第9話 エリスの特訓2
そして、次の日の朝。
今日も快晴。僕らはまた昨日と同じ森の入り口の特訓場まで来ていた。
「キミがある程度戦えるようになるまでは、この町で特訓を続けたいのだけど、いいかしら?」
「それは構わないけど、だいたいどれくらいかかるんだろう?」
「そうね……昨日のあの感じだと、1週間くらいでそれなりにはなるかな」
「1週間か。急ぎたい気持ちもあるけど、うん、エリスに従うよ。っていうかまた今日も剣でエリスに殴られないといけないのか……」
「殴られないといけないわけじゃないわよ。キミが剣の腕を上げれば叩かれなくて済むんだから」
そうだった。殴られること自体が目的じゃなかった。いけない、いけない。
ここでふと、昨日から疑問に思っていた事をエリスに訊いてみた。
「でも、今更だけど、この世界の魔法って武器や身体を強化する感じなんだね。魔法って言うから炎とか氷とかそういうのを出すものだと思ってたよ」
「やろうと思えば、そういうのも出来るわよ」
エリスは答えた。
「でも人によるわね。一言で言うと魔法力を放出するときに、どんな形がイメージしやすいかなのよ。炎をイメージしやすいなら炎魔法がいいし、治療がイメージしやすいなら回復魔法といったようにね。わたしの場合は、魔法力を形を変えずにそのまま強化に使ったり、放出したりする方がイメージしやすいからそうしているだけなの。ひとつ見せてあげましょうか?」
そう言ってエリスは剣を握った右腕を真っ直ぐ水平に前に突き出した。
彼女の前方には大きな岩の壁がある。
「こうやって、剣に魔法力を集中させて……」
エリスの右腕から構えている剣の切っ先までの空間が蒼白く輝き出す。
そしてその光がどんどん大きく強くなっていく。
「
エリスがそう叫んだ瞬間、眩い光とともに剣先から光閃が放たれた。
その光は空気を切り裂くような鋭い音を上げ、真っ直ぐ岩壁を撃ち抜く。
そして山の様だった岩壁は大気が震えるほどの轟音ともに崩れ落ちた。
「ビーム!? 魔法じゃなくて!?」
「魔法よ。魔法力を放つ時のイメージは人それぞれって言ったでしょう」
「それじゃあエリスの魔法のイメージってビームなんだ」
「まあ、わたしの場合はやろうと思えば何でもできるんだけどね」
そういえば、エリスって回復魔法も使えるし確かに万能選手だな。
なんていうか勇者っぽいとも言える。
「これって僕も練習すれば出来るようになるかな?」
「修行を続けていけばいずれ出来るようになると思うわよ。でもユウも自分のイメージしやすい魔法力の形を見つけて、そっちを伸ばした方が成長は早いと思うけどね」
そういう事か。
しかし、こんなすごい事が出来るなんてエリスってやっぱり只者ではない。
昨日の晩も、それとなく聞こうとしてみたのだけど、あまり自分の事は話したくないようで、はぐらかされてしまった。
まあ、女の子の素性をしつこく詮索するのもどうかと思うし、エリスが何者だろうと僕が彼女を好きである事には変わりないし、まあいいかと今のところは思っている。
◆
そんな感じで、修行を1週間、毎日続けた結果、相変わらずエリスには殴られっぱなしだったけど、不思議と前より痛みは感じなくなって来たし、エリスに殴られるのもなんだか嫌ではなくなっていた。
エリスは、僕の身体の中の魔法力が目覚めてきた証拠だと言っていた。
うん、エリスがそう言うならそういう事で間違い無いのだろう。
エリスに殴られながら自分が別の何かに目覚めそうな気がしていたけど、そういうわけではなくて安心した。
そして、この1週間の特訓で、十分基礎は身に付いて旅に出る準備が整ったとエリスは言ってくれた。
僕は本当にちゃんと成長できているのだろうか?
自分ではあんまり実感は湧かない。
ともあれ最終日の特訓が終わり、明日からはいよいよ冒険の旅に出るのだと、胸を高鳴らせながら町の宿に帰ろうとしていた道中に事件は起きた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます