第37話 魔王の真実2

「話は今から二十数年前に遡ります。この国はユワークという、人間の王が治め、温泉を観光資源とし、近隣諸国からの観光客を温泉でおもてなしする事で外貨を稼ぐ、そのような国家でした。しかし当時、国内各地のモンスターによる被害が増加しており、その影響で観光客が年々減少傾向、そんな問題を抱えていたのです」


 確かにこの国には素晴らしい温泉が沢山あって賑わっているけれど、昔はそんな感じだったのか。

 ルークさんは話を続ける。


「当時、この国の王には一人の王子がおりました。その王子はこの国、いえ、この世界の歴史を探しても類を見ないほどの才を持ち、文武両道はもちろん、魔法の研究においては特に卓越したものを持っておられました。この世界各地の古代の魔法書を読み漁り、それらを組み合わせて自分で新しい魔法を次々と開発してしまうほどに。そして遂に、今まで誰も為し得なかった大魔法を開発してしまうのです。そう、異世界への転移魔法を」


 異世界転移魔法だって!? 

 そうか、僕らが世界を移動する時に使われた転移魔法は、その王子が開発したものなのか。


「王子は異世界転移魔法を使って様々な世界に行っては帰る、というのをしばらく繰り返していたそうです。ただ、当時の国王や側近たちはその事を信じてはいませんでした。なぜなら、異世界というのは王子の口から聞いただけの話でしかなく、そんなものが存在するなんて発想は、当時は誰も持ってはいなかったからです。異世界云々は王子のほら話で、魔法でこの世界の他の国へ転移して遊び呆けているだけなのだろうと皆から思われていました。しかし、ある日、王子は『面白い世界を見つけたから、しばらく留学してくる』そう言い残して忽然と姿を消してしまいました。王子の言い分では、異世界の政治や文化を学び、いずれこの国の王となった時に国政に活かしたい。そういう事だったそうです。

そして王子が居なくなった事で王宮は大混乱になりました。王子はこの国の大切な跡取りでしたから当然です。国王は近隣諸国にも協力を仰いで王子の捜索依頼を出しました。報奨金まで用意して。しかし、王子は見つからず、国王は心労で倒れ、病床に伏してしまう有様でした。

それから3年余りが経った頃、王子が戻って来たのです。黒く長い髪に黒い瞳、この世のものとは思えないほどの美しい女性を連れて」


 黒髪に黒い瞳ってもしかして日本人? 

 王子は日本に行っていたって事なのか?


「王子はその黒髪の女性を自分の妃にすると言いました。当然、国王と側近たちは大反対です。国の次期王位継承者の妃が異世界人だなんて、簡単に認められる訳がありませんから。王子と国の者たちの言い争いは数週間におよび、遂には王子が、もう国を捨ててその女性と二人で異世界で暮らす、と言い始めました。

国王がご病気の状態なのに跡取りまで居なくなられては大変です。国王は終には諦めて、二人の結婚を認め、自分ももう長くはないからと、王位を王子に譲る事を決めました。

そしてこの国の歴史の転換点。全てを覆す運命の日がやって来ます。

新しい王の戴冠式と婚礼の儀が一緒に行われた日、宮殿の広場に国民を呼び入れて行われた式典で、王子がお言葉を表明する場での出来事でした。王子は一言、こう言い放ったのです。

に……俺はなる!!!!』

、と」



「ちょっと待ってください! 途中までは理解出来ていたつもりなんですけど、たった今、全く理解ができなくなりました!」


「ええ、勇者さん。いい反応です。まさにその通り。王子のその言葉を聞いた誰もが、今の勇者さんと似たような状態になりました。かく言う私もまだ子供でしたが、当時その場に居合わせまして、全く意味が分からなかったというのを覚えています」


「そこで何でいきなり魔王が出てくるんですか!?」


「異世界留学先の日本で学んで来た文化がかなり偏っていたという事が大きいようなのですが、続きの話を聞いていただければ、よりお分かりになるかと」


「あ、すみません。続けてください」


 僕がそう言うと、ルークさんは話を続けた。

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