77.「体育祭――昼休憩【巫女2】」
保健室に着き、奥のソファーに横並びで座る。
心臓はドキドキと言っていてうるさい。
久しぶりの恋でどうやって好きな人と接すればいいか分からない。
「桜木先生、桜木先生!」
「あ、はい」
「大丈夫ですか? ボーっとしてましたよ」
「ご、ごめんなさい」
しっかりしろアタシ!
好きな人と二人っきりでいれる機会なんだぞ!
チャンスを無駄にするな!
「それより食べましょうか」
「あ、お箸が一膳しかありません」
「え?」
「あのー同じお箸でもいいですか?」
「は、はい。もちろんです」
同じお箸で食べるの~!
どうしようぉ~!
どうしようぉ~!
どうしようぉ~!?
間接キスにしちゃうよぉ~!
「何から食べます?」
「じゃあ唐揚げで」
お弁当は唐揚げ弁当である。
「はい、あーん」
「え?」
「あ、嫌でしたか?」
アタシが驚いたせいで、少し戸惑った感じでそう聞いてくる。
これは気まずくなる雰囲気だ。
どうにか乗り切らないと。
「その……少し驚いて」
「お箸渡し合うの大変かなーっと思いまして、嫌ならやめますけど――」
「あーんします!」
「あ、分かりました!」
松波先生は爽やか笑顔でそう言い、唐揚げを持ち直してアタシの口元へ。
いいのだろうか?
付き合ってもいない男女であーんなんて。
アタシは好きな人からされて嬉しいけど、なんか恥ずかしい。
「口開けてください。あーん!」
「あーむっ!」
考えている間にしてしまった。
「お、美味しいです!」
「そうでしたか。じゃあ俺もいただきます」
松波先生はそう一言呟き、アタシがあーんしたお箸で唐揚げとご飯を食べる。
間接キスを自然としてしまうイケメンってやっぱり凄い。
アタシ以外にもこんな対応なんだろうな。
そう思うと少し悲しくなった。
数分後、お弁当を食べ終わった。
終始あーんされた食事は初めだった。
いや、赤ちゃんの時以来だろうか。
なんか恥ずかしくて、けど嬉しくて。
変な感じ。
「美味かったですね」
「はい、美味しかったです」
で、今からどうしようか。
まだ時間はあるし、少し話でもする?
何となくだけど、すぐに離れたら印象悪そう。
「そう言えば、借り物競争のアレ盛り上がりましたね」
「本当に良かったです」
「アレは何というお題だったんですか?」
「お題は二人とも好きな人と一緒にゴールだと思います」
ということはあの二人は楠のことが好きなのか。
好きの種類はどちからは分からないけど。
楠はモテモテだな。
虐めっ子からいつモテ男に変わったんだ。
やりよるな。
「なるほど」
「でも、まさかあんなことになるとは思ってもいませんでした」
苦笑交じりにそう言う松波先生。
どういうことだろうか?
「仕込んだんじゃないんですか?」
「お題は二枚ずつあるんですがランダムなんですよ。だから、たまたまなんです」
「でも、面白かったし、結果的に良かったと思いますよ」
「そうですかね。あの三人の仲を潰してしまったのではないかと後悔しているんですが」
や、優しい。
大勢の生徒に受けたことよりもあの三人の心配をするなんて。
やっぱり松波先生は良い人だ。
「大丈夫ですよ。三人ともアタシの生徒です」
「そ、そうだったんですね」
「何かあればアタシがどうにかしますよ」
「ありがとうございます」
丁寧に頭を下げる松波先生。
アタシ……三人の担任で良かった。
これでまた話せるチャンスがあるということだ。
三人ともよくやってくれた。
本当にありがとう!
「俺はそろそろ時間です」
「アタシもです」
「では、行きましょうか」
「はい」
アタシたちはソファーから立ち、ゴミは松波先生が持つ。
ここでアタシが「ゴミ持ちますよ」と言うべきなんだろうが、松波先生の紳士な対応に甘えることにした。
「あ、そうだ!」
「どうかされましたか?」
急に振り向いて笑顔を向けてくるもんだから首を傾げるアタシ。
一瞬ドキっとしたところを見られてないといいけど。
まぁ大丈夫だろう。
「教員リレー頑張りましょうね!」
「あ、はい!」
「では、お先に失礼します」
それだけ言い、松波先生は風のように去って行った。
こんな幸せな時間を過ごしてしまって良かったのだろうか。
本当に午前の仕事を最後まで頑張って良かった。
「幸せぇ~」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます