第一章 9

   九


 家康の先陣は、もう大混乱を、惹き起こしていた。

 そこに、赤備えの騎馬武者軍団が躍り込んで、槍や、野太刀を揮って、敵の胸を突き、頸を刎ね上げていったから、敵兵は、どんどん逃げ出していたが、真田軍は五ヶ所から攻撃を仕掛けていた。

逃げ場がなかった。

 白の五条袈裟を頭巾にして巻いていた荒法師が、堅い樫の丸太ン棒を八角に削って、鉄の環をはめて、随所に、鉄の棘を植え込んだ武器(えもの)を縦横に振り回していた。

 三好青海入道と、三好佐三(いさ)入道の兄弟であった。

地獄の赤鬼と青鬼が、道を間違えて、この世に暴れ出たかのようであった。

 痛快なまでに強かった。

 近くに寄った途端に、八角棒に当たって、首がもげて、蹴鞠のように飛んで行った。

 二人が跨っているのは、馬ではなくて、暴れ牛に鞍を置いて、乗りこなしているのであった。

 さらに、そこに猛犬が飛びついてくる。

 猛牛が突っ込んできたが、犬も、牛も、赤鬼青鬼だけは、避けて通った。

 筧十蔵と、海野六郎は、忍びの技を使うが、槍を持たせたら、天下無双であった。

二人とも、宝蔵院流の達人であった。

 筧は、真田棟綱が、海野から真田になったときに筧氏になった五代目であった。

 海野六郎は、海野の本流を名乗っている。

 由利鎌之助は、小県郡由利郷の出身で、上田城のときから、真田氏に臣従していた譜代であった。

幸村に教わったのであるが、羯磨(かつま)という、変わった武器を使う。輪の八方に鋭利な刃が付いたものに、鎖がついているものを振り回すのである。鎖の長さは、左手で自在に加減していった。

右手には、五鈷杵の五尺ほどのながさの槍状のものを持っていた。

五鈷杵の中央が長くなっていた。

 これで、突き刺されて、グリッと一と捩じりされたら、肉が全部取れてしまう。

インドの武器であった。

それが密教の法具となって日本につたわったのだが、本来は戦闘用の武器である。

これの達人であった。

教えた幸村よりも、数段巧くなっていた。

羯磨の直径は一尺あった。

これが首にあたったら、首はもげてしまう。

法具としては、護摩壇の四隅に置くものであった。

「何という武器じゃ?」

 と敵が刀で受けた。

その途端に刀が折れた。

「わっ!」

 と、逃げようとすると、鎖が伸びて、敵の首がどこかに飛んでしまった。

 家康勢は、散々であった。

 真田軍の異様な奇襲を受けて、狼狽しているうちに、一三段構えの三段まで、難なく突破されて、四段、五段に迫って行ったのであった。

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