第四章 6
六
「え?」
「もしかしたら、琉球辺りで、一時かたまって、置かれているかもしれない。問い合わせに時間がかかる。それまではいかがいたす?」
孫一が訊くと、近くの旅籠にて待つということであった。
数日後、
「何とか琉球に居るのをおさえた。が、問題がある。転売した額が一人五百両なってしまった。千五百万両だ。巨額だが。我々にはどうにもならない。帆船が、大阪に戻ってきてくれるそうだ。十日の余裕がある。早馬で、飛ばす他ないだろう」
孫一の言う通りになって、正純が、駿府まで走った。家康は激怒した。
しかし、相手は南蛮の商人なのである。
茶屋四郎次郎に聞いたら、五百両で買い戻せたのは、幸運であるとのことであった。
茶屋四郎次郎が、千万両を貸しましょう。
というので、千五百万両が出来た。
九度山に運ぶことになった。
捕虜は名古屋の隣の、津島港で、帆船に乗れる分だけ降ろすことになった。
本当に、捕虜三万には、宮古島と石垣島に置いてあったのであった。
帆船が三隻で、往復して、津島に捕虜を降ろした。
後一万人の時に、千五百万両を全額、正純と天海と茶屋四郎次郎が運んできた。
偽金でないのを、勘定方から十人、人を出して一箱ずつ調べた。
本物が、千五百万両ピッタリとあった。
孫一が、茶屋に、そっと、
「あと一万人ちゃんと戻す。しかし、あんたの一千万両家康から戻るかな?」
「かまいまへん。徳川はんとの手切れ金だす。安いもんだす。それより幸村様にお会いできまへんか?・・・今後、何かのお役にたてるやもしれまへん」
青柳が、それを聞いて、
「そこの蔵に呉服が目いっぱい入っている。殿に買いたいと申し込んでやろうか?」
「蔵一杯分でんな。一万両で買わせておくれやす。物は何でもよろしおま」
「伝えて置く」
幸村は仕事をした者たちに、〈ご苦労賃〉として、千両づつ渡した。千両箱一ヶづつである。
孫一、青柳、武蔵、才蔵であった。
孫一は部下に、青柳は、高梨、伊木、勘定方に、才蔵は、十人に、武蔵は、
「殿からだ」
と塙、後藤、その他の浪人組に渡したようであった。
*
大阪城が、幸村の図面通りに完成した。
太閤が言っていたよりも数倍の規模になった。
大外の天然の川を利用して、東は猫間川。西は、木津川。北は千曲(淀)川。南だけが川がなかった。
そこに幅二十間(三十六メートル)の猫間川と木津川を繋いだ濠を掘った。
家康の捕虜たちを無料(ただ)で、人夫につかった。
三万人が、飯代だけで使えたのである。
これは、何よりもの利益になった。
その上に、千五百万両が九度山の金蔵に入った。
四千両は、減ったが、多寡が知れている。
青柳が、蔵一杯の戦場掃除戦利品を綺麗に布に戻してあるものを、一万両で、茶屋に売った。
幸村に会いたいためである。会うのはいつでもよい。
幸村が人を奴隷に売る訳がないのである。
家康は、自分の性格が、災いして、慌ててひっかかったのである。
帆船は真田の持ち船であった。
濠を掘った土で、内側に高い土塁を造った。
三十間(五十四メートル)の高さがあった。
その上に見事な石垣を造っていった。
石垣は五十間(九十メートル)に一ヶ所づつ、五メートル四方の出っ張り(馬面)を持っていた。
こうすることで、石垣を確実に見張ることが出来るのであった。
そして、ここに大砲を置いた。
狼煙台、旗による信号、音による信号などの設備を五十間の間に、管を通した。
管に縦の管を付けてメガホン型のものを置いた。
大きな声で管の中に叫ぶように喋ると、両側の五十間隣りに聞こえた。
信号管であった。
これを城壁中に廻した。
石垣の上に煉瓦と土で壁を造り、白い漆喰で塗っていった。
銃眼の矢狭間を造って、笠木を置いて瓦を乗せた。
その後ろは、十間の武者走りであった。
その後ろは幅二十間の総矢倉になっていた。
長屋であったり倉庫にした。
白漆喰に三州瓦を乗せていった。
その中に、七つの城や城塞が出来た。
二つの出城も出来た。
中島と、備前島で城壁で囲んだ。
他に、船着き場を大きな規模で、造った一つは、天満で城近く、もう一つは水軍用に、木津川沿いに造った。
木津川村の城を水軍用にした。
「さあ木津川を見てご覧」
幸村が、淀、秀頼、大助にいった。
指を差したそこには、旗艦と五隻の安宅船、他の安宅船、大関船、中関船、関船、小早船が雲霞のように浮かんでいた。
「あれが、豊臣の水軍だ五艦隊どこの水軍にもまけない」
「この大阪城と、水軍なんのために造ったのか」
秀頼が聞いた。
幸村が胸を張っていった。
「豊臣が天下を獲るためでござる!」
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