66.「体育祭――開会式」
6月20日(土曜日)。
体育祭当日。
天気は晴れ。
空には青空が広がり、雲一つない快晴。
てるてる坊主のおかげだろうか?
空もあれだけのてるてる坊主には恐怖したに違いない。
現在は体育祭――開会式。
一年生から三年生が男女別の背の順で並び、体育座りで校長の話や体育の先生の注意事項を聞いている。
そんな生徒たちの額や首には体育祭のチームカラーのハチマキ。
体育祭は学年別の四チームによる戦い。
一組二組が赤チーム。
三組四組が青チーム。
五組六組が黄チーム。
七組八組が緑チーム。
僕は二年二組なので赤色のハチマキを付けている。
いや、今は手に持っている。
ハチマキを付けることに慣れてないせいか開会式の行進で外れてしまったのだ。
まぁ後から鏡を見ながら付ける予定である。
「楠、プログラムある?」
「ん? あーうん」
僕は横から話しかけて来た青葉にスケジュール表を渡す。
僕を虐めっ子から助けようとしてくれた女子である。
あの日以来、青葉はよく僕に話しかけてくる。
もちろん橘のように頻繫ではないが、橘以外ではよく話す方だ。
「ウチ、借り物競争に出ないといけないんだよね~」
プログラムを見ながらそうダルそうに言う青葉。
青葉は停学中だったということで、残っていた借り物競争に自動的になったという感じだ。
そう言えば、停学中の生徒から競技についてクレームはなかった。
恐らくあの野球部のエースが退学になり、誰も言い出すことができなかったのだと思う。
こちらとしては決め直さずに済んだので助かったがな。
「嫌か?」
「何出ても嫌かな、汗かくし」
ホッケー部とは思えない理由。
だが、その理由はすぐに理解できた。
「なるほど。髪気合い入ってるもんな」
「あ、あーうん! まぁね」
青葉はいつもシンプルなポニーテールだが、今日は編み込みなどがされている。
加えて珍しく軽い化粧も。
運動部なのでちょっと意外だったが体育祭の影響だろう。
体育祭では女子のほとんどがいつもとは違う髪型らしい。
らしいというのは、ほとんどの女子生徒の普段の髪型を知らないからだ。
先ほど女子同士の「今日の髪型かわいい」という会話が聞こえたので、僕がそうなんじゃないかなと予測しただけ。
まぁ実際、青葉は違ったわけだし。
あながち間違えではなさそうだ。
「可愛い?」
「んー、まぁ似合ってる」
「そ、そう! じゃあこれ返すね!」
「うん」
何故かニヤニヤしている青葉からプログラムを受け取る。
少し顔も赤い気がするが、それはこの暑さのせいだろう。
今日は真夏日になると言っていたからな。
早くも梅雨明けだろうか。
生徒会長の選手宣誓を最後に開会式は終了。
第一種目である一年生以外の生徒は自分のクラスのテントに戻る。
「く、楠君!」
「おわっ!? た、橘か。驚かすなよ」
橘がいきなり背中をドーンと押してきた。
はぁ……心臓止まるかと思ったぞ。
「えへへ、それより青葉さんと仲が良いのですね」
最初の「えへへ」まで普通だったのに何その顔……。
なんか怖い笑顔なんですけど。
目が、目が笑ってないやつ!
何で?
僕なんかした?
「別に仲良くはないぞ?」
「でも、さっき話していたじゃないですか?」
橘は身長が低いから背の順は前の方なので後ろ向いて見ていたようだ。
意図的に見ていたのか。
たまたま目に入ったのはか知らないが、僕と青葉が話していたことをわざわざ気にしなくてもいい気がする。
「プログラムを見せてくれと言われたから見せていただけだ」
「本当ですか?」
覗き込むように僕の顔を見て来る橘。
目の逸らしどころがない。
やましいことなど何もしてないのに、なんかやましいことをして問い詰められているみたいだ。
超嫌なんだが。
「本当だ。まず何でそんなに僕と青葉の関係が気になる?」
「それは気になりますよ!」
「聞いているのはその理由なんだが」
「楠君が取られないか心配なのです!」
いや、ストレートだな。
後、そのドヤ顔は何?
ドヤ顔するような発言してないだろ。
ところで、僕は橘のものなのか?
養われている点から否定はできないか?
うん、できない。
九割は橘のものと言っても過言ではないな。
「別に誰も取らないだろ」
「分かりません。楠君のことが欲しくて欲しくてたまらないと思っているかもしれませんよ」
「それは橘だろ?」
「私はもうゲット済みです」
だそうです。
そんな会話をしている間にテントに到着。
テントの中には長椅子がズラッと並んでいる。
僕たちはテントの中で一番人が少ないところに腰を下ろす。
「てか、僕が誰かに取られても今の橘なら友達できるから大丈夫だろ?」
「はぁ……」
「どうした? 自信がないのか?」
「私は楠君だから友達になったのです! 誰でもいいから友達になったわけじゃないのですよ!」
「そ、そうか」
橘のやつ急に怒り出したんだが。
気に障ることでも言ったのかな?
いや、分からん。
思い当たらない。
「それよりさ」
「はい」
「以前、僕に友達が増やすような提案してなかったか? なんか二人三脚で転んで注目を浴びてみたいな」
「考えが変わりました」
「へー」
どこでどうなって考えが変わったのやら。
増やす考えから増やさない考えという真逆。
橘の頭の中はよく分からん。
「とにかく私は楠君を誰にもあげませんから!」
「わ、分かったから落ち着こうな」
僕は流すようにそう言い、水が入ったペットボトルを渡す。
はぁ……大声でそんなこと言わないでほしい。
恥ずかしいって!
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