第16話 ちいさな朝の出会い
う……ん。もう朝か……。
うっすらと目を開けると窓から静かに朝日が差し込んでいた。
昨日の冒険の疲れが残っているせいだろうか?
体がちょっと重たく感じる。
いや違う。
僕の身体の上に何かが乗っかっている? あたたかくて柔らかい何か。
布団の中のそれに向かってそっと手を伸ばしてみると、むにゅっとした感触が手に伝わってきた。
人肌の感触だ。まさかエリス!?
僕はゆっくりと布団をめくり、中を覗き込んでみた。
布団の中にいたのは、金色の綺麗な髪をした一糸纏わぬ姿の幼い美少女だった。
まだ眠っていて、くーすー、と、かわいい寝息が静かに聞こえてくる。
んん? ちょっと待ってくれ。
なんだこの状況は?
なななななななんで、全裸の女の子が僕の布団の中にいるんだ!
思い出せ! 昨日僕はたしかに一人で布団に入って寝たはずだ!
幼女と一緒に布団に入って寝た記憶なんて一切ない!
じゃあ、この状況はいったいなんなんだ!?
考えられるのは、僕が寝た後にこの子が僕の布団の中に潜り込んできたという事だ。
では何故か?
僕はこの子を知らない。知り合いではない。
きっと、この子が寝ぼけて部屋を間違えて入ってきてしまったんだろう。
その可能性が高い。
このような状況下で僕が次に取るべき最善の行動は何だろうか?
この子を起こして事実関係を確認した上で、部屋を間違えているよと伝え、出て行ってもらう?
いや、それは選択肢としてリスクが高すぎる。
なにせ、この子はいま全裸で僕の布団の中にいるのだ。
起きるなり悲鳴でも上げられたら、その瞬間、僕の人生が終了してしまう。
でも待てよ。良く見たらこの子、パンツは穿いているじゃないか!
全裸じゃない! 良かったセーフだ!
いやいやいやいや!
よく考えろ! ぜんぜんアウトだろ!
半裸の幼女でも十分トリプルプレイでスリーアウトチェンジだろ!!
落ち着け! 冷静になるんだ!
こういう時こそ冷静に、絹豆腐を箸で掴む時のように繊細に。
まずは、半裸の女の子と一緒の布団に寝ているという、この危険な状況から脱するのだ。
話は簡単だ。
僕がこの布団から出て行けばいい。
この子を起こさないようにそっと。音を立てないように静かに少しずつ動くんだ。
「うーん。むにゃむにゃ……」
なんて事だ!
僕の左腕が半裸の女の子の両腕でがっしりと抱き付かれてしまった!
素肌からあたたかい体温が直に伝わってくる。
どうする?
どうするって、腕を引き抜くしかないだろう?
僕の左腕は僕のものだ。この子のものではない。
半裸の幼女にこんなにがっしりとしがみ付かれる謂れはないのだ。
この子が起きてしまうリスクはあるが、時間が経てば経つほど起きてしまう確率は高くなる。
僕には迷っている時間はない。覚悟を決めるんだ!
いくぞ!
僕は半裸の幼女から僕の左腕を取り戻す。
だが、その瞬間……。
「うーん? あ……おはよう、お兄ちゃん……」
半裸の幼女が目を覚ましてしまった!
悲鳴を上げられなかったのは救いだ。
首の皮一枚、命が繋がった思いだ。
だが今、この子は何と言った?
『お兄ちゃん』?
という事は、この幼女は僕の妹なのだろうか?
いやいやいや、僕にいるのは姉さんが一人だけだ!
実妹も義妹も、従兄妹も近所の幼馴染の妹的な存在も僕にはいない!
それに第一、こんな金髪碧眼のかわいい女の子が僕の妹であるはずがない!
ていうか、本当にいったい誰なんだ?
待てよ?
よく考えたらここは異世界だ。
元の世界の常識に囚われてはいけないのではないだろうか?
つまり、この幼女が僕の妹である可能性が無いと本当に言い切れるのか?
一見、常識的にはあり得ないと思われる事でも、まずはその常識を疑ってみる事が大事だ。
いや、違う。
半裸の幼女が僕の妹か妹じゃないかを突き詰めても根本的な解決にはならない。
半裸の幼女が僕の妹だったとしても半裸の妹になるだけだ。
半裸の妹でも完全にアウトだ!
僕は一体どうしたらいいんだ!
「どうしたのお兄ちゃん? どこか痛いの? ピロロが治してあげるよ?」
ピロロって?
ちょっと変わってるけど、この子の名前だろうか?
治すって言っても、何をするつもり……。
僕がそう考えるやいなや、彼女はベットの上で仰向けになっている僕の上に覆い被さるような体勢になって、両手の手のひらを僕の胸に押し当ててきた。
ちょっと待ってくれ!
半裸の幼女にこんなことをされたら……。
「うーんと……。だめだあ。まだねむいよう……」
そう言って、半裸の幼女はそのまま僕の上に倒れこんだ。
その時だった……。
「ちょっとまだ寝てるの? そろそろ起きな……」
エリスがドアが開けながらそう言って入ってきた。
エリスと僕の目が合った。
「きゃあああああああああああああああああああああ」
悲鳴を上げたのはエリスの方だった。
現行犯……。
終わった。完全に終わった。
僕の恋も人生も、全てが終りを告げたかに思えた瞬間だった。
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