78.「体育祭――綱引き【1】」

 一時間という長い長い昼休憩が終わってから一時間。

 一年生の競技が終わり、次は僕たちの競技――綱引きである。


 綱引きはトーナメント方式。

 一回戦第一試合は赤チームVS青チーム。

 二回戦第二試合は黄チームVS緑チーム。

 一発勝負で勝った方が決勝。

 負けた方はビリ決勝。

 そんな感じになっている。


 僕は赤チームだからいきなり試合。

 一チーム約八十人。

 かなり大人数での綱引き。

 なかなか迫力がある。

 体育祭の練習で赤チームは勝ったことがない。

 理由は人数不足とあの野球部四人の退学だ。

 残念なことに学校側は人数調整をしてくれない。

 おかしな話だが所詮綱引き。

 全員参加させることが目的なんだろう。


『さー出てきました! 赤チーム! 気合いが入っております!』


 僕たち赤チームが先に入場。

 男女混合で配置は自由なので橘は僕の前にいる。


「楠君、頑張りましょうね!」

「ああ、無理はするなよ」

「はい!」


 橘はお弁当作りで寝不足。

 少し心配はしている。

 今日は暑い。

 熱中症になる可能性があるからな。


 僕たち赤チームが配置に着くと逆側に青チームが入場スタート。


『青チームも気合いは充分! これは楽しみな戦いになりそうですね!』


 両方チーム配置に着く。

 緊張感はそれほどない。

 理由は勝てる気が一ミリもしないからだろう。

 青チームは練習で負けたことのない最強チーム。

 唯一勝てる可能性がある戦術は油断している最初を狙うぐらい。

 だが、赤チームは戦術共有などしてないので無理な話だ。


「楠君ハチマキがヨレヨレですよ」

「そうか?」

「はい、少し動かないでくださいね」


 橘はそう言うと続けて頭を下げるように言ってくる。

 わざわざ直してくれるようだ。

 僕は有難く指示に従い、ハチマキを直してもらう。


「よし! イイ感じです!」

「ありがとうな」

「いえいえ。私のハチマキは大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。てか、さっきトイレで直してただろ?」

「よく知っていますね。もしかして見てましたか?」

「見てない見てない」


 僕は手を振りながらすぐにそういう否定する。

 実際見てないしな。

 まぁ見ていても否定するけど。 


「なら透視ですか?」

「使えないし、見てないって! 橘がトイレ行った後に直ってるのに気付いただけだ」

「そうでしたか」


 綱引き前に何の会話をしているのやら。

 この緊張感のなさはいつも通りだ。

 他の奴らも雑談をしている。


『ルール説明が終わりました。では、構えてください』


 いつの間にかルール説明が終わっていたらしい。

 僕と橘は綱に手をかける。

 他の生徒も雑談を止め、綱に手をかけた。

 そしてスタートの合図を待つ。

 とにかく最初が肝心。

 一応頑張るか。


 ――パンッ!


 ピストル音で一回戦第一試合がスタート!


「んっ……! よいしょ! よいぃ……しょ!」


 前から橘のそんな掛け声が聞こえてくる。

 小さな体で頑張っているようだ。

 僕もそれを見習い、最大限の力で引っ張る。

 だが、踏ん張っている足が滑っていく。

 止まらない。全く止まる気配がない。

 パワー違いすぎる。

 そしてそのまま……


『青チームの勝利です!』


 あっさりと決着はついた。

 練習と同じく瞬殺。

 本番で何かが変わるわけでもなく、圧倒的な力の前にはどうするこも出来なかった。

 

「はぁ……勝てませんね」

「まぁ青チームは強すぎるからな」

「ですね。恐らく大型ゴリラがあの中に混ざっているのでしょう」


 橘は至って真面目な表情でそんなボケのような言葉を口にする。

 僕はそんな橘の言葉に対し、何も言わずたた苦笑するだけ。

 シンプルにどう返せばいいか分からない。

 ツッコむべきか。

 普通に会話を続けるべきか。

 結局、苦笑いで流すことにしたけど。


 てか、大型ゴリラって何だよ!

 その言い方だとあの中に小型ゴリラや中型ゴリラもいることなるぞ!

 普通にこえーよ!

 橘には青チームの人がどう見てんだよ!


 一応、心の中ではツッコんでおいた。

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