番外編2 エリスと夏休みデビュー1
僕がエリスに告白をしたあの日。
それは、一学期の期末テストが終わり、もうすぐ夏休みが始まるのだと、どこか浮ついた空気がクラス全体を包んでいた、そんな日だった。
その日の放課後、校舎裏にある大きな樹の下に彼女を呼び出して告白をし、そのまま異世界へと召喚されてしまった。
そして異世界から帰ってきて同じ樹の下で僕がエリスに二度目の告白をしたあの日、それはひぐらしが鳴く、八月も終わりに差し掛かっていた時期の夕暮れ時だった。
つまり、僕らはだいたい1ヶ月とちょっとの間、異世界で魔王を倒す旅をしていた事になる。
その間、こちらの世界では僕らは消えていたわけで、ご都合主義的になんとかなっていたという事も特になく、普通に行方不明者として扱われていた。
そうはいっても、エリスの方は行方不明だとか、失踪しただとか、特にそういう騒ぎにはなってなかった。もともと、彼女は認識阻害の結界に守られていて、普通の人間はエリスに注意を向ける事ができないようになっていたし、こちらの世界では誰かと同居していたという事もなく一人暮らしだったからだ。
そのため、数日間学校を無断欠席という扱いにはなったものの、それ以上の問題には発展していなかった。
問題は僕の方だった。
一言で言うと、僕は普通に警察に捜索願いが出されていた。高校一年生の息子が急に居なくなってしまったのだから、家族がそうするのは当然といえば当然だと思う。ちなみに、僕の家族は母と姉が一人、父は海外へ長期の単身赴任中なので、普段は僕と母と姉との3人で暮らしている。
そういうわけで、僕は母と姉に、行方不明になっていた間に一体何をしていたのかと問い詰められた。
まさか異世界に召喚されていたと言う訳にもいかず、かなりのピンチだった。
窮地に追い込まれた僕が取った手段は『話したくない』の一点張り。強引ではあるが、話す事ができないのだから仕方がない。それで押し切るしかなかった。
それっぽい作り話で誤魔化す事も考えたのだけど、僕は昔から嘘をつくのが下手なのだ。
子供の頃は何かやらかしてしまった時など、嘘でごまかそうとした事もあった。姉さんはちょろいので何とかなるのだけど、母にはすぐに見抜かれてしまう。
僕がついた嘘が自分の保身のためだったりした時は烈火のごとく叱られたし、誰かを庇うために嘘をついた時は、母は嘘だと見抜いた上で諭すように僕の頭を撫でてくれた。
やはり、子供のついた嘘など母親には見透かされてしまうのだと小さい頃から身に染みていた。
そういうふうに育ってきたので、僕は基本的に嘘はつかないようにしている。嘘が下手だといいう事だけが理由ではない。
物事を円滑に進めるために、時には嘘をつく事も必要なのかもしれないけれど、嘘をつかない事で抱え込まなきゃいけない厄介ごとは、やっぱりきちんと正面から向き合うべきものなのだと思うからだ。
意外な事に、『話したくない』で押し通す僕に対して母は何も聞かなかった。正座をして俯いている僕に母は『言えるようになった時に言ってくれればいい』そう言ってくれた。
むしろ厄介なのは姉さんの方だった。自分がどんなに心配したのかという事を捲し立て、僕に何があったのかとしつこく問い詰めて来た。
当然、正直に話せるわけはない。しかも姉さんには、僕が夏休みの前に気になる女の子に告白しようとしていた事がバレていた。もちろん、自分から姉に相談を持ちかけるような事はしてない。
なぜ気づかれたのか分からないが、梅雨の時期に長雨で出かけるのが億劫になって家のリビングでくつろいでいた時に突然、『好きな女の子でもできたんでしょう』と追及されたのだ。
最初は幼なじみの美緒と付き合い始めたのではと勘ぐられたが、それは違うと否定したところ、じゃあ相手は誰なんだとしつこく追求されて逃げきれなかった。同じクラスの転校生に片思いしてるんだよと言ってしまった。
そんな背景もあって、姉さんは僕がその転校生の女の子に振られたショックで自暴自棄になって家出したんだろうと思いこんでいたらしい。
ある意味当たっているところもあるので、姉の妄想もなかなか侮れない。仕方がないので、僕は姉の妄想に乗っかり、失恋のショックで放浪の旅をしていたという事にした。もちろん、『恥ずかしいから誰にも言わないでくれ』と口止めはしておいた。口止め料としてタピオカミルクティを奢らされる事になったけれど、その程度で済むのなら安いものだ。
そうして、僕は夏休みが明ける前に、いったんは普段の日常を取り戻す事ができていた。
そして、それから数日後に新学期を迎えた。
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