第20話 はじめての決闘
宿を出た僕たちはエンフィールドの街の外にある人気のない岩場まで来ていた。
フラロルの町で僕とエリスが特訓をしていた森近くの岩場によく似ている場所だ。
それはさておき、ルーシアさんとの決闘である。
どうしてこんな事になってしまったのかは、今でもよく分からない。
「さあ、覚悟はいいですか? 勇者さん!」
僕に向かってルーシアさんが叫ぶ。
ルーシアさんの武器は腰に付けた短刀と、手に携えた弓。
弓は普段は魔法の力でコンパクトに畳んで持ち歩けるようになっているそうだ。
しかし、弓を取り出したのはいいけれど、矢を持っている様子は無い。
「覚悟はいいとは言うけれど、ルーシアさんって戦える人なの? スライムに襲われて泣いてた印象しかないんだけど」
「こら! あれはルーシアにとってトラウマになってるんだから忘れてあげなさい! 思い出させたら可哀想じゃないの!」
エリスが僕に向かってそう叫ぶ。
言われてみれば確かにそうだな。
ごめん。ルーシアさん。
「もう怒りました! 手加減してあげられないかもしれないので覚悟してください!」
どうやら僕の不用意な言葉で火に油を注いでしまったらしい。
ルーシアさんが短刀を抜き、僕に向かって突っこんで来た。
ていうか、思ったより速いぞ!
かろうじて剣でルーシアさんの短刀を受け止めることが出来た。
そして、ルーシアさんはいったん後ろへ飛び退いたあと、もう一度こちらへ向かって飛び込んできて一撃を繰り出す。
それも受け止めると、続けて何度も短刀で切り込んで来た。
エリスとの特訓で速さには慣れているから捌ききれるものの、とても、スライムに襲われて泣いていた人と同一人物には見えない。強い!
「ふう。さすが勇者さん。エリスさんに鍛えられているだけの事はありますね。やはり接近戦で倒しきるのは難しそうです」
ルーシアさんはそう言って後方へと飛びのき、僕から距離を置いた位置で背中の弓を手に取り、構え、矢を放った。
光の矢だ!
真っ直ぐ飛んで来たので、体を少し斜めにして割と簡単に躱すことが出来た。
「ルーシアさん。今の矢って、魔法力で作ってるの?」
「ええ、そうですよ! だからこういう事も出来ます!」
ルーシアさんはまた僕に向かって矢を射って来る。
さっきと同じ?
と、思うやいなや、飛んで来た矢が途中で4つに分裂し、襲いかかって来た。
全部は避けきれない!
矢は僕の肩と左足の二ヶ所をかすめて行った。
そして、休む間も無くルーシアさんは次々と僕に向かって矢を放って来た。
これはヤバい、と、一度後退し、岩陰に身を潜める。
「ユウ! 逃げてばかりいないで、剣に魔法力を込めて矢をはたき落としなさい!」
エリスが僕に向かって叫ぶ。
確かにこのまま隠れていても勝機は見えない。
遠距離攻撃の手段が僕には無いから何とかして近づかなきゃいけないんだけど。
やっぱりエリスの言う通り覚悟を決めて正面から突撃するしかないか……。
僕は剣に魔法力を集中させ、岩陰から出て、ルーシアさんの方へ向かって走り出す。
それを見たルーシアさんは僕に向かって、また矢を放って来た。
視える! 12本か。
これくらいなら何とかなりそうだ。
僕は剣で矢をひとつひとつ叩き落としながら前方へ駆け抜けて行く。
エリスが言っていたように、実際にやってみると思ったよりは容易い。
最後の一本をはたき落としたあと、ルーシアさんの持っている弓を剣で跳ね上げた。
勝負あった! と、思った瞬間だった。
ルーシアさんが僕の振り上げた剣の下に潜りこむような形で懐に飛び込んできた。
次の瞬間、僕の腹部に激痛が走り、身体が後方へと吹っ飛ばされていた。
そして、そのまま岩壁に激突し、地面にあおむけの状態に転がり落ちた。
何が起こったんだ!?
「ごめんなさい。勇者さん! 私、びっくりして、つい魔石を使ってしまいました」
「勝負あったわね。ルーシアの勝ち。ピロロ回復魔法をお願い」
「わーい! 回復のお仕事だー!」
そう言って、ピロロが僕の側にやってきて両手の手のひらを僕に当てて回復魔法をかけてくれた。
みるみる間に身も心も癒されていくのを感じる。
「これは確かにエリスよりも良いかもしれない……」
「それ、どういう意味よ!」
「え? ピロロの回復魔法が凄いっていう意味で……」
あれ?
僕の言い方がまずかったのかな?
エリスがちょっと拗ねたような感じで、また機嫌を損ねてしまったみたいだ。
「まあいいわ。ルーシアが勝ったから、これからピロロも一緒に連れて行くわけだけれど、それに当たってはわたしからも条件があるの。ピロロ、ちょっとこっちへいらしゃい」
「なあに? 姫さま?」
「これからあなたも一緒に旅に連れて行くけれど、これからはあのお兄さんのひざの上に乗ったりしたらダメよ。危ないからね。あと、一緒の布団に入るのも禁止。いい?」
「でもピロロ、ひとりだと眠れないの……」
「じゃあ、今日からはお姉ちゃんが一緒に寝てあげる」
「姫さまが! やったあ!」
「それとあのお兄さんに何か変な事をされそうになったら、すぐにお姉ちゃんに言い
なさい。守ってあげるから。約束できる?」
「うん! 約束する!」
「ちょっと待った! 僕の扱いがなんかおかしくない? 誤解だよ!」
「なによユウ。何か文句でもあるの?」
いや、文句はないんだけど完全にエリスに誤解されてしまっているようだ。
なんで僕がこんな目に……。
誤解を解くにはいったいどうしたらいいんだ!
と、僕は心の中で叫ぶ事しか出来なかった。
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