48.「コンビニ【1】」
二人三脚で少し筋肉痛の晩。
僕たちは二人三脚をしていた。
「コンビニに行くのにわざわざ二人三脚する必要あったか?」
「夕方、コツを掴んだので早く練習がしたかったのです」
足に付けているのは二人三脚用のマジックテープ。
昨日ネット通販で買ったらしい。
ネット通販は優秀だ。
それをマンションの外からコンビニまで付けながら歩いるのだが、なかなか神経を使うので疲れる。
お風呂に入ったのにまた汗を掻きそうだ。
「でも、明日でも良かったんじゃ――」
「別にいいではありませんか。コンビニに行くついでです」
「まぁそうだけど、周りから変に見られてるような気もするが」
「もう慣れっこです。楠君もそうでしょ?」
「まぁそうだが」
現在の時刻は午後九時四十分ぐらい。
時間も時間だ。
外にはあまり人はいない。
けど、やはり夕方の二人三脚の方法で道を歩くのは恥ずかしい。
それに二人ともお風呂上り。
イイ匂いだし、梅雨で湿気もあるので薄着のパジャマ。
体の感触が昼よりしっかり感じられ、何度嗅いでも飽きない橘の匂いが僕の鼻孔を遊ぶようにくすぐる。
橘との密着はよくあるが正直慣れない。
僕も一応思春期の男子高校生だ。
当然だろう。
平然とした感じでいる橘がおかしいのである。
「一、二も言わずに会話しながらコンビニまで着きましたね」
「そう言えば、かなり安定感あったな」
僕たちはそのままコンビニへ。
変な客だと思われるが仕方ない。
今の橘は二人三脚の安定感を嬉しく思っている。
このマジックテープを外してはくれないだろう。
「で、何を買うのでしたっけ?」
「お風呂上りのアイスだろ? 今日からコンビニ期間限定のアイスが出るから買いに行きたいって橘が言っていたのに忘れていたのか?」
「そうでしたそうでした。二人三脚に熱中しちゃって、えへへ」
僕に言われて思い出したのか、笑みを浮かべてそう言う。
橘は意外と忘れっぽい。
しっかりしているように見えて抜けている。
ところで、コンビニとは久しぶりだ。
橘に養われてからは初めて。
その前はよく使っていた。
お金持ちの橘のことだからコンビニなんて行かないと思っていたが、案外普通に使うようだ。
それだけコンビニが有能ということなのだろう。
「あ、ありました! これです! これ!」
「ギリギリ君の金平糖味?」
「ですです! 私、ギリギリ君の新作は全て食べるのです」
「へー、好きなんだな」
「大好きです!」
――ドクンっ!
満面の笑みを向けられ、大好きという言葉に思わず心臓が跳ねる。
自分に向けられた言葉ではないというのに、距離感が声音が笑みが自分に対してだと錯覚させてくる。
ダメだ、ダメ。
一体、何で僕は過剰反応しているんだ。
橘は友達。
特殊な関係性だが友達だろ。
無になれ。無になれ。無になれ。
大丈夫だ。大丈夫。大丈夫だ僕。
「どうかされましたか?」
「あ、いや、何でもない」
僕を覗き込むように見て来る橘。
平然を装い、会計を済ませるように僕は言い、レジへ。
「あっ――」
「おっ、危なかったぁ……」
僕が先に行ってしまい、橘が転びかけてしまう。
が、何とか体を引き寄せてセーフ。
しかし、先ほどまであった距離はなくなった。
体は0センチ。顔は数センチ。
「あ、あの……」
「わっ、悪い。二人三脚してたこと忘れてたよ」
「もー、気をつけてくださいよ!」
「あ、ああ」
橘は平然とした笑顔でそう言ってきたが、頬は少し赤かった。
それから橘はゆっくりと僕の体から離れる。
そして僕から目を逸らし、真っ赤な耳に髪をかけた。
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