第一章 8

   八


 動物の凶器はそれだけではなかった。

猛牛が、枯れ枝と藁を積んだ車を曳いていた。

その藁に火を転じた。

猛牛は、火に追い立てられて、猛進していった。

牛の数は百頭、犬は、五百頭もいたのである。

 牛も、赤備えの牛鎧と、龍面を付けていた。

二本の角に鎧通しのような短い槍を付けていた。

その武器に突き上げられていった。

「こ、こんな戦など、やったことないわ!」

 家康の先陣が、ワラワラと崩れていった。

すでに、編隊の体を成していなかった。

 一隊で腹を空かせた狂暴な大型犬五百頭。

猛牛百頭であった。

それが五ヶ所から、猛烈な勢いで、攻め込んできたのである。

 これに幸村は、捕獲した猪を、檻に飼っておいたのである。

猟師からも買い取っておいた。

猪も鎧を着けていた。赤である。

意図的に餌を与えていなかった。それを檻から放した。

猪が猪突猛進していった。

「今度は猪だ。槍を付けているぞ!」

 猪の動きは早い。

次々に槍に突き刺されていった。

 その狼狽ぶりは見るも無惨であった。

その間にも、真田隊は弓、鉄砲を、疾走する台車の、盾の蔭から、騎馬武者を狙って、狙撃していった。狙いは的確であった。

足軽の群れの中には、手投げ弾を、抛り込んでいった。

それが爆発するたび、土煙と共に、兵の体が舞い上がっていった。

「敵の大砲を破壊しろ!」

 騎上から、幸村が命令した。

「承知!」

 叫んだのは、真田十人組で、真田十勇士とも言われている、その中の猿飛佐助と、霧隠才蔵であった。

二人は、大砲を見つけると、

「あれをぶっ壊すよ!・・・才蔵はあっちだ」

「承知!」

 と疾走していった。

二人とも、騎馬の上にはいない。

空馬が走っているようであった。

騎馬の鐙の片方に足を掛け、体はピタリと馬の腹につけていた。

まるで、曲騎(の)りであった。

大砲に近づくと、急に姿を騎上に現わして、長鉄砲と呼ばれる、弾丸の火薬の量の多い銃で、大砲の脇に火薬樽が、数個置いてあるとこに狙いを定めて、引き金を引いた。

 佐助の銃に限らず真田軍の鉄砲は、すべて、種ヶ島の火縄式ではなかった。

 弾丸が三部で構成されているもので、一番手前が、薬莢で、弾丸、さらに先端に、火薬の入っている尖鋭な部分から構成、されていた。

 引き金を引くと、撃針が、薬莢の尻の中央部を猛烈に、強打する。

それによって、薬莢の火薬が爆発して、弾丸が飛翔するのである。

 目標に着弾すると、先端の火薬部が、再度爆発をすると言う、最新の撃針方式であった。

 弾丸は、箱型弾倉に二十発入っていて、一発々射すると自動的に弾倉から、次ぎの弾丸が、送り込まれたが、そのためには引き金のカバーを、ガチャリという機械的な音がするまで、前に押さなくてはならなかった。

 これで、次ぎの弾丸が装填されるのであった。

自動といったが、半自動と言うのが、正確であろう。

これだけで、火縄式の、何倍も速く、弾丸を撃てた。

 佐助の一発は、見事に、敵の大砲隊の火薬の樽に命中して、大音響とともに、大砲ごと吹き飛んだ。

 別の場所でも大轟音がして、大砲が吹き飛んだ。

恐らく、爆発の衝撃で、大砲は、もう使い物にはならないだろう。

さらに、別の場所でも、次々と大音響がして、大砲の火薬の樽が爆発して、他の火薬の樽にも同時に引火して、もの凄い大爆発を惹き起こしていた。

そのたびに、多くの人馬が空中高くに舞い上がった。

 他の真田十人組の面々も活躍しているようであった。

佐助だけで大砲を三門破壊していた。

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