58.「停学終了――虐めっ子【2】」

 僕は四人の虐めっ子にガッチリ掴まれ抵抗できず、空き教室に連れ去られていた。

 運悪く先生にすれ違わなかったということもあり現在に至る。


 それにしても、虐めを長年受けてきたがこんなことは初めて。

 私物を壊されたり、捨てられることがほとんど。

 その他はトイレ中に水をかけられたり、わざとぶつかられたり。

 だから、直接連行され、何かされるのは先ほども言ったが初。


「いやぁ~、やっとこの日が来たわ」


 嬉しそうに楽しそうに笑う虐めっ子たち。

 停学中に反省した感じはない。

 次はどのように虐めてやろうと考えていたのだろう。


 それより僕の頭と体は虐められる感覚が戻って来たようで、こんな状況だというのに僕の精神は落ち着きつつあった。

 本当に慣れとは怖い。

 先ほどの僕が嘘のようで、どんどんと目の前の光景が普通に見えてくる。

 これが普段でこれが普通。

 何もおかしく見えない。


「でさ、何でこうなったか分かる?」


 僕はガムテープで口を塞がれているため喋れないので顔を横に振る。

 実際は分かっていたが、どうせ答えらえないので知らないフリをした。

 ガムテープを外すことなんてしないはずだからな。


 先ほどのホッケー部の女子との会話を聞く限り、停学によって春の大会に出れなかったことが原因と思われる。

 そのどこにも当てられない悔しさを停学になった原因である僕に当てようとしているといったところだろう。

 自分が虐めをしたせいで停学になったのに、僕のせいにするとは滅茶苦茶だ。


「それはな!」


 喋りながら野球部エースはこちらに来る。

 そして前髪を雑に掴まれた。


「俺ら四人を停学にしたからだ」


 停学にしたのは僕ではなく学校側。

 全く僕は関係ない。


「そのせいで主力選手がいなかった野球部は春の大会一回戦負け」


 この四人は野球部の主力選手らしい。

 確かによく見ると髪が短い。


「何キョロキョロしてんだ? あん?」

「……」


 問われても答えられないんだって。

 ガムテープをどうにかしてから問いてほしい。


「まぁいいわ。はぁ……てかさ、さっきのおどおどした感じはどうした?」

「確かにさっきより落ち着いているような」

「だろ?」


 そんな会話を始める虐めっ子たち。


「もしかしてクラスメイトに助けてもらうための演技だったとか?」


 野球部のエースさん。

 僕はそんな器用なことは出来ません。

 演技が出来るなら今頃お金のために俳優を目指しているよ。


「あり得るな」

「今回は強引でしたからね」

「うんうん」


 他の三人も僕を何だと思ってるの。

 虐めている相手を過大評価しすぎ。

 もう少しなかったのか?

 精神喪失してるとかさ。


「まぁ何でもいいけどさ、その面はやっぱ嫌いだわ」


 それは知らん。

 じゃあ違う奴を虐めてくれ。

 あ、橘を虐めていたのに僕が邪魔したのか。

 完全に忘れていた。


「お前ら、手足もガムテープで縛れ」


 野球部エースの指示に三人はすぐさま反応。

 僕は手首、足首をガムテープでしっかり縛られ、地面に倒された。

 虐めというか拉致されている気分だ。


 ところで、僕は何でこんなに冷静なのか。

 実はドМだったとか?

 いや、ないない。

 多分、僕が二回も死にかけたからだろう。

 そのせいでそれ以上の恐怖をあまり感じなくなったのだと思う。


 そう考えると先ほど恐怖していた原因はこいつらではない。

 恐らく恐怖の原因は幸せな日々を急に壊されかけたからだ。


「そろそろサンドバッグになってもらおうか!」


 でも、今はもうそんな心配はしていない。

 こいつらはこの虐めが最後となる。

 停学あけ初日にこんなことをすれば、退学は避けられないからな。

 つまり、幸せな日常は終わらない。

 だから、こんなにも冷静でいられる。

 怪我はする。

 けど、死にはしない。

 それが僕に安心感を覚えさせている。


「三人とも殺すなよ?」

「当り前」

「当然だよ」

「うんうん」


 四人がそう言いながら、ブレザーの内ポケットから取り出したのは……


 ――果物ナイフ!


 僕はそれを目にして頭が真っ白になった。

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