50.「体育祭の準備【楓編】」

「入金の確認できましたぁ~。それではまた機会がありましたらよろしくお願いいたしますぅ~とお伝えくださいぃ~」


 ――ピッ!


 わたしはそれだけ言い、素早く電話を切る。

 お仕事がやっと終わり、お金の方がやっと手に入った。


 その前にわたしの名前は桜木楓。

 高校生三年の普通ではない女子高校生。

 姉は教師。親は無職で現在は世界旅行中。

 わたしはそんな特殊な家族の一人である。


 今の電話相手はお仕事の依頼があったサウジアラビアの石油企業の翻訳者。

 お仕事はプログラム関係でわたしオリジナルのプログラムでセキュリティを強化したいということだった。

 最近はネット社会となり、ネット犯罪が多い。

 サウジアラビアの企業はかなり苦労していたみたいだ。


 わたしは基本お仕事を受けないが、今回はお金が欲しかったこと、お仕事内容がわたしにとって簡単だったことから承諾した。

 一週間ほどでセキュリティプログラムを作り企業の方へ。

 それでお試し期間を数週間。

 セキュリティのクオリティを認められ、やっと今日お金の方が入金された。

 お仕事の依頼で支払われた額は約二十二億円。

 流石、サウジアラビアの石油企業。

 だが、それぐらいわたしには価値がある。

 それは世界が認め、わたしも認めていることだ。


「はぁ……二十二億円かぁ~。これで足りるといいけどぉ~」


 わたしはそう言いながら体を伸びする。

 ずっと椅子に座っていると本当に肩や首が凝って仕方がない。

 まぁこの大きなおっぱいのせいでもあるが、そこはわたしの魅了の一つでもあるので文句を言う気は毛頭ない。

 唯一母から受け継いだ遺伝子。

 姉さんも立派なものをもっている。


「そろそろアメリカの方の企業に電話しないとなぁ~」


 最近は海外の企業との電話が多い。

 一つお仕事を受けたことで、他の企業や政府、大学から依頼がまた殺到しているのだ。

 しかし、このアメリカの企業は別。

 わたしの方から依頼している。

 その理由はものを作るためだ。


 約束の時間となり、わたしは電話をかける。


「もしもしぃ~、お久しぶりですぅ~」

「お久しぶりです、楓さん」


 電話に出るのはもちろん翻訳者。

 わたしは英語が出来ないわけではないが、この口調のせいか英語を喋るのに向いていない。

 というわけで翻訳者を通して会話しているのだ。


「設計図とプログラムなどを一ヶ月半ぐらい前に出しましたがぁ~、どれぐらい進みましたかぁ?」


 海外電話及び翻訳者を通しているので、少しタイムラグがあるがもう慣れた。

 別に焦って電話しているわけでもないし、相手もそこは考慮してある程度の時間は作っているはずだ。


「現在の進行度は完成間近で、今は細かい部分の修正や安全性の確認をしております」

「それを聞けて少し安心しましたぁ~。そちらの企業様に任せて良かったですぅ~」

「いえいえ、こちらこそ我が企業に素晴らしい依頼をありがとうございます」


 翻訳者が話しているのに、嬉しそうな声で「センキューセンキュー」と聞こえてくる。

 企業の方は相当この依頼が嬉しかったのだろう。

 わたしから依頼など滅多に、否、まずないから当然だ。


「それで完成はいつ頃になりそうですかぁ?」

「六月中旬を予定しております」

「そうですかぁ~。日本に送ることも考えてぇ~、完成は六月十五日を目安にぃ~。日本到着は遅くても十八日にお願いしますぅ~」

「かしこまりました。最高の商品をお送りします」

「その際ですがぁ~、プライベートジェット機でお願いしますぅ~。破損などはこちらとしては最悪な事態になるのでぇ~。もちろんプライベートジェット機の費用に関してはぁ~、こちらが負担しますねぇ~」


 プライベートジェット機ぐらい安いもの。

 手配の方はもう済んでいる。

 故障、破損だけは避けたいからね。

 これまでの計画が全てパーになっては困る。


 少し長い言葉ということもあって返事が遅い。

 んー、それにしても遅い気がする。


「プライベートジェット機ぐらいならこちらで出しますが?」

「大丈夫ですぅ~。もう手配は済んでいるので、電話後にその手配先の連絡先を教えますねぇ~」

「分かりました」


 企業としてはわたしに費用など出させたくないはずだ。

 別にわたしは気にしないが、恐らくこれからも良好な関係でいたいと考えている企業側はある程度のことは負担するつもりだったのだろう。

 正直、負担されようがされまいが、企業に頼むか頼まないかはわたし次第。

 今回はわたしがものを作りたかったから依頼しただけ。

 別にそれ以外の理由はない。


「後は商品についてですがぁ~、企業様が自由に販売してくださいぃ~。最初の契約通りぃ~、こちらは売上金を一切受け取るつもりはないのでぇ~」

「そちらも分かりました。では、完成次第またお電話させてもらいます」

「了解ですぅ~。それでは失礼しますぅ~」


 ――ピッ!


 それだけ言って電話を切る。

 長々と話すことは面倒な上に、向こうに気を遣わせてしまうからね。


 それにしても、依頼していた物が順調に作られているようで一安心。

 体育祭のために四月から準備してきたこの計画。

 わたしにとって最後の体育祭。

 絶対に最高のものにしたい。


「はぁ……疲れたよぉ~。また早くお喋りしたいなぁ~」


 私はそう呟きながら、パソコンの画面に映る一人の男子を見つめるのであった。

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