第4話 召喚前の僕と彼女
ここで僕と彼女が出会ってからの事について少し話そう。
僕が彼女に初めて会ったのは、高校に入学してやっと通学にも慣れ始めてきたという五月初旬。
クラスの皆のキャラとかクラス内での立ち位置だとかが何となく分かってきたかなというくらいの時期だった。
彼女は留学生として僕のクラスに転入してきた。
銀色の長い髪、凛としていて整った顔立ち、絹のように白く綺麗な肌に、すらっと伸びた細い手足。
まるでどこかの国のお姫様ではないかと思わせる気品を持った美少女。
そんな彼女を見て僕は一目で心を奪われた。
一目惚れと言ったらそうなのかもしれないが、そんな美少女が転入してきたら普通の男子高校生なら誰でも心を惹かれて然るべきだし、これと言って自慢出来る事もない平凡な一生徒でしかない僕なんかがお近づきになれるはずもないし、ましてや告白しようなんて大それた気持ちも度胸も、その時の僕には全くなかった。というのが正直なところだ。
彼女は学内で、ごく自然に普通の少し大人しい日本の女子高生と変わらないという感じに日々を過ごしていた。
その自然さが僕にはひどく不自然に感じられた。
だってそうだろう?
モデル顔負けの美貌といい、ミステリアスかつ気品に満ちあふれた立ち振る舞いといい、普通に考えたら人目を引かないはずはないのだ。
それが学内の有名人になるでもなく、クラスカーストの中心グループに入るでもなく、クラス内の目立たない普通の地味な女子のように過ごしている。
そんなのは彼女の勝手だろうというのは、僕もそう思うけれど、それにしたって周りの人間がみんな何事も無いようにそれを受け入れているのは変だ。
誰か一人くらい彼女の事を持ち上げようとする人が現れてもおかしくないのに。
ある時クラスの友人たちに尋ねた事がある。『姫宮さんって可愛いよね?』と。
そうしたら誰もが『姫宮さん? そうか? 普通じゃないか?』という反応をするのだ。
まるで僕に聞かれるまで彼女がこのクラスに存在している事すら意識してなかったとでもいうように。
僕はそれをずっと不思議に思っていた。
最初は好奇心からだった。
気が付くと僕は彼女の事を目で追うようになっていた。
窓際にある彼女の席から時々空を見つめ遠くを眺めている、どこか寂しそうな影のある物憂げな表情に惹かれた。
僕にだけ彼女の事が特別に見えている。
それは人が恋と呼ぶものなのではないだろうか?
彼女が転入してきたあの日、僕は自分でも気づかないうちに一目で彼女に対して恋に落ちてしまった。
これが僕にとっての初恋だったのだ。
そう考えたら他の人達が彼女に無関心に見える理由とか、僕にだけ彼女が特別に見えている理由とかいろいろな事に説明がつく。
考えてみれば今までまともに恋なんてした事がなかったから分からないけれど、運命の相手と出会うというのは、きっとこういうものなのだろう。
彼女の事が好きだ。彼女の事がもっと知りたい。
好きだって告白しよう。そう決意した。
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