55.「体育倉庫を出た後【橘視点】」
私――橘亜夢は体育倉庫を飛び出した。
頭に入っている校内を小走りで必死に走る。
ここからトイレに一番近いのは校舎の中。
グラウンドにもトイレはあるが、体育倉庫からは真逆の位置。
「も、漏れそう……」
正直、もう出す気だったので先ほどより我慢が緩んでいる。
別に楠君の前なら私は問題なかった。
確かに恥ずかしい。けど、ただ恥ずかしいだけ。
それにあのまま桜木先生が来なかったら楠君も間違いなくトイレに行きたくなって、お互い恥ずかしい思いをして終わりだったはずだ。
「ちょ、えっ……」
学校の裏側にある校舎の扉の前まで着たが鍵が開いていない。
恐らく時間も時間だからほとんどの扉が閉められたのだと思う。
視線の先に校舎の中にある女子トイレが見えているというのに……。
ここから開いてる扉を探し回るなんて不可能。
そう思っていると限界が……来た。
私の下半身の扉がゆっくりと押されて開いて行く。
それを感じながらも止めることは出来ず、動くこともできない。
パンツが徐々に濡れ始めズボンへ。
ズボンの隙間から足へと流れていく。
靴が濡れるのはヤバいと思い急いで脱ぎ、何とかセーフ。
だが、相当溜まっていたのか止まらない。
同時に目からまた涙が出た。
「……どうして、どうして……」
幸い周りに人はいなかったが漏らしているということだけで、恥ずかしくておかしくなりそうだった。
これなら楠君に見られてでもコーンにする方がマシだったと思う。
百倍、ううん、千倍はマシだ。
数分後、全部出たようで止まった。
地面には水溜りが出来ていた。
残しておくなんて出来ないので、私は近くにあったホースを手に取り綺麗に流す。
一緒に下半身の方も水で流した。
「楠君にどんな顔で会えば……」
平然を装える気がしない。
心臓がバクバク言ってる。
ダメ……だ。
大抵のことは何とも思わない。
けど、これはダメ。
私は高校生である自分が、今この場所で漏らした事実を受け入れられない。
「はぁ……」
楠君の前では見せたことのないような重々しいため息をつく。
そして楠君を待たせるわけにもいかないので、靴を手に持って更衣室へ。
数分後。
私は着替え終わり、濡れている体操ズボンとパンツをたまたま鞄にあったビニール袋に入れて封印。
タオルで濡れた部分を拭き、汗拭きシートで匂いを取ったので、楠君にバレることはないと思う。
けど、パンツを履いていないので下半身がスース―して変な感じだ。
「橘、遅かったな」
「す、すみません。トイレに行っていたので」
「あー、そうだったな」
「はい」
私は如何にもトイレに間に合いました感を出し、自然と楠君の隣へ。
平然を装っているが心臓はバクバク。
漏らしたことがバレたらどうしようという思考が頭を渦巻いている。
が、平然を装えているので大丈夫そうだ。
「何とか帰れて良かったな」
「そうですね。ホッとしています」
「僕もだよ。あそこに一晩はキツいしな」
「私は楠君とならあそこに一晩いても大丈夫でしたよ」
私は柔らかな笑みを浮かべ、そう言うと楠君は少し黙り込む。
もしかして楠君は嫌だったのでしょうか?
反応されないと不安になりますね。
私と楠君の仲なら大丈夫だと思ったのですが……。
楠君は少し間を置き、口を開いた。
「ひ、一晩もいたら周りから変に思われるかもだろ?」
「確かにそうですが、アレは事故だったわけで――」
「事故でもそういう想像する人がいるんだよ!」
一体何の想像でしょうか?
楠君は頬を染め、何故か恥ずかしそうに顔を下に向ける。
それを変に思っていると楠君は急に口を開いた。
「それよりスカート長くないか?」
「えっ?」
いきなり楠君がそんなことを言うものだから私の口から変な声が出る。
パンツを履いていないからスースーするという理由で長めに調節したのが、そこを指摘されるとは驚きだ。
これではパンツを履いていないと思われ、同時に漏らしたことがバレてしまう。
どうしよう……。
どうしよう……
どうしよう……。
「だって、いつもはもっと短いじゃん?」
「そ、そそそ、そうですね。急いでいたので忘れていたのだと思います」
私は何とかそう答え、すぐにスカートを短くする。
中がスースーするが、漏らしたことをバレる方が嫌だ。
それにパンツを見られなければバレることはない。
あ、パンツを履いてないからバレないのでは?
何故そんな簡単なことに今まで気付けなかったのか。
でも、それに気付いたおかげで心臓が落ち着く。
「そっちの方が違和感ないな」
「そうですか? それより楠君はスカートの長さなど見ているのですね」
「い、いや、ちが……わないな。まぁ少し気になっただけだ」
「そうですか」
その後、無事にバレずに家に着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます