第35話 勇者VS魔王軍幹部

「フッ……。一人で魔王様を倒す? 何を馬鹿なことを。貴方程度の実力で魔王様が倒せると思っているのですか? そういうセリフは、まずこの私を倒してから言ってください!」


 そう言って幹部は僕に向かって剣で斬りかかってきた。

 幹部の剣を僕は自分の剣で受け止める。


 幹部の攻撃はエリスに比べれば軽い。大した威力じゃない。

 僕は一度、後ろに飛び下がり今度はこちらから攻めに走る。


「うおおおおおおおおおお!」


 僕は幾度となく幹部に対して剣を打ち込み続けた。

 このまま力で押し切ってやる。


「くらえ!」


 僕はありったけの力を込め幹部の肩口に向かって剣を振り下ろす!

 しかし、僕の剣は幹部の頭上で静止した。

 これ以上は押し込めない……。

 魔法力の盾で防御されたのだ。


 幹部は僕の一瞬の虚を突いて、横腹に蹴りを打ち込み吹っ飛ばした。


「くっ……」


 必死に痛みに耐える。

 魔法力を攻撃に集中していたせいで身体の防御が甘くなっていた。

 僕は体勢を立て直し、幹部の方へまた剣先を向けた。


「なるほど、エリス様に教えを受けただけあって、戦い方もエリス様にそっくりですね。でも、その程度の力では私の盾は破れませんよ。それこそ魔王様クラスの力をぶつけない限りはね」


 く、確かに幹部の言う通りだ。

 あの幹部の盾は恐ろしく硬い、ドラゴンの鱗以上だ。

 そうか、ドラゴン……。

 エンフィールドでドラゴンを倒したあの技なら通用するかもしれない。


 今度はエリスからの助けはない。

 僕一人でやらなくちゃならない。

 避けられたら終わり……。


 いや、そんな事は考えちゃダメだ。

 弾丸と化すイメージ。

 全力、全速力で避ける間もなく撃ち抜いてやる!


「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 僕は身体中の全ての魔法力を突き出して剣に乗せ、幹部へ特攻をかけた。


「これは……」


 幹部はそうつぶやき、避ける素振りも見せず僕の攻撃を魔法力で作った盾で真正面から受け止めた。


 幹部の手前で剣が止まる。

 動かせない。

 いや、まだだ。この程度で、こんな所で終われるか!


「負けっるかああああああああああ!!!!」。


「な、馬鹿な、私の盾が! 魔王様以外には破られたことのないこの盾が!!」


 僕の剣は少しずつ幹部の魔法力の盾を侵食し前へと進んで行く。

 と、その瞬間、剣を押し留めていた力が一気に弱まり、それと同時に幹部は上方へと飛び跳ねて僕の攻撃を躱していた。


「ぐはっっ……」


 幹部が声をあげる。

 躱されはしたが、僕がぶつけた魔法力のエネルギーで多少はダメージが入ったようだ。


 だが、全然浅い!!

 勢いそのままに前方にぶっ飛んだ僕だったが、必死で足を踏んばり転ぶことなく体勢を立て直して幹部の方へ振り返る。


 まだ終われない!


「もう一撃!!」


 僕がそう叫んだ時だった。

 幹部が慌てたように両手を上に挙げ、僕に向かってこう叫んだ。


「ま、待ってください!! 私の負けです! 降参します!」


 降参だって? 

 馬鹿な。まだ全然勝負はついていない!

 向こうが降参する理由なんて何もない!


「そんな言葉に騙されるか! 何を企んでいる!!」


 僕は幹部に向かって叫んだ。

 すると、幹部は言った。


「落ち着いてください! ほら、エリス様からも何か言ってあげてください」


「待って、ユウ! その人は敵じゃないの!」


 エリスが僕に向かって叫んだ。


「エリス……。それって一体どういう……」


 僕がそう言いかけた時だった。

 突然、僕の全身を、神経を引き裂かれるような激しい痛みが襲った。

 身体中が痛い。動かせない。

 

 しまった……。

 魔法力を無理に放出した反動が来たのだ。

 僕はそのまま前のめりに倒れ込んでしまった。


「ユウ! しっかりして!」


 エリスの声が聞こえる。


「仕方ありませんね。早く事情をお話ししたいところではありますが、皆さんの回復が先ですね。勇者さんだけでなく、エリス様とミリア様も治療が必要ですし。

ピロロ、お仕事の時間ですよ!」


「わーい。回復のお仕事だー」


 ピロロ? もしかしてピロロも幹部と知り合いなのか? 


 ピロロの回復魔法による治療を受けながら、薄れそうな意識の中で僕はそんな事を考えていた。

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