第42話 エリスの告白

「さて、ひとまずお話はこれくらいにしておきましょうか。日が暮れる前に街までたどり着きたいですからね。私も勇者さんに敗れて軍門に降りましたので、城まで同行させていただきます。魔王様を倒せるように一緒に頑張りましょう!」


 え? 魔王を倒すだって!? 


「いや、魔王ってエリスのお父さんで普通の人間ですよね? どうして倒すっていう話になるんですか!?」


「だって、あなた方は魔王様を倒すために旅をして来たのでしょう?」


「それは魔王が本物の魔王だと思っていたからで、エリスのお父さんだと知っていたら倒しませんよ!」


 すると、ルークさんは腕を組み、握った右手を口元に当てて少し考えるような仕草をしてからこう言った。


「ううむ。勇者さんは魔王様を倒すつもりがないと……。困りましたね。うむ、確かに、これからどうするかを決めるためにはもう一つ、いや、二つ確認しなければならない事がありました。勇者さん。あなたはエリス様に愛の告白をしたわけですが、今でもエリス様を好きという気持ちに変わりはありませんか?」


 え? また、何で急に!? 

 エリスの事は、まだ好きどころか一緒に旅をしているうちに、さらにどんどん好きになっているけれど……。


「はい。エリスの事が好きです」


「ななな、何を言ってるのよ!? みんなの前で!」


 エリスが顔を真っ赤にそめて慌てふためいた様子で僕に向かってそう叫んだ。


「いや、だって、もう告白した事はみんなに知られちゃってるし、隠しても仕方ないかなって……」


 すると、ルークさんが口を挟む。


「さて、勇者さんの方は分かりました。で、エリス様はどうなんですか?」


 エリスは驚きを隠せない様子で、目を丸く大きく見開いて、ルークさんへ向かって叫んだ。


「どうって! 何でそんな事を言わないといけないのよ!」


「そんな事ではないですよ! エリス様は、告白をされたにも関わらず、ずっと返事をしていないじゃないですか!」


「いえ、でも、そんな、みんなの前でなんて……」


 エリスは顔から火が出そうな勢いで頬を真っ赤に染めて、そうつぶやいた。


「ここに居る皆、エリス様のせいでさんざん巻き込まれたんですよ! それくらいは聞かせていただく権利はあります。ねえ、ルーシア」


「そうですよ姫様! はっきり仰ってください! さもないとピロロに勇者さんを取られちゃいますよ!」


 ルーシアさん!? 

 そこでピロロを引き合いに出すのはおかしくないですか?


「もう! 言えばいいんでしょう! 好きだもん! ユウのこと、好きだもん!

みんなの、ばかーーーーーーーーーーーーー!!」


 …………え? 本当に?

 一瞬の驚きのあと、次第に体の奥から熱いものが込み上がってくるのを感じた。

 エリスが僕の事を好き?



「いやあ、これでスッキリしました。ならば何も問題はないですね。それでは参りましょう。魔王様を倒しに!」


「だからちょっと待ってください! どうして倒すっていう話になるんですか!?」


 喜びを噛み締める余韻の時間もくれないのか、この人は! 

 僕は思わず叫んでしまった。


「いえ、エリス様はこちらの世界に残り、勇者さんだけ向こうの世界に帰す、という事であれば、まだ交渉の余地はあると思うのです。でも勇者さんはエリス様と一緒に向こうの世界に戻って高校生活を続けたいのでしょう? それでは交渉で解決するのは無理ですね。魔王様を打ち倒して此方の要求を認めさせるしかありません」


「そんな! 本当に話し合いではどうにかならないんですか?」


「先ほど申し上げた通り、魔王様はエリス様に男性が近づかないように強力な結界を張るほどエリス様を大切にしているのですよ。いきなり彼氏を城に連れて来られて、まともに話ができると思いますか?」


 いや、ルークさんの言いたい事は分かったけれど、マジか……。

 普通に魔王を倒しに行った方が全然マシだ、というくらいに気が重い。


「分かっていただけたようですね。それでは今度こそ出発しましょう!」


 ルークさんが皆を促したその時だった。

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