、日向、大隅、薩摩、対馬、壱岐、五島、甑島列島、種ヶ島、屋久島、南西諸島。

 一四、琉球は、本島、先島諸島。大東島。(琉球に関しては、統治領的側面がある)

 と述べた後で、幸村は、

「政治的には十四州、軍事的には十四方面ということになる。ここに十四の州府と、十四の陸軍、海軍、海兵軍の方面本部を置く。これに、琉球に、一、首里鎮台、南九州に二、薩摩鎮台、北九州に三、肥前名護屋鎮台、中国地方として、四、安芸鎮台、五、萩鎮台、六、米子鎮台、七、鳥取鎮台、八、三次(みよし)鎮台、九、尾道鎮台、十姫路鎮台・・・というように重要拠点に鎮台を、逐次設置していく。鎮台の統合として、鎮守府をおいていく。首里、薩摩、筑前博多、中国地方は備前岡山。四国に、伊予松山という具合にだ。西日本々鎮守府を尾張名古屋に置き、東日本々鎮守府を武蔵江戸に置く。両本鎮守府の上に総鎮守府

として大阪城を置く。首都は天子様のおわす、京都に定める。大陸の仕事の後は、天子様の宮廷を造営し、遷座の後に首府を建設する」

 と幸村が述べた。

「大仕事でござるな」

 長宗我部盛親が、溜息混じりにいったが、幸村は、

「江戸城、名古屋城、京都を造ってしまえば、後は、改修ですむところは、改修にする。鎮台、鎮守府、本鎮守府、総鎮守府、首府だ。鎮台の下は、州府、県府、郡(こおり)府、郷府、大字役所、字役所、組役所ということになるが、現況通りに従来の代官所や、庄屋の家を買い上げて、役所にしていけば、すべて納まる。軍部も現況の城、砦の改修で、方面本部(連合師団)以下、州本部(師団)、県本部(連合大隊)、郡本部(大隊)、郷本部(連合中隊)、大字本部(中隊)、字本部(小隊)で、組本部はいらんだろう」

「いや、良く考えられてあるわ。これならば、水も洩らさぬ組織網でござる」

 と木村重成が大きく頷いた。

 紙に印刷して、冊子にしたものを、幹部各自に渡して置いたのである。

「次の頁をご覧願いたいのでござるが・・・」

 と青柳千弥が議事進行役になって、会議を進めていった。

「大日本国豊臣政府軍の階級表でござるが、兵士の階級から、各位階とも、四等級で進級出来るようになっている。昇進もあるが、降格もある。特進制度もござる。兵士から、次のようになっている」

 板に大きく書いた紙を貼り出した。

「兵士」三等兵、二等兵、一等兵、上等兵。

「下士官」伍長、軍曹、兵曹、兵曹長。

「将校・尉官」准尉、少尉、中尉、大尉。

「将校・佐官」准佐、少佐、中佐、大佐。

「将軍」准将、少将、中将、大将。

「帥」准帥、次帥、元帥、大元帥。

「二十四階級でござるが、大元帥は、関白殿下お一人でござる。元帥は、御上の詔勅で、位階にある者に限られ申す。勅任官で、現在は宮本征狄大将軍、鈴木征夷大将軍、豊臣大助総都督、豊臣秀頼摂政内大臣、豊臣淀前太閤佐の男子四人、女子一人の五名のみでござる。次帥、准帥は、目下空位でごさる。なお、将軍は、親任官で、大元帥から、辞令を受けた者に限られる。誰がどの位かは、後日、親任式で、辞令と階級章が授与され申す。それまでは、障りがありすぎるので、極秘とするとの元帥方、および、大元帥の御意向でござる。なお、天子様は、軍事には、一切関与なされなさいませぬので、軍事で、御上の名を口にするのは、憚り多きことでござる。すでに大元帥が、錦旗を下賜されていることで、御上の御心は十分に理解しなければならぬのでござる」

 と話を結ぶと、幸村が、代わって、

「儂の考えだが、将軍級には、准将でも、実質俸給は、かつての大名級と思って貰ってよい。なお三等兵は、新兵である。次に、貴族制度について触れてくれ」

 高梨が、代わった。

「大名制度を廃止したので、旧藩主に対して、爵位を授ける。階級は、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、の五段階であるが、これに該当しないものし、爵位ではないが、騎士の称号を授ける。騎士は現役軍人であっても授与されることがある。また、勲章制度を設ける。菊花章、旭日章、瑞宝章、宝冠章に、大勲位から、一等以下八等までの勲章を、栄典制度として定める。勲章は、民間人、その他、誰でもが一定の基準に達した者は、栄典会議で了承されれば、授けられる。軍功に対しては、次の通りでござる」

 と大きな紙に記したものを見せた。

「玄武桐文章勲一等から勲四等」

「白虎桐花章勲一等から勲四等」

「青龍桐葉章勲一等から勲四等」

「朱雀文花章勲一等から勲四等」

 特別栄典勲章

「紫鳳凰宝章勲一等から勲四等」

 これは、冊子に載っていた。

高梨が、

「これらには副賞と、賞状がおくられる。副賞は、概ね、一時金が、年金である。正式な場では、必ず胸に飾って欲しい」

 青柳が、代わった。マイクのある時代ではないから、大きな声で話さなければならなかった。

「次の頁にいく。軍の編制のことである」

 と大きな紙を小姓にめくらせた。

一、 陸軍。歩兵(徒歩武者を改称)、騎兵、槍隊、長柄槍隊、弓隊、火薬矢隊、投槍隊、大弩隊、鉄砲隊、砲兵隊、迫撃砲隊、ガトリング砲隊、ガトリング銃隊、火炎放射器隊、戦車隊、戦闘装甲車隊、装甲車隊、投石機隊、犬隊、牛隊、虎隊、象隊、特殊部隊、通信隊、医療衛生兵隊、情報隊、音楽隊、旌旗隊、儀仗兵、掃討隊、掃除隊、消防消火隊。 

一ノ二、陸軍内海軍(戦闘艦、輸送艦、大、中、小強襲揚陸艦、戦闘艇、揚陸艇)。

 一ノ三、陸軍内施設隊、工兵隊、気象隊。

 一ノ四、陸軍内兵粮隊、料理隊、食糧確保隊。

 一ノ五、陸軍学校、幹部養成学校、教育隊、特殊部隊養成学校、情報通信学校、秘密任務部隊養成所、医療衛生兵学校、陸軍音楽学校。

 一ノ六、兵站部隊、武器弾薬補給隊、被服補給隊、食糧補給隊。

 一ノ七、主計隊。

 一ノ八、憲兵隊。

 一ノ九、陸軍作戦参謀本部、総合参謀本部。


 二、海軍。旗艦、大、中、小戦闘艦、戦闘艇、半潜水艦、輸送艦、強襲揚陸艦大、中、小、医療船、食糧補給艦、水補給艦、主計艦、通信連絡艦、艇、海軍作戦参謀本部艦。

 二の二、海軍内陸軍(規模的に小さいが陸軍に準じる)。

 二ノ三、海軍兵学校(以下陸軍に準じる)。


 三、海兵隊。旗艦、大、中、小強襲揚陸艦、艇、半潜水艇。常に、陸軍に準じる部隊を艦船艇に用意している。陸軍の迅速機動部隊であり、海軍の攻撃力と輸送力を合わせ持つ軍隊である。


 四、工兵隊、施設隊、建築隊。

 四ノ二、工兵隊内陸軍および海軍、作業中を護衛する、自前の陸軍で、規模は小さいが、陸軍に準じるし、資材の輸送のために、防衛的戦闘をおこなえる戦闘力を持った輸送艦船艇団。


 五、屯田兵隊。専ら新田開発のための隊で、作業中の護衛のために、屯田兵隊内陸軍と海軍を持つ。海軍は、資材運搬のための、防衛戦闘力を持つ。


 六、農兵隊。田畑、牧場の管理、運営、運搬(陸送・海送)で、管理、運営中の外敵、盗難防止のための軍備と、収穫物の海送中の外敵からの災害防止の海軍的武装を持つが、目的は安全な輸送にある。

 六ノ二、堆肥、苦土石灰、藁灰、化学肥料、農具、耕作具、牛、馬、犬、象などの部隊。

 六ノ三、測量、検知、主計隊。

 六ノ四、耕作戦略本部。


 七、鉱山隊。金、銀、鉄、銅、鉛、水銀、石炭、石英、雲母、硫黄、硝石、等々の発掘、試掘、操業を行う。これの作業中の防備のための、陸軍的防衛戦闘力を持つ。


 八、商船団。国営商業の商船の護衛艦隊。商業基地の商品他を防衛する、陸軍、海軍的戦闘力を持つ。護衛艦隊、輸送艦隊も含む。

 八ノ二、主計隊、商業的情報通信連絡隊。


 九、総鎮守府大阪城の近衛隊、あらゆる軍備を持つ。


 十、あらゆる文化、民俗学、自然科学、化学、科学等々の研究所。


 十一、武器、武具、兵器廠、造船廠、被服廠、食糧廠、弾薬廠、箭弓廠、他。


 十二、国立銀行。貨幣の発行、流通、管理、金、銀の保有。これを護衛する部隊。


 十三、国家戦略本部。


 これらのことを、青柳が、補足説明していった。

冊子や、掲示された、紙を見比べながら、全員が、真剣に青柳の言葉を頷いて聞いていた。実に静粛であった。

やがて、青柳が、

「ご意見、ご質問があれば、挙手の上、ご発言願う。善きご意見であれば、それなりの機関で検討していきたい。その前に、こたび大陸の蛮族征伐に関しては、本来、国家戦略本部で検討していきたかったが、時間の問題で、殿下と、そのご相談相手で、決定していった。お了解とともに、お許しを乞う次第である。来春の出撃予定である、善きご意見があれば、取り入れたいが・・・では、ご発言を・・・」

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