73.「体育祭――借り物競争【2】」
数秒後、二人は僕たちの前に止まる。
「「はぁ、はぁ……」」
息を整える二人。
橘も青葉も僕を見つめている。
お題は僕に関係するらしい。
可能性が低い方を引いたようだ。
――はぁ……目立つことになるな。
「楠君!」
「楠!」
僕の名を二人が呼ぶ。
それに僕は息を呑む。
なんか緊張してきたぞ。
「私と一緒に!」
「ウチと一緒に!」
えっ、一緒に?
何?
どういうこと?
分からん分からん。
「来てください!」
「来て!」
二人が同時にそう言い、手を差し伸べてくる。
『おっと、告白かぁ~』
その光景を見た放送部が無駄な一言を言う。
全く放送するやつはロクな奴がいないな。
放送のせいで生徒は更に盛り上がる。
注目が集まる中、僕の頭は混乱していた。
「楠、青春だねぇ~」
この教師、楽しそうにニヤニヤと見つめやがって。
僕が大変な選択を迫られているというのに。
後で一発チョップしてやろうか。
『さぁ~、どっちを選ぶのか?』
放送してるやつ一回黙ってくれ。
こっちは大変なんだぞ。
もしこれが告白なんだとしたら、真面目に答えなければいけない。
だって、二人に失礼だし、全校生徒にも見られているのだから。
とにかく僕は早く選ばないといけない。
まぁもう僕の選択は決まっているがな。
僕は立ち上がる。
それだけで周りは沸き立つ。
一歩進み、二人の目の前へ。
周りは一気に静まり返り、息を殺して僕をジーっと見つめる。
焦らすつもりはない。
僕が選択した答えは……
「二人とも……ごめんなさい!」
それに周りの生徒は「えぇ~」という声。
横の桜木先生も凄い声を出し、驚いた表情でこちらを見つめている。
このような反応になるのは分かっていた。
だが、今の僕にはこの選択肢しかない。
「何がごめんなさいですか!」
「そうよ!」
「えっ、はぁ?」
急に二人は顔を上げ、僕の腕を掴む。
『おっと急展開! まさかの奪い合いだぁ~!』
これは強制連行というのだ。
放送してる奴、覚えておけ。
「おい橘、どういうことだ?」
「一緒に来てくださいってお願いしましたよね?」
「したな」
「そういうことです」
どういうこと?
「青葉もどういうことだよ」
「ウチも一緒に来てって言ったでしょ?」
「言ったな」
「そういうことよ」
だから、どういうことだよ!
まずこのような場で女子二人に腕を掴まれてる状況がヤバい。
色々とヤバい。
男子の視線とか、腕に伝わる感触とか。
完全に陽キャ状態なんだが。
『腕を掴みながらゴール!』
何がゴールだ。
こっちはここからなんだよ。
「えっと……本当に状況が分からないんだが」
僕がゴールした瞬間、すぐにそう問う。
すると、二人が顔を見合わせて、橘が口を開いた。
「お題がですね、手を差し伸べた人と一緒にゴールだったのです」
「え、ウチもなんだけど」
は? えっ? は?
何だよ、その意味不明なお題!
でも、二人があのような行動を取った理由は分かった。
告白とかじゃなくてまずは安心だな。
ん? 安心していいのか?
それにしても、よくもあのようなお題を同じタイミングで二つも出してくれたものだ。
その結果、偽装二人からの告白シチュエーションになってしまったじゃないか。
盛り上げるためとは言え、これは酷い。
注目を浴びる側のことも考えてほしかった。
「はぁ……なるほどな。理解したよ。それよりそろそろ解放してくれないか?」
僕は動かし、そう伝える。
いつまでも掴まれているわけにはいかないからな。
目立って仕方がない。
「はい」
「あ、うん……じゃあウチはこれで」
青葉は腕から離れてそれだけ言い、すぐに去って行った。
もう特に話すこともないから当然の行動だ。
それに青葉の友達が近くで待っていたようだしな。
友達を待たせたくはなかったのだろう。
「では、私はこの紙を返してきます」
「ああ、分かった。じゃあ僕はここで待ってるから」
「すぐに戻りますね」
橘は頭を軽く下げ、紙を返しに行った。
そう言えば、二人とも借り物競争中は一切笑ってなかったな。
なんか心ここに非ずって感じだった。
やはりあんな目にあったことが原因かな?
ほとんど公開処刑みたいなもんだし。
仕方ないか。
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