第40話 エリスの事情1
「その女の子というのがエリス……」
「ええ。エリス様には物心つく前から魔王としての英才教育が施されました。それは本当に徹底したもので、架空の歴史まで捏造し、この国は古代より魔族が支配する魔王の国なのだと教え込まれていたのです」
「ええっ!?」
「エリス様は生まれてからずっと自分が魔族であると信じ込んでいて、それはもうご立派に魔族の姫として相応わしい畏怖堂々たる振る舞いをされておられました。特にエリス様が十歳になられた誕生日に宮殿の広場に民衆を集めて行われた演説は圧巻でしたね。なにしろ第一声が
『我にひれ伏せ! この愚民どもが!!』
、でしたから」
「いやあああああああああああ! やめてえええええええええええ! 皆でわたしのことをバカにしてたんでしょう! 知ってるんだから!」
急にエリスが頭を抱えて大声で叫び出した。
すると、ルークさんはエリスの方へ向かって言った。
「馬鹿にするなんてとんでもない! エリス様は我が国にとって大切なマスコット……。いえ、未来の支配者であられますから」
「いまマスコットって言った! わたしのこと笑い者にして、客寄せの見世物にしていたって事でしょう! うええええええええええええええええん!」
「いえ、まあ、それは置いておくとしても、エリス様が民衆に慕われていたのは間違いありません。その証拠に、あの演説の翌年の、魔王軍への志願者は例年の3倍に増えましたしね。私が面接を担当していたのですが、あの演説を聞いて『エリス様に一生ついて行きます!』と言う者が後を絶ちませんでした」
その話を聞いて、ああ、この国は本当に平和なんだなと、僕は思った。
「さて、話が逸れましたが問題はここからなのです」
「まだ何かあるんですか!?」
「ええ。このあと悲劇が起こります。今から一年と少し前の事です。悲しい事故でした。
エリス様は遂に知ってしまったのです。この国の本当の歴史を。自分が魔族の姫などではなく、しがない温泉国家の、ただの人間の姫でしかないという事を。
真実を知ったエリス様はたいそうショックを受け、『もう誰にも会いたくない』と、ご自分の部屋に引きこもってしまわれたのです。
それを見た魔王様は、何とかしようと、ありとあらゆる手を尽くしてはみたのですが、エリス様は決して部屋から出てこようとはしませんでした。そして、そんな状態が一年ほど続いたある日のこと。突然、エリス様が部屋から出てきてこう言ったのです。
『私の事を知る人が誰もいないところへ行きたい。お母さんの故郷の異世界へ留学して人生をやり直したい』と。
魔王様は悩みに悩んだ末、条件付きでエリス様の日本への留学を認めることにしました。
そして、貴方と出会ったのです」
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