第23話 緊急クエスト2

「うわああああああああ!」


 ドラゴンと戦っている冒険者たちの悲鳴が響き渡る。

 ドラゴンは先ほど打ち破った城壁を超えて街の中へ入ってしまっていた。


 人の背丈を超えるような大きな瓦礫があちらこちらに散乱している。

 そこには二十人ほどの冒険者たちが戦っていて、立っている者も既に満身創痍、怪我をして動けなくなっている者もいるみたいだ。


 それに彼らがドラゴンに向かって剣や魔法で攻撃をしても、ダメージらしきものはほとんど与えられてなさそうだった。


 僕らが現場に近づくと、後方で回復役をやっていた女性冒険者が僕らに話しかけてきた。


「キミたちも冒険者? ここはもう無理よ! アタシたちが時間を稼いでる間に住民を街の外へ避難させて!」


「僕らは戦います! ピロロは回復魔法で怪我をしている人の手当をしてくれないか?」


「うん。ピロロ、お手当てのお仕事がんばるよ!」


「キミたち見ない顔だけど、あのドラゴンは駆け出しの冒険者が2、3人増えたところでどうにかなる相手じゃないわ。命をかけて戦うのはこの街の冒険者だけで十分。他所から来たキミたちが犠牲になる必要はない。早く避難しなさい!」


「そういう訳にはいきません! 僕らは魔王を倒すために旅をしてるんですから。ドラゴン相手に逃げ出したりできませんよ!」


 僕は覚悟を決めてそう答えた。


「ま、魔王を倒すですって!? キミは何を言っているの?」


 まあ、そうだよな。

 見た感じが駆け出しの冒険者そのものの僕が、そんな事を言ってもそういう反応になるのは仕方がない。


「ユウ! 喋ってないで行くわよ! さっきも言ったけどわたしが援護するからユウは正面から攻撃して!」


「わかったよエリス!」


 僕は剣を抜きドラゴンに向けて構えた。

 その状態で身体の中の魔法力の流れをイメージして全力で解き放つ。


「はああああああああああ!」


 すると僕に気付いたドラゴンがこちらを睨みつけ、右前足の鋭い爪を振り下ろしてきた。

 僕は一歩後ろへ飛び下がるようにして躱し、剣でドラゴンの前足に斬りつける。

 僕の剣はドラゴンの硬い鱗に覆われた皮膚を切り裂いた。


「凄えあの人! オレらがいくら攻撃しても傷一つ付けられなかったのに!」


 前線で戦っていた剣士の一人がそう叫んだ。

 ドラゴンは傷を付けられて激高した様子で牙を剥き、僕に噛みつこうと飛び掛かってきた。

 それを横っ飛びに躱し、首筋にもう一度一太刀を刻み込む。


「ギャオオオオオオオン!」


 僕に斬られたドラゴンは身体を捩りながら苦しそうな叫び声をあげた。

 しかし、傷はつけられるもののドラゴンの皮膚が硬すぎて、このままじゃ致命傷を与える事は無理そうだ。


 その時だった。

 巨大な鞭を打ち付けられた様な衝撃が僕の身体を襲い、そのまま吹っ飛ばされて背中から城壁へと叩きつけられた。

死角からの攻撃。ドラゴンの尾で打ち付けられたのだ。


「ちょっとユウ! 大丈夫?」


「痛ててて……。あれ? でも思ったほどでもないや」


 ドラゴンの不意打ちを喰らって驚いたけど、エリスの剣で殴られるのと比べたら全然大したことはなかった。


「大丈夫みたいね。もう。油断しちゃダメじゃない」


「ごめんエリス。っていうか援護してくれるって言ってなかったけ?」


「ユウが一人でどれくらいやれそうか最初は様子を見ようと思って。思ってたとおり結構いけそうじゃない」 


「でもあのドラゴン、エリスと比べたら攻撃力は大した事はないんだけど、皮膚が硬すぎてこっちの攻撃があんまり通らないんだ」


「ユウってば魔法力を防御に回しすぎなのよ。もっと剣に込めるようにすれば十分通用するはずよ。防御は気にせずに全魔法力を攻撃に回しなさい」


「そんな事して、その状態でドラゴンの攻撃をくらったら、さすがにタダじゃ済まないんじゃないか?」


「大丈夫、今度はわたしがちゃんと援護するから安心して。ドラゴンの攻撃は全部わたしが捌いてあげる。ユウは攻撃にだけ集中すればいいわ」


「わかったよエリス。キミがそう言うなら信じるよ!」


 僕はそう言って、ドラゴンに向けて剣を構え直し、身体中の全魔法力を剣に集中させるように高めていく。

 剣が青白い光を纏い始める。


 するとドラゴンはそれに気付いた様子でこちらに突進してきた。

 そして僕に向かって飛び掛かかり、右前足の鋭い爪が僕を貫こうと襲いかかってくる!


「うおおおおおおおおおおおお!」


 掛け声とともにドラゴンを剣で迎撃する。


「ギャアアアアアアアアアアン」


 叫喚と共にドラゴンの前足が地面へと転がる。

 僕の剣はドラゴンの右手首を切り落としていた。


 これならいける! 

 そう思った瞬間だった。

 側方からドラゴンの尻尾が襲ってきた。

 さっきと同じパターンだ。


 避けられない! 

 と思った瞬間、ドラゴンの尾が千切れてクルクルと宙を舞った。

 エリス!? 

 エリスがもの凄い勢いで駆け抜けていったのが一瞬だけ見えた。


「何だ!? ドラゴンの尻尾がいきなり吹っ飛んだぞ!? あの少年がやったのか!」


 僕らの様子を離れて見ていた冒険者の一人がそう叫ぶのが聞こえた。

 どうやらエリスの動きが速すぎて彼らには見えてなかったらしい。

 それほどまでに凄まじい早業だった。


「ガオオオオオオオオオオオン!」


 ドラゴンは驚いた様子で翼を羽ばたかせて上空へ飛び逃れた。

 なかなか降りてこない。

 こちらの様子を窺っているようだ。

 このまま何処かへ行ってくれればいいんだけど、ドラゴンは街の上に留まったまま出て行ってくれそうにはない。


 するとドラゴンは大きく息を吸い込む動作を見せた。


「兄ちゃん危ない! ドラゴンのブレスが来るぞ!」


 冒険者の一人が僕に向かってそう叫んだ。

 次の瞬間、ドラゴンが吐き出した高熱の火炎が上空から僕に襲いかかってきた。

 しまった! 

 僕は瞬間的に魔法力を高めて身を守る姿勢をとった、と思ったら腹を抱きかかえられるような形で身体ごと後方へと引っ張られた。


 エリスだ! 

 エリスが僕をドラゴンのブレスから助けてくれた。

 僕のいた場所は地面が焼き尽くされて大きな石塊が熱で赤い光をあげていた。


「ユウ、大丈夫?」


「ああ、おかげで何ともないよ。でもどうしよう? 空を飛ばれたままだと手が出せない。ルーシアさんの弓で落とせないかな?」


「ルーシアの弓じゃ射程距離も威力も全然足りないわよ。こうなったらあの技を使いましょう。次のブレスが来るまで少し時間があるはずだから、全力で魔法力を高めて剣に力を注いでいてちょうだい」


「あの技って!? アレをやるの? でもあの技じゃ上空にいる敵に当てるのは無理だよ!」


「わかってるわよ。わたしがドラゴンを地面に落とすから、その瞬間を狙って飛び込んで! 出来ればわたしが準備する間、周りの皆の注意を引き付けておいてくれると助かるわ」


 エリスは僕にそう告げて次の瞬間、目にも止まらぬ速さで城壁の方向へ走っていった。

 そして、そのままの勢いで高さ20メートルはあろう石壁を垂直に駆け上がって上に立ち、凛とした表情でドラゴンの方へ視線を向けた。

 

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