第34話 勇者の覚悟
茫然と立ち尽くしていた僕に向かって幹部は言った。
「ああそうでした。邪魔が入って忘れていましたが、どうしてエリス様を連れて行くのか? その理由を、お話ししようとしていた途中でしたね。
クックック。おめでたい人だ。ずっと騙されていたとも知らずに」
「騙されていた!? 何のことだ!」
僕は幹部に向かって叫んだ。そして幹部が僕の問いに答える。
「そこに居るエリス様こそ魔王様の一人娘。いずれ魔王となるこの国の後継者なのです!」
幹部の言葉が僕に突き刺さった。
エリスが魔王の娘だって!?
そんなはずはない!
エリスは僕と一緒に魔王を倒す約束をしているのだ。
ありえない!
「デタラメを言うな! そんな言葉に惑わされるものか!」
「ふむ。でもおかしいとは思いませんか? エリス様のこの力。何故これほどまでに強い魔法力を持っておられるのか。魔王様のご息女である証拠として十分だと思いますが……。ねえ、エリス様」
「エリス……」
僕は、幹部との戦いに敗れて座り込み俯いたままでいるエリスの方へと目を遣った。
するとエリスはつぶやくように声を出した。
「言える訳がないじゃない……。私が……。魔王の娘だなんて……」
エリス……。
魔王の娘だって。本当なのか。
何で? どうして? わからない。
頭の中がぐちゃぐちゃになる。
ああでも、エリス本人から発せられた言葉だ。
これは本当の事なんだ。
エリスは魔王を、自分の父親を倒そうとしている。
そのために僕と一緒に旅をして来たのだ。
どうして……?
そんなのは決まっている。
世界に平和を取り戻すためだ……。
魔王の娘であるエリスは異世界転移をしてまで勇者を、僕を連れてきた。
僕を鍛えて一緒に魔王を倒すために。
必死に自分の正体を隠して。
それはどんなに辛い選択だろう。
僕に戦い方を教え、強くなったねと微笑んでくれたエリス。
その笑顔の裏にはどれほどの悲しみ、苦しみが隠されていたのだろう。
どれだけの覚悟を持って、自分の父親を倒そうと決意したのだろう。
エリスが魔王の娘だと知ったら、きっと僕は魔王と戦う事をためらう。
そう思ったからエリスは言い出せなかったんだ。
僕が頼りないせいだ。
僕は自分が許せなかった。
勇者になると決めたあの日、エリスの事を守れるくらい強くなるって決意しておきながら、僕はエリスの笑顔の裏にどんな気持ちが隠されていたかなんて、今まで全然分かってなかったんだ。
なんて能天気な馬鹿野郎なんだ、僕は……。
いま僕がエリスのためにしてあげられる事は何だろう。
エリスの力になりたい。
エリスを守りたい。
エリスのために……。
僕がいま考えられるのは。
信じられるのはその一点だけだ。
僕は覚悟を決めた。
「エリスが何かを隠してるって事くらい最初っからわかっていたさ!
だが、それがなんだって言うんだ!
僕はエリスを信じるって決めた!
エリスを守れるくらい強くなるって決めた!
エリスが魔王の娘だっていうのならエリスにはもう戦わせない!
エリスに悲しい想いはさせたくない!
僕が! 僕一人で魔王を倒してやる!」
それが僕が導き出した答えだった。
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