第四章 5

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「牢屋に入れられる前のやりかたと同じだな」

「檻の車に入れられて、二頭の牛が曳いて、船に運ばれて満員になると、船でいずこかへ出航していきます。最終的には名古屋は燃え落ちて、降伏したとのことです」

「小面憎し!・・・城など占領する気はないのだわ・・・」

「火が完全に沈下してから、千人ほどの兵が入ると、金蔵、兵粮蔵、武器、武具、その他の蔵を開けて箱型の荷車ですべて運びだしたそうです」

 正純が言ったあとで、正信が、

「何と言う戦じゃ」

 と言葉を吐き捨てたが、家康は、

「合理的な戦の仕方よの。今後の戦の見本だな。味方に犠牲を出さず、敵の降伏を静かに見守って、降伏をして来たのは、万全の注意を払って身体検査をして逃げぬように捕虜服を着せる。理にかなっている。幸村は、短期間で、よくそこまで教育したな・・・」

「部隊編成も全然違うようです。幸村の考えが、末端にまで届く編成です。沖合に帆船が一隻浮かんでいました。かなり南蛮の考えが入っているのではありませんか?・・・嫌な噂があります。豊臣に恭順しない者は、男女を問わず。南蛮に、一人百両で奴隷に売り飛ばすそうです・・・それが、嫌なら、一人百両で買い戻せと・・・」

「な、なんと?」

「日本人は高く売れるそうです・・・確かに南蛮の帆船がきていました・・・買った彼らは、それをさらに高くどこかの国に売るのでしょう。徳川の捕虜は三万です。三百万両。いかがいたしますか?」

「豊臣からはないも言ってきていないぞ」

 家康の顔色が変わっていた。

「負けた方が、捕虜の安否を気遣うべきだと言っているそうで」

「茶屋四郎次郎に聞いたことがある。奴隷にされたら、一生、鞭で打たれながら、農奴にされるか。船底で、櫓を漕がされるか、女は女郎にされると・・・」

「はい。この噂はかなり拡がっています。徳川の者だけが、売られるそうです。それを買い戻さないと、今後は、徳川の戦には、足軽も、夫丸(ぶまる)も集まらなくなりますし、下級武士は、逃亡の恐れもあります。売られた武将の一族は、謀叛するだろうと。真実味のある噂が拡がっています。本多も何人も捕虜を出しています。譜代の中に、ひびが入ります。父も、拙者も本多一族のものを助けたいと思っております。しかし、個別の交渉には乗らないと・・・帆船が来ている所を見るともう、売られているかもしれません。そうなると拙者、徳川にはいられなくなります。徳川四天王の一族も入っています」

「正純。急いで使者を出せ!・・・幸村のやることには、ほとほと、手こずらされるわ・・・」

「至急相手に、連絡を取ります」

「む・・・」

(この問題はもっと早く解決するべきだった)

 と家康は、後悔していた。

(豊臣に帰順もしない・・・それか三万人いたら。儂でも殺すか、奴隷にでも売る気になるぞ)

 この噂を撒いたの真田忍軍であった。

帆船は真田の帆船であった。

 九度山で、会うことになった。

正純と天海が使者にたった。

豊臣側は、青柳、才蔵、武蔵が会った。

もう一人いる。孫一であった。

「遅い。もう、いない。売った相手が、転売していたらどうにもならない」

 青柳が言った。

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