83.「体育祭――裏側【楓1】」

 これは桜木楓の体育祭の話である。


 わたし――桜木楓は学校のある地下室にいた。

 そこにはコンピューターやコンピューター周辺機器があり、無数のモニターが壁に貼られている。

 イメージとしては管理室という感じ。

 わたしも管理室と呼んでいる。


 時刻は午前九時過ぎ。

 やっと開会式が始まった。


「ふわぁ~」


 そんな大きな欠伸をしながら、上空からグラウンドを映す三台のモニターを見つめる。

 グラウンドを映しているのは先日アメリカの企業から届いたドローン。

 もちろんただのドローンではない。

 自動操縦を完備。

 カメラ機能は写真と録画の自動撮影。

 カメラには高画質8Kレンズを使用。

 バッテリーは太陽光発電で充電(最大十二時間)。

 安全性も抜群。


 欠点と言えば、ドローンから音を拾えない点。

 拾えるように出来なくもないが、現在はプロペラで飛んでいるので、そこは意図的に省いた。

 いつか音を拾えるドローンが出てほしいものだ。

 わたしはもう開発する気はないけどね。


 そんなことはよくて、今日の体育祭でドローンを用意した理由は二点。

 一つは生徒の写真撮影。

 これは校長にドローンを飛ばす代わりに頼まれた。

 で、もう一つはを見るため。

 その男子とは虐められていた子。

 名前は楠凪。

 わたしは勝手に凪君と呼んでいる。


「凪君は細いなぁ~。って、女の子会話してるぅ?」


 いつもの女子――橘さんではない。

 ドローンの顔認証から学校の生徒リストへ接続。

 すぐに一人の女子の名が出る。


「二年二組のぉ~、青葉澪?」


 確かこの子は虐めっ子の一人だったはず。

 けど、停学後は何故か凪君を守った子。

 未だによく分からない子だ。

 どういう停学期間を過ごせば、ここまで変われたのか。

 わたしには理解不可能。


「あぁ~、プログラムを見せてもらっていたのねぇ~」


 でも、よく虐めてた子と仲良くできるね。

 不思議で仕方ないわ。

 一度守ったからって虐めていたことが帳消しになったわけでもないのに。

 別に凪君が嫌そうじゃないから構わないけど。


 開会式が終わったのか生徒たちが立ち、テントへ戻っていく。

 それと同時に二台のドローンは他の生徒を撮影するため動き出す。

 残りの一台で凪君を中心に撮影を開始。

 顔認証システムを利用したオートエイム機能が付いている。


「橘さん来たねぇ~。やっぱり凪君と仲良しぃ~」


 そんな姿に少し心が痛い。

 橘さんは凪君のボディーガード。

 そう自分自身に言い聞かせているが、やはり距離感を見るとそうは感じない。


 二ヶ月前ぐらいから急に凪君と仲良くなり始めた橘さん。

 凪君と常に一緒に過ごし、学校に内緒で同居している。

 だけど、まだ付き合ってはいないみたい。

 こっそり付き合っている可能性もあるけど、その時はわたしが奪い取る。

 だって、凪君はわたしの癒しだから。

 そして唯一わたしを特別視しなかった男子。


「凪君は何でわたしに興味を持たないのかなぁ~?」

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