番外編3 エリスと夏休みデビュー2
夏休み明け1日目。
僕は少し早めに登校して教室の自分の席についていた。エリスはまだ来てないみたいだ。
実を言うとこの世界に戻ってきたあの日以来エリスとは逢っていない。
こちらもいろいろとバタバタしていたのもあるけれど、エリスの方も魔王であるお父さんと、お母さんと3人での新しい生活のために引っ越しをすると言っていたので、忙しかったのだろうと思う。
それに、あの時に連絡先を交換しないまま別れてしまったのでそもそも連絡が取る手段がなかったのだ。僕だって携帯番号くらいは交換したかったのだけど、魔王さんが僕の事をめちゃくちゃ睨み続けていたので、それもできなかった。
だから、僕は今日また学校でエリスと会えるのを本当に心待ちにしていた。いつもより朝早い時間に学校に来てしまったのもそんな理由があったからだ。
エリスと逢えないでいる間、もしかしたらエリスがもう学校には来ないんじゃないか、このまま逢えない可能性が万に一つくらいはあるんじゃないかという不安がよぎった事もある。
自分の席に座って教室の入り口を眺めながら僕は心がそわそわして落ち着かなかった。
そんな永遠のように感じられた時間、実際には10分くらい経ったころ、彼女がやってきた。
銀色に透き通った美しく長い髪、雪のように白く綺麗な肌、すらっとした細い手と足をした美少女が教室へと入ってきて、僕の方を見て嬉しそうな微笑みを浮かべた。
僕の心にすーっと心地良い風が吹き抜けた気がした。そして彼女は僕の側へと駆け寄ってきて言った。
「おはよう、ユウ」
「ああ、おはようエリス」
普通に一言ずつ朝のあいさつを交わしただけだというのに、心が躍り、嬉しくてたまらなかった。
そして、エリスはあの日の後に始まったお父さんとお母さんとの3人での新しい暮らしの事を話してくれた。魔王さんは相変わらずあの調子だったみたいだけど仲良くしているみたいで安心した。
そんな感じでエリスと他愛もない会話をしていたのだが、しばらくしてちょっとした異変に気付いた。
クラスのみんなの視線を感じる。みんながこちらを見てざわついているのだ。
確かに僕とエリスが教室でこんなふうに会話をするのは初めてだ。はたから見て珍しいのだろうとは思う。
でもそれにしたって、ざわつき方が異常に大きくはないだろうか。
そんな事を考えていると、ひとりの女子生徒がこちらに近づいてきて、声をかけてきた。
「おはよう。姫宮さん」
「え? あ、おはよう。委員長さん」
エリスは後ろを振り返り女子生徒に向かってそう答えた。
声をかけてきたのはこのクラスの委員長の石見美緒だ。
ちなみに彼女は幼稚園から小、中、高とずっと僕と同じクラスという腐れ縁である。僕の姉さんとも仲が良く、たまに家に遊びに来ていたりもしていた事もある。
僕と付き合い始めたんじゃないかと姉さんがおかしな勘違いしていた相手というのも彼女だった。
まあ、僕にとって唯一の女友達と言える存在である事は確かだけれど。
「姫宮さん、なんだか雰囲気変わったね。びっくりしちゃった」
「え、と……。そうかしら? そんなに違って見える?」
「うん。なんだろう。どこがと言われると困るんだけど、なんだかオーラが違うっていうか……。凄く綺麗になった気がするよ」
どういう事だろう。確かにエリスが凄く綺麗だというのは完全に同意するけど、前とそんなに違うだろうか?
僕は異世界でずっと一緒に旅をしていたから気付いていないだけで、久しぶりに会った人から見たら結構変わっているのかな?
いや、待てよ。確かエリスって異世界人だってバレると困るから、周りから注意を向けられる事がないように認識阻害の結界に守られていたはずじゃないか。
そのせいで、絶世の美少女であるにも関わらず、学校内では注目の的になる事もなく、これまでずっとぼっちで過ごしている事が多かった。こんなふうにクラスメートから声をかけられる事も、僕が見ている限りほとんどなかった。
美緒から声をかけられた事もそうだが、今教室にいる全員がざわざわしながら僕らの方を見ているというのもおかしい。もしかして、認識阻害の結界が解けているのだろうか?
「なあ、エリス……」
僕が問いかけようとすると、エリスは人差し指を唇に当てて左目を閉じウインクをしながら「しっ」と静止した。
そうか、確かに教室で聞くのはまずいよな。あと関係ないけどエリスは仕草も本当に可愛いな。それに、異世界ではずっと一緒に居たけど、制服姿を見るのは久しぶりだからなんだかすごく新鮮に感じる。
そんな僕とエリスのやりとりを不思議そうに見ていた美緒が、エリスに向かってこう言った。
「姫宮さんって悠……じゃなくて八木崎君と仲いいの?」
やっぱりそこは突っ込まれるか……。
クラスメートから見たら一学期まで地味だった女子が夏休み明けに急に超絶美少女に変身していて、僕みたいな普通の男子生徒と急に仲良さげにしているという状況なのだろう。不思議でならないだろうし、注目されて当然だ。
さて、エリスが異世界人だって事は隠さないといけないし、あまり人目は引きたくない。どうにか目立たないように事を鎮めるにはどうしたらいいだろうか。
僕がそんな事を考え始める間もなく、エリスは美緒に向かってこう答えていた。
「うん。そうなの」
特に、隠そうとする事もなく即答だった。
いいのか? エリス。
教室中のざわつきが一層大きくなり、クラスのみんなからの視線が突き刺さってくる。特に男子生徒どもからの視線は明らかに殺意に満ちている。
どうしようと思った、その時。
「おーい。お前ら席に着け。ホームルーム始めるぞ」
クラス担任の秋山先生が教室に入って来てそう言った。とりあえずは助かったけど、変に注目を浴びるのもマズイと思うし、後でエリスとちゃんと相談しておかなきゃな。
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