第38話 魔王の真実3

「民衆の前で大魔王になると宣言した後、新しい王による改革が始まります。自身は魔王と名乗り、城の内装、外装を魔王城として相応わしい装飾のものに変え、王国軍も魔王軍に、というように名称を改めました。その一方で、裏で国内各地の改革も並行して進めていきました。

異世界から持ってきた様々な資料を参考に魔王様自らが設計した新しい武器や防具を作らせたり、街の要所の建物を異世界の資料に倣って改装させたりといった具合に。

また、国内の主要都市にギルドを組織して冒険者を誘致し、各地で被害を出していたモンスター達にも対処していきました。そうする事で、減少していた温泉への観光客を呼び戻す。それと同時にギルドに通う冒険者達も顧客となりますから温泉がさらに潤う。そういう好循環を生み出す事。それが目的でした。

初めはやはり戸惑いを隠せなかった国民たちでしたが、結果が出始めると浸透するのは早かったですね。王子の真意を理解した国民達は、もともと人をもてなす事が好きでノリのいい国民性だったこともあって、王子をきちんと魔王として崇めるようになり、ギルドも初期の国主導から民間主導へと移管しましたし、国の財政も破綻寸前だったのが数年で持ち直し、黒字の状態が二十年近く経った今でも続いています」


 なんだか無茶苦茶な話ではあるけれど何となく理解はできる。

 僕はそれに近い話を元の世界でも聞いた事があった。


「ええと、つまり、お客さんが減って寂れていた観光地が、魔王のいる冒険者の世界を再現する事で人を集めて、町興しとして盛り上げようと、そういったノリという事ですか?」


「だいたい合っているのではないかと思いますよ。魔王様の言葉を借りると、国全体が魔王城と温泉を中心に据えた夢の国なのだ、と言っておられましたが」


 ああ、スパを併設したテーマパークみたいなイメージなのか……。

 そして、この話を聞いて僕は、核心となる質問をルークさんへ投げかけた。


「じゃあ、魔王というのは魔族だとか悪魔と契約した人だとかそいうことじゃなくて、魔王と名乗っているだけの普通の人間の王様という事なんですか?」


「ひと言で言うと、その通りですね」


「その通りって……。それじゃあ魔王を倒したらモンスターがいなくなって世界に平和が訪れるとかそういう事は……?」


「そのような事も特には無いですね」


 ルークさんはあっさりとそう言い放った。

 じゃあ今まで必死に魔王を倒しに行こうとしてたのは何だったんだ? 

 ていうか、何で魔王を倒そうとしてたんだっけ?


「そうだ、エリス! どうしてエリスは僕を勇者にして魔王を倒しに行くなんて言い出したのさ!」


 僕はエリスへ問いかけた。

 すると、ルークさんがエリスを庇うように遮って言った。


「待ってください勇者さん! まだ話は前置きしか話していませんから。本題はここからです」


「え!? 前置きって、まだ何かあるんですか!?」


「その通りです。肝心のエリス様の話をまだしてないではないですか。ここまで話したのはエリス様が生まれる前の話ですから」


 確かに、言われてみればそうだ。


「ねえルーク先生……。今日のところは、もうそれくらいでいいんじゃないかしら……」


 か細い声でエリスはそう言った。


「駄目ですよエリス様。エリス様が問題を先送りにしているから、こういう事態になってしまったんじゃないですか。いま私から話してしまったほうが楽ですよ。それともエリス様から勇者さんにお話しされますか?」


 すると、エリスは今にも泣きだしそうな声でこう言った。


「うう、わかったわよ……。ルーク先生、お願いします……」


 そしてルークさんは話を続けた。

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