第26話 温泉にて~エリスとルーシアとピロロ
エンフィールドでの歓迎の宴が夜更けまで続く中、僕は街の皆と話が弾んでしまって離れられなかったけど、エリス、ルーシアさん、ピロロの3人はは戦闘の疲れを温泉で癒したいと言って途中で会場を抜けていった。
あまり長居するとエリスの正体がバレてしまうかもしれないというのもあるからだろう。
◆
「姫様、今日はいろいろと大変でしたね。お疲れさまでした」
「ほんとにね。でも街の人達に犠牲者が出なくてよかったわ」
「ピロロも回復のお仕事がんばったよ?」
「ありがとね。ピロロ。えらいえらい」
「えへへ。姫さまにほめられちゃった」
「それに少しヒヤヒヤしましたが、姫様の正体がバレなくて良かったです。意外と大丈夫なものですね」
「そうね。割と強めの結界を張っているから普通の人にはそうそうバレないわよ。それにしても、みんな『魔王を倒す勇者が現れた!』って喜びすぎじゃない? そんなに魔王に倒されて欲しいと思っているのかしら?」
「……ソ、ソンナコトハナイトオモイマスヨ?」
「何でカタコトなの!? 目を逸らさないでよルーシア!」
「す、すみません……。でも姫様。これからどうするおつもりなんですか?」
「どうするって、何のこと?」
「勇者さんが魔王様を倒しに行くというのが街の皆さんに広まってしまいましたが、姫様はこのまま本当に魔王様と戦うつもりなのでしょうか?」
「それは……ええと……。ど、どうしようルーシア?」
「えっ!? 私に訊かないでくださいよ! もしかしてどうするのか考えてなかったんですか!?」
「だってこんな事になるなんて思ってなかったんだもの!」
「どうしてですか!? 魔王様を倒しに行くんだって、勇者さんを勇者にしたのは姫様じゃないですか! こういう事になるって分からないはずがないでしょう!?」
「ち、違うのよ! こうなったのは成り行きでっていうか。勇者になって魔王を倒しに行くっていうのはユウの方から言い出した事だし。わたしもその場のノリでそうだって言っちゃったけど……。でも、ユウを鍛えてある程度強くなってもらう必要があったんだもん!」
「どういうことですか姫様?」
「だって向こうの世界に戻るためには城に帰って転移魔法をかけてもらうしかないわけでしょう? ルーシアあなた、弱いままのユウを城に連れて行って無事にすむと思う?」
「間違いなく、魔王様に殺されるか運が良くても半殺しにされますね……」
「でしょう? だから少し殴られても死なないくらいには強くなってもらわないと困るのよ。勇者って事にすれば強くなるために修行をする理由ができるし、ちょうどいいと思って……」
「それで修行と称して、あんなにぽかすか殴ってらっしゃったんですね。魔王様に殴られても大丈夫なように。私はてっきり、お二人がそういうご趣味があるのかと思っていました」
「趣味ってどういう事!? それを言うならルーシアだってスライムに自分を襲わせて喜んでるようなヘンタイじゃない!」
「ルーってへんたいさんなの?」
「ち、違いますよピロロ! 姫様も変な事を言わないでください。この話はもう止めにしましょう」
「そうねルーシア。わたしも言い過ぎたわ。でもわたし何も考えずにただユウを剣で叩いてたわけじゃないのよ。ほら、わたしって人の身体の中の魔法力の流れが視えるじゃない? だからこうツボを刺激するような感じで『えいっ』って叩いてたんだから」
「姫様はそんな事ができるのですか? いえ、おかしいと思ってはいたんです。ドラゴンを倒した時の勇者さんのあの力は尋常じゃありませんでしたから。私も勝てはしましたけど、決闘なんて申し込んで良く無事だったなと、今思い返すと恐ろしいです……」
「わたしもユウが短期間でここまで強くなるなんて想像してなかったわよ。特に打たれ強さに関してはもう私より上かもね」
「ええっ!? 姫様より上って、そんなにですか!?」
「だって、わたしが仮に自分の攻撃を受けたとしたら、あんなに平気そうな顔して立ち上がってこれないと思うもの」
「それはやっぱり勇者さんが特殊なだけなのでは……? 色々な意味で」
「ルーシアあなた、どうしてもわたし達をそういう目で見ないと気が済まないの? 違うんだってば。わたしって基本的に攻撃されても躱すか打ち返すかだから、あんまり攻撃を受け慣れてないのよ」
「なるほど、確かに打たれ弱そうな印象がありますね姫様って。色々な意味で」
「やっぱりなんだか言い回しが引っかかるわね……」
「い、いえ、他意はありませんよ! それより姫様! そういう事でしたらもう勇者さんに事情を説明してしまって、まっすぐ魔王城に向かわれても大丈夫なのではないですか?」
「えっ!? そ、それはまだいいじゃない。だって話しても話さなくっても魔王城に行くことに変わりはないわけだし。わ、わたしにも心の準備があるのよ! 自分のタイミングで、魔王城に着くまでにはちゃんと話すつもりなんだから!」
「心の準備ですか? あ、いえ……いつ話すかは姫様にお任せしますし、私は口を出すつもりはありませんが……」
「ピロロ、まだお兄ちゃんと姫さまといっしょに冒険したいよ?」
「そうねピロロ。わたしたちの冒険はまだ始まったばかりだものね!」
「はあ……。冒険ですか……。そうですね。こうして皆さんと一緒に旅をするというのも、これが最初で最後でしょうし、楽しまなきゃ損ですよね」
「そうよルーシア。良く分かってるじゃない。さあ、そろそろお風呂からあがりましょうか。また明日からもよろしくね!」
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