第六章 3

   三


 幸村は、農業改革を、大規模農業の国有化に、すべてを改革していった。濃尾、駿遠三、甲信、相模、伊豆、安房、下総、上総、常陸、下野、上野、飛騨の十六の国は、大規模農業国有化が完了していた。

結果は、いままでの収穫の五倍近くになった。

何も飢饉ではなかった。

しかも、人手が余ったので、それを、各地の特産品に造りに廻していった。

武士が減り、生産者が増えたのである。

相模では石灰が採れた。秩父でもとれた。

甲斐では、水晶、石材が採れて、それらを製品化した。

上野では、こんにゃく、麻、綿、絹の織りものが、特産品となった。

羽後、陸中では、金山が一七ヶ所も開発された。

こうしたところに、余剰の人手を廻した。

辛い仕事なので、賃金を五倍にした。

それで、人手が一気に集まった。

金の他に銅と鉄が採れた。これらも同じ条件であった。

他に陸奥や、南部では馬が産出された。

海産物や、材木、砂利石も採れた。

南部の鉄器も特産になった。

北上川流域の平野は寸土も残さずに、開墾をしていった。

屯田兵が活躍した。

最上川流域の平野も、寸土も残さすに、一枚の水田を、二町歩で造り農道を整備し、水路を流れ易くした。

寒冷地では、矢張り煉瓦や瓦は、霜で割れた。

すかさず、石の砕けた、ボサ石を水路の底に敷き、両側を、石垣に変えていった。

道も石畳みにした。

 陸前から磐城に掛けては、馬が良く育った。

 このように、幸村は、その地方の特産品の生産を奨励した。

驚いたのは、山陰地方で、鉄鉱山が、ごろごろと出てきたごとであった。

直ぐに鉱山隊を派遣して、操業を開始した。

 九州の筑前と豊前で、金鉱山が十数ヶ所も見つかったことであった。

薩摩でも金鉱山が、数ヶ所見つかったので、これらの場所にも金掘り人を、派遣した。

金、銀、銅、鉄が、これまでの数十倍も多く産出した。

大隅と薩摩は馬の産出国でもあった。

山陰では、牛が育った。

 幸村は、特産品を考えだした者には、奨励金を与えるように、各村々の役所に張り紙を出した。

印刷機で広報宣伝のポスターを出したのである。

すると、碁石から、明礬(みょうばん)、黄檗(きわだ)という捻挫などに効果のある貼り薬までが、飛びだしてきた。

それの奨励金が多額であるのが判って、砥石、火打石から、硯、筆、墨、百草、蚊帳、櫛、硫黄、諸々の薬、海苔、梅干し、と色々なものが出現した。

「どんなものでも、育てるようにせよ」

 と役人や村長たちにいったので、墓石から、位牌、塔婆と言ったものまでが、特産品になった。

「どれも、なくては困るものだ。褒めてやれ。それが、職業になるようなら、もっと褒めてやれ」

 というので、農業だけではなく、多くの人々が、米造り以外でも、食べられるようになった。

大根、牛蒡、葱、納豆、味噌、醤油、干柿、雪駄、下駄、藍玉、漆、塩、針、扇子、陶器と、日本中で、特産品が流行りもののようになった。

それだけ、働く場所ができたのであった。

廻船問屋を造って特産品を集めて廻った。

そうやってものを流通させるだけで、大変に儲けがでた。

「どうやら、日本にも職業と言う意識が生まれて、特技、特産品で、生活出来ることが判ってきたようだな。米ばかり造っていたって仕方がないのだ。より色々なものが造られることが大切だ。しかし、米は、日本人の主食だ。これをおろそかにしてはいけない。これを村々の役人たちに、伝えろ。その兼ね合いが難しいのだ。米を減らしてまで、特産品を造ってはいけない」

 傍にいた、淀は、

「殿下は、国造りの基礎工事をしているのですね。武士の数が大幅に減りました。それをどうやって、活かしていくかを考えているのですね。全国の農地が大規模農業で国有化になりました。お蔭で、農民たちの生活が、楽になってきました。ここまでを考えて、一気に改革をしたものはおりません」

 と幸村を眩しそうに見た。

「最後の大仕事が、待っているな」

「徳川ですか?」

「違うよ。あそこは自然に滅びていく。もう、相手にもしていないよ」

「殿下は大きくなった」

「蝦夷だ。松前がいるが、松前だけではどうにもなるまい。米は無理だ。小麦と、放牧と、鉱山だな。多分また、金がでるだろう。馬と牛を、沢山育てる。羊もな。北蝦夷では、ミンクの養殖ができるだろう。毛皮の宝石だ。イタチ科の小動物だが、このミンクの毛皮は、世界で通用する、素晴らしいものだ。交易での切り札になる。しかし、寒さとの戦いになる。それを克服しなくては、日本の領土は広がらない。暖房着、暖房住宅を造る。また、職人たちを困らせることになるが、根本的に寒さと戦い勝てる考えを北の民から教わることだ。すでに、各分野の者たちが、沿海州や、シベリヤに行って学び始めている。一万人以上が行

っている。彼らが、何を学んで蝦夷で活躍してくれるかだ。今の儂のもっとも案じている所だ」

 幸村が淀に言った。

 幸村の脳裏には、新しい日本の姿が、思い描かれているのに違いなかった。

 淀は、日本を統一したら、

(当然、南洋を目指すのぞえ)

 と思い込んでいた。

しかし、幸村の考えは、まったく反対の、蝦夷に向かっていたのであった。

確かに、蝦夷までは、日本なのである。

幸村の考えの中には、蝦夷から北の、北蝦夷と呼んでいた樺太や、千島列島までが入っていたのであった。

「淀。儂の、もう一つの顔を、見たいか?」

「はい。それは・・・なんとしても、見たいです。殿下のすべてを知って置きたいのです」

「命の保証のない世界だぞ。それでもいきたいか?・・・」

「はい!・・・殿下を信じています。きっと、太閤が、朝鮮で成し遂げようと思っていた世界があるのに違いありませんから・・・」

「佐助に、行くときの支度を手伝ってもらえ。鎧では重すぎる。しかし、船の中はいつも、戦場なのだ。それと向こうについたら、儂の妻だ。ということは、女王陛下だ。その支度も忘れるな。武蔵と孫一を呼んでくれ・・・」

 やがて、孫一と武蔵が、

「御用でございますか?」

 と現れた。

佐助と、才蔵もきた。

書院でのことであった。

一人の見知らぬ男がいた。

「紹介しておこう。郡山小太郎・・・別の名を、風魔小太郎という。当初は、関東制圧に必要だと思って仕事をしてもらった。しかし、関東は、もう決着が付いた。そこで、南方から、北方まで、幅の広い仕事をやってもらっている」

「よろしくお願いを申し上げます」

「こちらこそだ・・・大阪城にいれば、それなりに立場も維持していられるだろうが、外国にでたら、位置からやりなおしだな・・・」

 孫一が、真剣な、眼差しで言った。

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