64.「体育祭前日」
今週は月曜日から色々あり、火、水、木と体育祭の準備で忙しかったが、ついに今日は体育祭前日。
月曜日の件であの四人は退学したことを翌日に桜木先生から僕と橘だけで伝えられ、やっと僕は虐めから解放。
新しい日常ではないが、虐めっ子の停学中のような日常が当り前となった。
クラスメイトとは基本関わらないが、あの日以来体育祭関係で少し喋るように。
もう月曜日のような吐き気はなく、普通に会話できた。
「楠君、ボーっとしてないでこれ持ってください」
「あー悪い悪い」
僕はそう言いながら赤色コーンを橘から受け取る。
現在は放課後、明日の準備中である。
体操服が汗でビチョビチョで気持ち悪い。
でも、それはみんな同じ。
今日の午前授業は体育祭の競技練習。
午後は体育祭のリハーサルだった。
そのせいで、今日は一日中体操服。
「今日は暑いな」
「曇っていますが湿度が高いですからね」
「明日この暑さだったら死ぬ」
「死んだらお人形にして飾っておきますね」
「いや、怖いて」
「冗談ですよ冗談、ふふっ」
それは冗談でも怖い。
確かに僕も冗談を言った。
だが、冗談のレベルが五個ぐらい違う。
笑えないレベルだから。
「まぁでも、死んでも焼きたくないので、冷凍保存するかもです」
「へ、へー」
平然とした表情でそう言う橘に僕はこの反応。
さっきよりリアリティのある冗談は止めてほしい。
いや、これは冗談じゃないのか。
なら尚更やめてほしい。
寒気で暑さを感じなくなったぞ。
「あっ、亜夢ちゃん」
「こんにちは、山瀬さん」
山瀬は僕のクラスの体育祭実行委員の女子。
体育祭の準備をする中で話すことが増えた。
もちろん橘だけだが。
「二人はいつも一緒にいるね」
「そうですね。楠君は私がいないとダメなので」
「勉強はできるのに意外だね」
「意外というか勉強しかできないのですよ」
「おい」
流石の僕もその言葉にはツッコまずにはいられなかった。
だって、勉強しかできないとか酷くない?
他にも出来るし。
家事とか……橘がやってるけど。
運動とか……人並みには。
呼吸とか……みんなしてる。
橘は僕の「おい」を無視し、会話を続ける。
「それで山瀬さんは林君とどうなのですか?」
「どうって?」
「桜木先生が言ってたように恋とかです」
「ないない。全然タイプじゃないし」
山瀬は「笑わせるな」と言うような苦笑いを浮かべてそう言う。
あ、林どんまい。
お前はタイプじゃないってさ。
「でも、いつも楽しそうに接しているじゃないですか」
確かに。
最初の印象こそ、恥ずかしそうにしてたから物静かな女子と思っていたが、意外と喋ってよく笑う子である。
あの時は人前で手を挙げることが恥ずかしかっただけだったようだ。
「アレはその……優しさ的な感じかな?」
「優しさですか?」
「そう。やっぱり楽しくしないと林君も気分が落ちて仕事しなさそうだし」
「なるほど。そうだったのですね」
つまり、演技というわけですね。
林に仕事をさせるためだったとは……恐ろしい。
この子、小柄で可愛い系だけど中身はなかなかだ。
「そこー! 何喋ってるんだ!」
僕たちが立ち話をしているところを桜木先生に見つかった。
「桜木先生こそ、その格好は何ですか?」
「可愛いでしょ?」
僕たちはその可愛いでしょアピールに黙る。
だって、教師なのに生徒と同じように体操服を着てるんだよ?
しかも、足をさらけ出している。
とても綺麗で自分でも自慢の足なんだろうが、うん、何と言うか可愛いとは思わない。
どちらかというとセクシーだ。
「え、可愛いくない?」
「狙っている男性教師でもいるんですか?」
「うっ……」
山瀬の言葉が図星だったのか桜木先生は目を逸らし、口笛を吹いてどこに去って行った。
「桜木先生も乙女だね」
「そうですね。それよりそろそろ準備をしないと他の先生に怒られてしまいます」
「ここ目立つしね」
「はい。ではまた」
「うん、バイバーイ」
僕は頭一回ペコっと下げた。
一応、挨拶をしたつもりだ。
伝わっているかは別だが。
「楠君、準備しましょうか」
「だな」
結局この日は午後七時ぐらいまで準備。
その後、色々あり、帰宅したのは午後八時過ぎだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます