49.「コンビニ【2】」

 いつも以上の密着により気まずくなる僕たち。

 こういう時、橘はいつも自然体なのだが流石に今回はそうもいかないようだ。

 もちろん僕もそうで心臓がうるさい。

 橘のお腹に回している手や当たってる肩から心音が響いてないか気になるぐらい。

 正直、こんなことは初めて。


 僕は心を落ち着かせるため深呼吸をする。

 少し落ち着いたことを確認し、これ以上気まずくならないような言葉を頭に浮かべて口を開いた。


「な、なんか熱いなぁ~」

「そうですね。少し汗を掻いたかもしれないです」

「僕も」


 僕のたどたどしい口調に対し、橘はいつもより元気がない口調。

 やはりこの雰囲気をどうにかしないとな。

 僕が招いた雰囲気だ。

 ここは話を一気に変えるしかない。


「あ、そうだ! 僕もそのギリギリ君の金平糖味を食べようかな?」

「本当ですか!?」


 その言葉を聞いた途端、橘の元気が元に戻った。

 どこにそのスイッチがあったかは知らないがラッキーである。

 てか、距離がまた近い。

 テンションが上がっているからだろう。


「あ、ああ」

「では、このコンビニにあるギリギリ君の金平糖味を全て購入しましょう!」

「そ、そんなに食えないぞ?」

「何個あってもアイスは腐りません。それに期間限定なのですよ!」


 嬉しそうにそう言うと橘は「次は転ばないように注意してくださいね」と一言。

 僕たちはギリギリ君の金平糖味を全てカゴに入れてレジへ。


 そのカゴを僕は『これが大人買いか』と思いながら見つめる。

 一体、何個あるんだろうか?

 コンビニのカゴがいっぱいなるなんて三十個は超えてそうだ。

 まぁアイスでコンビニのカゴをいっぱいにしたことなどないから実際には分からないがな。


「うわっ!」


 レジに置かれたカゴを見て店員さんも思わずそんな声をあげる。

 そらそうなるだろう。

 この数を見て驚かない人の方がおかしい。


 店員さんは地道に数を数えていく。

 それは長く長く長い。

 でも、仕方ないとしか言いようがない。


「ギリギリ君の金平糖味を四十六個で五千六十円です」


 これだけ買っても五千円代。

 ギリギリ君はやはり安い。


「一万円お預かりします」


 この店員さんも大変だな。

 ギリギリ君の数を数えて、袋に入れて、会計とはな。


 てか、よく見たらコンビニの制服の下って僕たちが通う高校の制服じゃないか?

 それにこの女の子どこかで見たような……。

 もうそこまで答えがある感じなのだが出そうで出ない。

 絶対に見たことはあるはずなのに。

 あぁー頭がモヤモヤする。

 この感覚……嫌いだ。


「四千九百四十円とレシートと品物です」

「楠君、ギリギリ君を貰ってください」

「分かった……って、おもっ!」


 橘は財布にお金を入れる。

 僕は手を回してない方の手で袋を持つ。


「重そうなので私も持ちますよ」

「それは助かる」


 この量ということで二人で持つことにした。

 袋が破れないか心配だが、袋が何枚か重ねられている。

 店員さんの気遣いだろう。


「ありがとうございました」


 僕たちは二人三脚のまま手に袋を持ちコンビニを出る。

 しかし、この状態で転んだら大惨事だな。

 気を付けて帰らないと。


「店員さん焦っていたな」

「新人さんでしたからね」


 すぐに新人と分かるあたり初めて見る顔だったのだろう。

 確かに手際は少し悪かったけど。

 それでもあの量だから仕方ない気がする。


「へー。そう言えば、僕たちと同じ制服だったよな?」

「そうでしたね」

「僕たちの学校ってバイトは大丈夫なのか?」

「ダメですよ」

「じゃあ校則違反なのか?」

「そうなりますね」


 校則違反か。

 高校生ならバイトしたくなるもんな。

 僕はしたことないけど。


「先生に言うのか?」

「いえ、何か彼女にも事情があるのでしょう。私は言うつもりはないですよ」

「なんか意外だな」

「別に私たちが危害を受けたわけではないですしね」

「なるほどな」


 橘は真面目だけど基本は危害を加える相手にしか対抗しないらしい。

 無害の者は見逃す。

 案外、普通というか優等生と思っていただけあって驚きだ。


 ということは僕がバイトしてもオッケーをくれるのでは?

 少しでも自分のお金を手に入れておきたいからな。


「楠君、顔がニヤケてますよ?」

「そ、そそそ、そんなことないよ」

「大体考えていることは分かります。どうせ『バイトさせてもらえるのでは?』などと考えていたのでしょう?」

「うっ……」


 えっ、何で橘が分かったの?

 あの橘が僕の心を読んだというのか?

 橘は人の心を読み取るのが不得意だったばすだ。

 もしかして僕と一緒にいる時間が長いから読み取れるようになったのか?

 たまたまじゃなくて?

 なんか嬉しいような。

 面倒になったような……。


「残念ですがそれはダメです」

「な、何でだよ」

「校則違反だからです!」

「でもさっきは――」

「うちはうち! よそはよそです!」


 なんか母親が言いそうなことを言われた。

 実際、母に言われたような気もする。

 とにかく僕がバイトでお金を貯めることは高校在学中は無理そうだ。

 橘に養われている以上はほとんどの権限は橘にある。

 逆らうことはしない、否、出来ない。


 僕たちは楽しく雑談をしながら無事帰宅。

 その後、家でこめかみをジンジンさせながらギリギリ君の金平糖味を食べた。

 うん、普通に砂糖だった。

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