63.「四人の処分【楓】」

 楠が空き教室から離れてから数分後の話。


 わたしは姉さんがいる空き教室に到着。

 扉を開けると四人の男子生徒が倒れていた。


「姉さん、お疲れ様ぁ~」

「相変わらず人使いが荒いね」


 姉さんは四本のナイフをチラつかせながらそう言う。

 わたしはそれに苦笑いし、そのナイフを受け取って袋に入れる。


「大丈夫だったんだからいいでしょ~?」

「まぁね」

「それにこういう時のための姉さんだしねぇ~」

「楓がアタシを担任に選んだと聞いた時から何となくそれは分かっていたよ」


 姉さんはわたしとは違い、運動ができる。

 特に武術系は凄い。

 学生時代はあらゆる武術の大会で優勝していた。

 でも、今は結婚願望が湧いてきたのか、そんな姿は滅多に見せなくなった。


「それでこの四人はどこに連れて行くの?」

「校長室に直行だよぉ~」

「二人で持つの?」

「廊下に校長先生たちを連れて来たから大丈夫だよぉ~」

「やっぱり人使い荒いわ」


 そう言われても、わたしの握力じゃ運べないのだから仕方がない。

 誰かを使う、否、頼ることは悪いことではないからね。


 校長先生とその他二名の男性教員に協力してもらい、校長室まで四人を運ぶ。

 もちろんわたしは歩くだけ。

 数分歩き、やっと校長室に到着。


「じゃあぁ~、姉さんはこの四人の手足をガムテープで縛ってぇ~、虐められていた子を安心させてきてくれるぅ~?」

「はいはい、分かったわよ」


 そう返事するとすぐに四人の手足をガムテープで縛り、校長室から出て行く。

 他二名の男性教員も職員室に帰っていった。


 校長室にいるのはわたしと校長先生、そして意識を失っている男子生徒四名。

 これで舞台は整った。

 今からするのは真面目な話。

 そう、この四人の処分についてだ。


 前の一件で処分内容をある程度決めていたが、今回の虐めの再開に加えて刃物を使ったということで処分を重くする予定である。

 わたしは基本こういうことには一切口を挟まない。

 しかし、今回は話が違う。

 虐められた子が虐められた子だからね。


「楓さん、本当に申し訳ございませんでした」


 校長先生は椅子から立ち、地面に膝と手をついて頭を下げる。

 学校のトップが生徒にこんな態度を取るとは残念な学校だ。

 教師としての校長先生としての威厳もない。


「そんなことをしても何も変わりませんよぉ~。なのでぇ~、早く席について話をしましょうかぁ~」

「はい、分かりました」


 二度頭をペコペコし、校長先生は素早く静かに席へ戻る。

 顔色はかなり酷い。

 ブルーベリーを顔に塗ったような感じだ。


「それでこの四人の処分ですがぁ――」

「退学ですよね」

「もちろんそれは以前に話した時に決めましたからねぇ~」


 前回の虐めについて話した時に、今言った通りそれは決まっていた。

 虐めた生徒には言っていなかったが、今後この生徒たちが虐めを行った場合は退学処分にすると。

 もちろん前回の時に退学処分も考えたが、虐められていた子の方、実際には橘さんという方が一ヶ月の停学処分にする案を出したらしい。

 というわけで、前回はそれに乗って甘く見たが、一ヶ月経ってみたらこのざまだ。

 停学中、反省もしてなかったのだろう。


「すぐに退学処分に取り掛かろうと思います」


 それだけ言い、校長先生は席を立つ。

 困った校長先生である。

 生徒には人の話を最後まで聞くようにと言うくせに、自分は人の話を最後まで聞けないなんて。

 勝手に会話を終わらせないでもらいたい。


「そう焦らないでくださいぃ~」

「は、はい」

「わたしの話はまだ終わっていませんよぉ~?」

「えっ?」

「まぁ~、席に座り直してくださいぃ~」


 校長先生は喉仏を大きく動かし、額の汗をハンカチで拭く。

 わたしは普通に話しているだけなのに、何でこうも顔色が悪くなっていくのか。

 倒れられたら困るのでしっかりしてもらいたい。

 もう四人も倒れているしね。


「で、何でしょうか?」

「えっとですねぇ~、この四人の処分ですが退学だけでは甘いと思うんですよ」

「と……言いますと?」

「ですから警察の方へ行ってもらおうかとぉ~」

「け、警察ですか!?」

「この刃物で襲おうとしたんですから当然でしょ~?」


 わたしは先ほど姉さんから受け取ったナイフを見せながらそう言う。

 これには校長先生も目を泳がせる。

 目の中に魚でも飼っているかと思うぐらい。


「なので、わたしは今から警察署の方へ――」

「ちょ、ちょっと待ってください。証拠は、証拠はあるんですか?」


 必死な表情でそう問いてくる校長先生。

 流石に学校側としても警察沙汰にはしたくないらしい。

 それにこの四人は野球が地味にお上手とか、プロ野球選手になるかもしれない逸材に前科を付けたくはないのだろう。

 だが、わたしには関係ない。

 所詮プロ野球選手。

 わたしの比にはならない。

 まず人間として終わっている四人が、プロ野球選手になれるなど一ミリたりとも思わない。

 そんな人間はここで現実を見せるべきだ。


「ありますけどぉ~」

「……」


 その言葉を聞き、校長先生は黙り込む。

 絶望している。

 けど、対策を取らない校長先生が悪い。

 学校側が悪い。

 こちらは対策を取った。

 虐めっ子を排除するという対策を。


「そういうことなのでぇ~、車を出してもらえますかぁ~?」

「……」

「自ら出頭させた方がいいと思いますけどぉ~」

「わ、分かりました」


 校長先生は重々しい口を開き、拳を強く握りしめる。

 こうなったことが悔しいのか。

 わたしに好き放題扱われていることが悔しいのか。

 どちらにしてもどうでもいい。


「そんなに縮こまらないでくださいぃ~。わたしの力で表には出すつもりはないのでぇ~」

「ありがとうございます、楓さん」

「いえいえぇ~。では、そろそろ行きましょうかぁ~」

「はい」


 校長先生によって男性教員四名が呼び出され、意識が戻りつつある四人の生徒を校長先生の最大十人乗りのワンボックスカーに連れて行く。

 四人の生徒の拘束を解き、男性教員に一人ずつ見させている感じだ。

 暴れられたらたまったものじゃないからね。


 ということで準備が完了。

 校長先生の運転席でわたしが助手席。

 他八人は後ろという形で警察署へ出発した。

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